第7話 晴れ、ときどき、電車

 広島市街地の中心には、大通おおどおりを走る路面ろめん電車がある。いや、あったと言うべきか。

 かつて、チンチン電車として市民にしたわれ、交通手段となっていた大きな電車は、いまや、広島の空をふんわりと飛んでいた。

 その姿は、まるで鳥のようである。

 自力で飛んでいるわけではなかった。一人の魔法少女のせいだった。


「ごらんください。あれを!」

 テレビアナウンサーらしき女が、地上で空飛ぶ電車を指さす。

 大通りに、多くの見物人とマスコミが集まっていた。好奇心を満たすためであった。その人たちを、警察官たちは、必死で、道から遠ざけようとしていた。

 制服を着た警察官が、がなり声を上げる。「危ないから、もっと下がって!用事のない人は、建物の中へ入ってください!」


 だが、多くの人間は、その場から動こうとしない。火事場を目の前にした心理と似たようなものだろう。

 刑事も数人、来ていた。

 彼女らは、スピーカーを使って、離れた場所から、犯人の魔法少女を説得しようとした。

「そこの魔法少女にぐ!路面電車をゆっくりと降ろしなさい。それとも、要求があるなら、言いなさい」

 大通りの車道は規制されて、車が一台も通っていなかった。

 その道ばたで座り込んでいた魔法少女が叫んだ。

「近づかないで。カネよ!8000万円もってきて!」


 お昼ごろ、中学生の制服を着た魔法少女は、魔法を使って、走っていた路面電車をちゅうに浮かせた。中には客が乗っているにもかかわらずである。そのまま、ビル10階の高さまで、上昇させた。

 彼女を銃で撃てば、魔法の効果が切れて、客もろとも、電車が地面にぶつかりかねない。

 そう考えた刑事たちは、銃を出せずにいた。説得も無駄だった。

 犯人の魔法少女の目的は、明らかに、お金だった。

「カネを早く持ってきて!何で遅いの!落とすよ!」といらだつように、魔法少女が言い放つ。


 ガマンの限界だ。

 あの電車を落とすだろう。


 その場にいる誰もが覚悟かくごした。

 あんな高さから電車を落とせば、中の人間は死ぬだろう。どれだけの数か。

 刑事の一人が天を見つめた。はしご車と自衛隊のヘリコプターで救助する案は、ダメだった。ヘリと車が近寄ったら落とすと、魔法少女がおどしてきたからだ。

 自衛隊がダメとなると、残された手段は一つだった。


 魔法機動隊。

 魔法少女からる警察組織の部隊。

 目には目を。魔法少女には魔法少女を。

 魔法で電車を浮き上がらせたのであれば、同じく、魔法でろせるはずである。


 その時、刑事たちの前を、奇妙な物体が横切った。


 でこぼことした黄色い表面にコーティングされた車。その車体の形は、まるで、ハロウィーンの大きなカボチャである。カボチャのように、天井がぼっこりとふくらんでいた。

 さらに、奇妙なことには、パトカーに見られるような赤色のサイレン灯が、ぴかぴかと光りながら、その丸い天井にえ付けられていたのである。


 刑事たちはあ然とした。

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