第3話 児童刑事ジーパン

「お前さんたち、なにをやってるのだわさ?」

 部屋に入ってきたのは、魔法機動隊の制服を着た女性だった。制服といっても、青と黒のコントラストが目立つ、冒険の探検家が着るような丈夫じょうぶな服である。それが体を大きく見せた。背が高く、天井に頭が届きそうなくらいだった。

着任早々ちゃくにんそうそう、大さわぎだわね――。二人とも、ケンカはやめてちょうだい。桜サニー巡査長、友好子巡査」

 彼女こそ、この小隊をまとめる隊長のなぎさ 黒子くろこであった。


 好子とサニーは、それぞれが自分の言いぶんを、彼女へ話した。彼女はうなずくようにして、部下たちの話に耳を傾けた。


 見た目が40歳を超えていそうで、大柄おおがらな黒子は、その声も太く大きかった。「――事情は分かったわさ。サニー、これはお前の説明不足によるものだわな。この子はまだ、ここに入ってから一日もたっていないのだから、マジカル死帳しちょうを知らなかったとしても、仕方のないことなのだわ」

「マジカル死帳?」

 好子にとって、その言葉は初耳だった。

 何かの魔法道具らしい。


「サニー、マジカル死帳について、説明してやりなさい」と黒子が命令すると、サニーは立ち上がって、説明を始めた。

「マジカル死帳とは、魔力が込められたノートのことよ。昔から、暗殺の道具として使われた来た。そこに名前を書くと、本名を書かれた人は死ぬわけ。マジカル死帳を使えるのは、魔法少女のみよ」


 そんな危険なものがあるなんて……。


 何も知らなかった好子は、背中から汗が流れるのを感じた。

 生まれて初めて感じる恐怖だった。

 自分の名前が魔法少女に知られるだけで、身を危険にさらされることになるからだ。

 サニーが、さらに説明を続ける。「私たちが相手をする者の中に、魔法少女もいるわ。偽名ぎめいやニックネームを敵に知られても大丈夫よ。……でも、もし、万が一、本名を知られることがあれば、その時は敵の魔法少女たちに殺されてしまう。本名を知られないように、魔法機動隊の隊員たちは、ニックネームで呼び合うのが通例なわけ。わかる?」

「わかりました……」と好子がしょんぼりして肩を落とした。

 黒子が好子の方を向いて、語りかけた。

「だから、私たちは、新人にニックネームをつけてあげるのが習慣なのさ。あなたは今日から、ジーパンと呼んであげるわさ」


 そうなのか。私はジーパンと呼ばれる運命だったのか。

 ん?

 まてよ――。


「ひょっとして、ジーパンじゃなくても、ほかの名前でもいいんじゃないですか。――例えば、『セーラー服美少女戦士』でも?」と好子が案を出した。

「そもそも、あんた、セーラー服を着てないでしょ」と好子の服装をながめたうえで、サニーが冷ややかに言った。


 好子は負けじと聞いた。

「じゃあ、先輩のニックネームはなんですか?」

「私はサニーよ。だけど、名前の表記が、カタカナの『サニー』じゃないわけ。私の本当の名前は、かなり難しい漢字を書くの。わかる?」


「ちなみに、私は『17歳の魔法少女』と呼ばれているだわさ。今度からは『17歳さん』と呼んでちょうだい。『じゅうななさい』よ」と目尻めじりにシワを寄せながら、黒子が念を押すように言う。


 こうして、好子は「ジーパン」と呼ばれるようになった。


 その日、事件は起こらなかったので、午後8時に、小学生の好子とサニーは帰らされた。

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