第2話 第08魔法少女小隊


 廊下を進んだ友 好子は、「広島県警 魔法機動隊 第08魔法少女小隊 待機室」と書かれた立てカンバンを見つけた。その奥に、ひっそりと待機室らしき部屋があった。

 

 ここがそうなんだ。

 わたし、ついに、あこがれのおまわりさんになれるんだ。


 彼女はカンバンを見て、決意を固くした。

 軽く、深呼吸をする。

 いよいよ、部屋のドアを開けようとしたとき、中から女の子の声がした。

「入ったら?」


 きれいな声。

 まるで、天使のような美しい声。


 感動した好子が部屋へ入った。

 待機室には、スチール机が二列ほど並べてあって、あとは、ホワイトボードが奥に置かれているだけである。白い壁と、つるつるとした白い床のせいか、部屋は明るかった。


 一人の女の子が、その机の一つに座っていた。きれいな声の主にちがいない。

 その子の服を見ると、ブレザーとスカートを着ている。どちらも紺色こんいろで、清楚せいそさを感じられた。長くて光り輝く黒髪がよく似合う。

 好子よりも身長が高く、スタイルもよさそうだ。警察官でなければ、女優か読者モデルになれただろう。

 スカートから伸びる長い足は、まるでカモシカのようだ。


 好子が見とれていると、スズを転がすような声で、黒髪の少女は言った。

「あんたさ、新しく入ってきた人だろ?この第08魔法少女小隊ゼロハチにさ。だったら、先輩せんぱいにアイサツぐらいしても、いいでしょうよ」

 あわてて、好子は自己紹介をした。

「今度、新しく第08魔法少女小隊に配属された友 よし子巡査じゅんさであります。今年で、小学校5年生となりました。クラスメイトからはトモちゃん、と呼ばれております。星座はかに座。血液型はA型。好きな食べ物は、大盛りパフェであります」

「ああ、そういうのはいいから。あたしはそういうのに興味がないの。つまり、あなたの趣味は何ですか?と聞きたいって意味じゃないの。学校ごっこを楽しむのはイヤ。えっと、ジーパンさん、わかる?」


 わかるか!


 だんだんと、好子は腹が立ってきた。これほど、上から見下みくだした目線で語りかけてくる少女に出会ったことはなかった。


 黒髪の少女は、ため息をついた。回転イスを回して、足を組んで、今度は自分の名前を告げた。「あたしの名前はさくら サニー。あんたと同じく、ゼロハチに所属している隊員。巡査長。担当は隊長補佐ほさ代理。何か質問は?ジーパンさん」

「その、わたしを『ジーパンさん』と呼ぶのは、やめていただけますか?」と、怒りがおさまらない好子は抵抗した。

「……じゃあ、ゴリさん」

「ゴリもジーパンも、どちらもイヤです」

 考え込んだサニーは、めんどくさそうに頭を横に振った。「まあ、いいや」


 好子は、このようなタイプの女が苦手であった。

 年はいくつか知らないが、彼女とそう離れてはなさそうだ。サニーのおさない顔だちは、小学生そのものである。

 だが、目がりんとしてすずしげである。サニーは大人びている。

 机の上には、これ見よがしに、エルメスの手さげバッグが置いてあった。


 わたしなんて、安物やすもののポーチなのに……。

 くやしい。


 敗北感を与えられた。それが、好子の怒りに火をつけた。

「私には、友 好子という親からもらった立派りっぱな名前があります。それで呼んでください!」

「あんた、何もわかってない」

「は?どういう意味で――」と好子が言いかけたとき、部屋に入ってくる者がいた。

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