24 素敵な仲間達
まだ万全でないという
いつまた荒事になるかわからないもの。不意打ちさえなければ、このふたりがこちら側にいてくれるのは心強いわ。
「おぉすげぇな姉ちゃん。どうなってんだこりゃ」
「光栄ですわジギーさん」
うふ。姉ちゃんですって。
さすが豪胆な方ねぇ、細かいことは気にしないって言って、そのまま受け止めてくださったわ。
「普段より調子がいいくらいだ。いや本当にありがたい」
「でもまだ無理はなさらないでねナイルさん。傷は治っても血は戻ってないでしょうから」
「それが特に貧血もない。あれだけ血を流したのに翌日起き上がれるなんてまずないんだが」
「さすが、頑丈でいらっしゃるのねぇ」
「……レイ」
あらランディその目はなぁに?
あたし何かしたかしらねおほほほほ!
「動けるならよし、たっぷり働いてもらうぞ」
「わははは!
「まったく、孫かわいさに引退しただけであんたもまだまだイケるだろ」
「ふん!」
今なんだか聞きたくないワードが出てきたわね? 「
んもぉ~それ昔めっちゃ言われたやつぅ~!! めっちゃテンション下がるわぁ~……
あと爺バカだったのねゴゴルさん。あんたも現場に出なさいよ元
「俺は町と手前ぇらを護る。外は任せた」
「はいはい、やってやりますよ」
「まずはティル、警備隊長に連絡だ。出来れば上に来てもらえ」
「はい!」
ギルマスに指示されティルが治療所から出ていく。
おふたりも立ちあがり、あたし達は一緒にギルマスの部屋へと向かった。
そこでそれぞれソファーに座ろうとして、ナイルさんとジギーさんが向かい合う席に分かれたんだけど……まぁ、そうよね。並んで座れないわよね。
とりあえずあたしはナイルさんの横、ランディはジギーさんの横へと落ち着いた。
どことなくランディは据わりが悪そうだったけれど、いいじゃない。久しぶりに会ったんですもの、旧交を温めなさいな。
ギルマスは自分のデスクから椅子を引っ張り出してきていたわ。
「ジギー、ナイル。早速だが相手の特徴を話せ」
「あぁ、相手は三人。ひょろっこいのとすばしっこいの、あとチビっこいのだ」
「……恐らく細身の男が魔術師、素早いのが剣士、小柄なのは
ジギーさんの言葉をナイルさんが補足して説明すると、今度はギルマスの視線がランディへ向かう。
「ランディーニといったか、お前がやり合った相手は」
「その三人と同じだった」
「決まりだな。相手は『拐い屋』だ」
「偶然にしては出来すぎている気もするが……」
「お前らよりこいつの方が先にやられてる。ジギーを見て、仲間か追っ手だと思ったんだろう」
「なるほどなぁ」
嫌な偶然もあったものよね。
でもさすが
「魔法を浴びる前だがな。それにあれだけの使い手だ。すぐ治してるだろうよ」
「悔しいが
「わはは! 俺達ゃどっちかっつーと人相手より魔獣相手のが多いからな!」
……死にかけたって言うのに豪胆なことねぇ。これがいわゆる『脳筋』ってやつなのかしら。
ごめんなさいねナイルさん。相棒の怪我は治せても、そこは治してあげられないわ。
「そういえば、治療所なのにお医者さんはいなかったのね」
「常駐の医者はいない。あそこでは応急処置くらいしかできん。治癒の使える職員も余所からの人間でな、効果は弱い」
「そうだったの」
「だからお前に専属になってほしかったんだが」
「あらやだやぶ蛇」
なるほどそんな事情があったのね。
町に診療所もあるけれど、そこはどちらかというと病気の治療に特化しているらしく、あそこまで大きな怪我になると対応できないみたい。
魔王国との戦争も終わり、近隣にそこまで強い魔獣もいないため、今まではそれで何とかなっていたんですって。
あと、どうしてもヤバいときだけはメルネ婆さんを頼ったりしてたらしいわ。
「そう聞くとなんだか危ういバランスで成り立ってるのねぇ」
「なんだかんだ、あの婆さんがいるってのは有難い話なんだな」
「ははは、俺も昔世話になった」
「ナイルさんはここのご出身なの?」
「いや、俺は別の町から来たんだ。魔法が苦手でね、ギルマスに紹介してもらった」
「紹介しちゃったの……」
「ここで素晴らしい魔法の特訓が受けられると聞いてな。子供達に混ざって、散々にやられたよ」
「それはまた……」
なんでも、こうした魔法を習いたい大人が別の町からやって来るのは時折あることなんだとか。
それも破格の料金で婆さんは受けてくれるらしく、きっと裏では領主家にとんでもない請求が行ったんだろうなと思うと、なんだか涙が止まらないわ……。
「なんだ姉ちゃん、専属断っちまったのか?」
「えぇ、ちょっと事情があって、あと三日くらいでこの町を離れちゃうのよ」
「そうか、勿体ない。いてくれると助かるんだが」
「そう言ってやるなジギー。事情があるなら仕方ないだろう」
ぐいぐい来るジギーさんを、ナイルさんが
さっきもそうだったけど、なんだかいいコンビよね。ちょっと羨ましいわ。
「じゃあラン坊も一緒にか?」
「いや、俺は俺で、ニーネを取り戻すまではここにいる。俺の都合にレイを付き合わせるわけにはいかないしな」
「ん? お前ら組んでるんじゃないのか」
「違う」
「ほぉん?」
「よせジギー、お前はそうやって何でもすぐ首を突っ込む」
「お前も魔女の屋敷に放り込むぞ」
「すまん」
ニーネというのは、ランディの姪っ子ちゃんの名前。同じ黒い毛並みのかわいらしい子なんですって。
ジギーさんはまだ色々聞きたそうにしているけれど、ギルマスの言葉で大人しくなったわ。
婆さんどんだけ恐れられてるのよ。
「お待たせしたました!」
「失礼しますよ」
「ご足労すまんな、警備隊長殿」
「やめてくださいよゴゴルさん、あなたにそんな風に言われたら背中が痒くなってしまう」
小一時間話していたところに、ようやくティルが戻ってきた。
ティルに連れられてきた警備隊長と呼ばれた方は、なんだかヌルッとした感じの細身の男性。
ゴゴルさんにからかわれて(?)なんだかクネクネしちゃってるわ。
ティルが別室から椅子をふたつ運んできて、テーブルを囲むようにしてそれぞれ席についた。
「で、これは何の集まりで?」
「耳に入ってるかはわからんが、今この町と隣のオクトに『拐い屋テオカッチャ』と『アックス商会』が入り込んでいる」
「あぁ、それはこちらでも掴んでいます。近く取引があると睨んではいますが……」
「こっちで既に人的被害が出ている。警備隊と連携を取りたい」
簡潔に要点だけズバズバ話すギルマスの言葉に、警備隊長さんはあたし達をぐるりと見回した。
そしてあたしのところで、その視線が固定されてしまった。
「ゴゴルさん、こちらのお綺麗な方は?」
「冒険者のレイだ」
「はじめまして。レイと申します」
「これはご丁寧に。私はこの町の警備隊長をしております、タリスコスと申します」
タリスコス。なんだか舌を噛みそうな名前ねぇ。
ぺこりとお辞儀をしたけれど、つい、と首を持ち上げるだけだったわ。
なによそれ? 返事のつもり?
「あなたですよねぇ、
「あ! そうよね、警備隊の本部にいるんですもの」
「そうですとも。しかしそのあなたがどうしてこちらに?」
「えぇっと成り行きというかなんというか……」
「協力者だ。警備隊長」
ギルマスの助け船で、タリスコスさんの視線から逃れることができた。
なんていうかヘビっぽい。ちょっと苦手なタイプだわ。
「今こちらで掴んでいる情報を渡す。乗り込むならこいつらを同行させたい」
「あなたもですか?」
「あたしは……あと数日でこの町を離れてしまうので、それまででしたら」
「ほう? 理由を伺っても?」
えぇぇさっきから何なのよこの人? あたしそんなに警戒されるようなことしたかしら?
なんだか凄く嫌なものを見るような目付きで見られてる。
……もしかして、あたしが
「タリスコス! 詮索は止めろ。こいつは魔女と渡りをつけ、敵のアジトを掴んだ功労者だ」
「ほほう、そうでしたか。それはそれは」
「あたしは別に何も」
そうよ。結局は全部メルネ婆さんがしてくれたことで、あたし自身はその繋ぎをつけただけ。
いい印象を持たれていないみたいだし、変に突っ張って足並みを乱すくらいなら、ここで手を引いておいた方がいいかもしれないわ。
「……もし、警備隊の方々が彼らと連携を取ってくださるなら、情報だけお渡ししてあたしはこの件から抜けてもいいわ」
「レイ!」
「いいのよランディ。あたしはたまたま関わっただけだもの」
それにきっと、最後まで一緒にはいられない。
だったらここでみんなに託してしまいましょう。……悔しいけれど、それがきっと最善なはずだわ。
「ま、考慮して差し上げますよ。それで、アジトの場所は? さっさとその獣を食らいそうな口で吐きたまえよ」
「オクトの……」
「待て!」
あたしが拐い屋の居場所を話そうと口を開きかけたとき、ギルマスが強い口調でそれを止め、他の全員が警備隊長さんに対して強い怒気を放っていた。
「ヒィ!?」
「てめぇ俺の恩人になんて口ききやがる!」
「あんまりふざけたこと抜かすとどうなるか分かってるよなぁ? あぁ!?」
「隊長殿ともあろうお方が嘆かわしい」
「警備隊の面子もあるかと連携を求めたが止めだ。貴様らの助力なんぞいらん」
「みんな……」
やだ、やめてよもう。
あたしのことなんかどうでもいいわよ。泣いちゃいそうだからやめて。
「良いわけあるか! レイのことあんな風に言われて黙ってなんかいられるか!!」
「ランディ……」
「お帰りはあちらだぜ隊長殿」
「なっ、なんなんですか一体!! 人を呼びつけておいて!!」
「うるせぇ帰れ!!」
蹴り出されるように、警備隊長さんは強制退室させられてしまった。
もうあたしはたまらずに、溢れる涙を止められなかった。
「あたしのせいでごめんなさい……ありがとうみんな……」
「謝るのはこっちだ」
「そうだぞ。姉ちゃんは何も悪かねぇ」
「ギルマス、ジギーさん……」
ジギーさんはその大きな手で、あたしの頭をごりごり撫でてくれた。
ちょっとやめてよぐしゃぐしゃになっちゃうじゃないの。
この歳になって誰かに頭を撫でてもらえるなんて思いもしなかったわ。
「レイがいなきゃここにこうしてこの面子が集まることもなかったさ」
「そうだな。きっと俺達は死んでたし」
「だな! わははは!」
「笑いごとじゃないでしょう……もう!」
あぁもう、なんて素敵な人達なのかしら!!
「幸いなことにこっちにゃ情報がある。野郎の鼻を明かしてやろう」
「乗った!」
「俺もだ」
「一緒にやろう、レイ」
「……えぇ! もちろんよ!」
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