魔法少女警察24時

村上玄太郎

第1章 おまわりさんは魔法少女

第1話 魔法少女よしこちゃん

 とも 好子よしこが広島の警察を訪れたのは、今までで三回である。


 一度目は、5才の幼稚園児だったとき、住んでいた近くの太田川を、魔法で干上ひあがらせたため、警察に補導ほどうされて連れてこられたのだ。


 二度目は、7歳のとき。

 魔法を使って、竜巻を起こし、電柱を二、三個ほど、なぎ倒してしまった。


 一度目も二度目も、おとがめはなかった。なぜ、これほどの罪を犯しながら、裁判にならなかったのかと、不思議に思う人がいるかもしれない。

 というのも、仕方がない事情がある。法律が魔法を想定していないせいなのだ。魔法を使ったことを科学的に証明できるものは、だれもいなかったので、事件は自然災害だろうと言うことで片付けられた。


 ところで、三度目は犯罪ではなかった。

 10歳の彼女は、警察官になっていた。


 広島県警本部は、壁が近代風のきれいなタイルで敷きつめられた、どっしりとした建物の中にある。その建物の中を、半袖はんそでのダボダボしたTシャツを着て、ジーパンをはいた10才の女の子が、目をきょろきょろさせながら歩いていた。

 すると、廊下ろうかですれ違った若い女性の警察官が、ふり向いた。


 今は、夕方なのに。

 どこかの学校の帰りだろうか?


 疑問に思った女性の警察官は、優しく声をかけた。

「どうしたん?あなた、迷子になったん?」

「そうなんです」とジーパンの女の子は、困り果てた顔で答えた。「――えっと、魔法機動隊の第08ぜろはち魔法少女小隊しょうたいはどこにあるんですか?」

 あやうく、女性警官はあっと声を上げそうになった。


 このジーパンの女の子はあそこへ行くらしい。

 となれば、……あそこの関係者だ。


 考えてみれば、あどけない顔をしているが、一人で少女が県警本部を出歩くのは不自然だった。

「失礼しました。マ動隊の第08魔法少女小隊の待機たいき室は、あ、……あちらです」と声をふるわせながら、警官は少女に行き先を教えて、手を合わせた。「どうか、命ばかりはお助けください」


「ありがとうございます」

 ぺこんと、ジーパン少女はおさげ頭を下げる。

 しかし、お礼を言うか言わないうちに、女性警官はその場から逃げ去ってしまっていた。

 逃げるのは当然だろう。

 なぜなら、2か月前、彼女の同僚どうりょう警官が、とある魔法少女によって、みにくいヒキガエルにされてしまっていたからだ。ウワサでは、どこかの池で、両生類としての人生を過ごしていると聞く。魔法少女が魔法を使う。これほど恐ろしいものはなかった。

 確かに、女性警官の逃亡という行動は、正しかった。

 このジーパン少女こそ、だれあろう、友 好子その人だったからである。

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