第6話 魔界金融道

 サニーが魔法の呪文じゅもんとなえると、彼女の10円玉は消えてしまった。


「消えるのは10円玉だけですか?」と好子はサニーのサイフのほうを見た。

「さっきの炎魔法は、10円の価値しかなかったのよ。だから、所有していた10円玉が消えたの。これが大規模で、高等の魔法だと、自分が持っている何万、何億という金が消えるの」


 サニーが言うには、魔法を使うたびに、自分名義の銀行口座の残高も減っていくらしい。つまり、魔法を使おうと思えば、お金が必要になってくるのだ。

「――もちろん、お金がない貧乏びんぼうな魔法少女は、別のものをうばわれるの」

「先輩、別のものって?」

「命よ。ジーパンさん。身近な人か、自分の命が取られるってわけ」

 つまり、お金が払えない魔法少女は、誰かの命を差し出さなければならないわけだ。


 ――ということは、私には、お金が必要だ

 でも、ちょっと、待って


 好子は、大変な事実に気が付いた。

「私、まだ、お給与もらってないから、自分の財産がないんですけど?」

 警察官の給与は、銀行の振り込みだ。まだ、振り込み日まで、相当な日数があった。

 その間は、魔法を使えないのだ。

 サニーがため息をつく。

「そうよ。私が最悪だと言ったのは、そういう意味よ。ジーパンさん、あんたが魔法を使うと、あんたが死ぬの。あんた、魔法を使っちゃいけない、ただのナマイキな小学生なのよ」

「そんな……。この仕事って、確か、魔法が必要なんですよね」

「『魔法』機動隊 第08『魔法』少女小隊なのよ。戦力にならない子供のおりを、なんで、このあたしがやらなきゃいけないわけ?」とサニーはき捨てるように言う。


「じゃ、警察がお金を払ってくれれば……」

「バカね。魔法を使っても、領収書が出ないでしょ。――経費で落とせないよ」と即座そくざに、サニーは否定した。

「じゃあ、サニー先輩、お金を貸してください。あとで返します」

「最悪なことに、あたしも今月はふところがピンチなの」とサニーは高級そうなバッグを見つめた。

「だったら、家族と親せきから金を借ります」

「不思議なことに、血がつながった者や、友達からもらったお金は、自分の財産ものにできない。それができるんだったら、今ごろ、あたしは親せき中を脅迫きょうはくしまくって、金を巻き上げてるって」とサニーは警官にあるまじきことを言う。


 好子は考えた。何か、良いアイデアがあるはずだ。考えろ。

 とはいっても、うまいアイデアなど小学5年生の頭で浮かぶはずがない。

 あきらめるしかないのか。

 今日は仕事を早退そうたいしようと、好子が口を開きかけたとき、サニーはつぶやくように言った。

「お金や命をなくならないようにする方法がないわけではないのよね……」

 好子は聞き返した。「え?何かおくの手があるんですか?」

「そうね。あるにはあるのだけれど――ヤッタ・ゼフラン・キスの法則を使えば、あるいは――」


 ふざけた名前の法則だった。

 だが、名前はどうでもいい。

 大事なのは、魔法を使えるということだ。


「教えてください。先輩!そのヤッタなんとかキスの法則のことを」好子はサニーをせかした。

「二人の魔法少女が、ある儀式ぎしきをすれば、3分間だけ、魔法を使い放題にできるという法則よ。お金も命も必要ないわけ」

「すごいじゃないですか!ぜひ、その儀式を教えて――」

 好子が言い終わる前に、部屋にそなえられていたベルが鳴った。


 じりじりじりと、学校の非常ベルによく似た音が、部屋に響き渡る。

「もっと最悪の事態ね」とサニーはなげいた。


 その音は、第08魔法少女ゼロハチ小隊に緊急出動を要請する音だった。

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