03 主神顕る
うとうとしてたらdisられました。なんて嫌な目覚めなのかしら。失礼しちゃう。
「ていうか、あんた誰よ?」
鍛冶神と共に現れたのは、キラッキラの笑顔まばゆい美少年。
でもなんだか、なんとなくだけれどその完璧すぎる笑顔が逆に妙に不安を煽る。
正直嫌な予感しかしないわ。
「どうもはじめまして。私はこちらの世界を治めている主神。君が迷い人だね?」
主神!? このショタが!?
「どうしました?」
「あ、いえ、ごめんなさい。お若いので少し驚いてしまって……おほほほほ」
「ふふ。言葉を改めなくてもいいのですよ?」
「やだとんでもないですわぁ」
うわぁ腹が読めない感じ。笑ってるのになんだか背筋が冷や冷やしちゃう。
「そうそう、彼から話を聞いてね。なんでも元の場所へときちんと送り届けてほしいとか?」
「えぇと、はい、その……できれば」
声にピり、としたものを感じておずおず答えると、主神とやらは更に笑みを深めた。
「おや、随分と弱腰ですね。先程は彼にどうにかしろと食って掛かったそうじゃないですか」
「うっ、ご、ごめんなさい……」
「謝罪の必要はないのですよ? あなたは我々の管理の外にある者なのです。ましてここには人の世のような法はありません」
「いえもう本当にごめんなさい」
「ですから例え神に楯突こうが詐欺だと糾弾しようが、あなたにはなんの罪もなければ我々が救いを施す道理もなく……」
「だからぁ!! ごめんなさいってばぁ!!」
「あっはっはっは! 面白いねぇこの人の子」
どんどん追い詰められていくのに耐えきれず半泣きで謝ったのに笑いやがった!! もうほんとなんなのよこいつ。
さっきから鍛冶神様もサラマンダーちゃんもめっちゃ空気じゃない。ちょっと助けなさいよもう。
ちらっと鍛冶神様に視線を向けたら、顔を背けて震えてらっしゃる。
え、もしかして笑ってる? ねぇ笑ってるの?
「ふふふ。ごめんね、からかいすぎたかな」
「いぃえぇ、ご趣味のよろしいことで」
「久しぶりに人の子と話すから楽しくなってしまってね」
「左様で御座いますか」
ドレスのままだったけどもう知らない。胡座かいてぶすっとしちゃう。
結局なにしに来たのよこのショタは。主神だかなんだか知らないけど敬ってなんかやらないわよ。
「主よ、話が進みませぬ」
「そうだったね、えーと、君? 少し私の話を聞いてくれないかな」
なぁによ。なんの話があるっていうのよ。
「君にとっても悪い話じゃないと思うよ」
あたし知ってる。そういうのって大抵よくない話なのよ。ニコニコしちゃって小憎たらしいったら。
だいたいショタはお呼びじゃないのよ。イケてる筋肉連れてきなさいよ筋肉を!!
「俺からも頼む。主の話を聞いてやってはくれんか」
「なにかしら?」
あぁんもう鍛冶神様がそう仰るならしょうがないわねぇ。しゅばっとお膝揃えてにこにこしちゃう。
ほらさっさとお話しなさいな。
「ふふっ、では順を追って話そうか。まず君の帰還についてだけど、これは私がきちんと、君が元いた場所へと帰らせてあげます」
「ほんとっ!?」
あぁよかったわぁ~。さっきは無理と言われてそれなりにヘコんでたのよね。あれ、でも……
「ねぇ、さっき鍛冶神様はできないって仰ったわよ?」
「彼はそこまで別の世界に干渉はできないんだよ。私は主神だからね。帰還時にあちらの座標の指定くらいはできるのです」
「神様にもそれぞれ権限みたいなものがあるってこと?」
「平たく言えばそうだね。うん、なかなか頭の回転も悪くないね。さっきはあんなに取り乱していたのに」
「そこ掘り返す!?」
なんだかちょっとイライラしてきたわ。帰れるんならもうさっさと帰らせてちょうだい。
「ごめんごめん。それでね、本来ならばそちらの世界へ落とすだけのところを、きちんと元いた場所へ送り届ける見返りとして君からなにかこちらの望むものを捧げると聞いてね。それならひとつ、私からの頼みを聞いてはもらえないかなと」
「なっがい枕詞で脅しかけてくれて恐悦至極ですこと。頼みとか言ってそれどうせ拒否権なんてないんでしょう?」
「そんなことはないよ。ただ帰宅の保証はできなくなるけれど」
「ほら拒否権ないじゃない!」
「そんなに大変なことを頼むつもりはないよ。それにもし引き受けてくれるなら別で謝礼も渡そう」
わざわざ手間暇かけて帰してくれるだけじゃなく謝礼も出すですって?
そんな怪しい話には絶対ぜぇ~ったい裏があるって相場が決まってんのよ。本来なら迷わずお断りしちゃうところなんだけど、拒否権は最初からないに等しい。
なんだかとっても聞きたくない。聞きたくないけど、聞かなきゃ帰れないのよねぇ……。
あたしを慕ってついてきてくれている店の子たちや常連さん。みんなで作り上げたあの場所をこんなことで放棄して、どこともわからない場所へ落とされるだなんて冗談じゃないわ。
ええい仕方ない。やってやろうじゃないの。
女は度胸、男は愛嬌、オカマは最強よ!!
「わかったわ。あたしはなにをすればいいの?」
了承の意を告げると、主神様はそれはそれは美しく微笑まれて──
「そっちの神、ブッ飛ばしてきてくれない?」
──と宣った。
いやいや、死ねと?
「……ちょっとなに言ってるのかわからないわね?」
「うん、まぁブッ飛ばすは冗談としてね。真面目な話、ここのところ以前に比べて迷い人や落ち人が多すぎるんだよ。だからお話してきて欲しくて」
本当になにを言ってるのかわからないわね。それあたし関係なくなぁい?
「それにね、実際に世界を渡った君を目の当たりにすれば、きっと向こうもやる気を出してくれると思うんだ」
ちょっと待ってこいつあたしを使ってこっちの神様に脅しかけようとしてるわね!?
冗談じゃないわよ!! とばっちりであたしに
「さっきそちらの鍛冶神様にも言ったけどね、あたしんとこそりゃもう大量に神様いるのよ。そもそも本当にいるのかどうかもわからないし、いたとしてもただの一般人であるあたしがおいそれと会えるわけないでしょう!?」
「手紙を書くから大丈夫だよ」
「ねぇ人の話聞いてる? ムリが過ぎるわよ。人間出来ることと出来ないことがあんのよ!」
「君こそ聞いてよ。手紙があれば大丈夫なんだ。そっちの主神に届くようになってるから」
「だからどこにどうやって届けろって言うのよ!」
「持って帰ってくれるだけでいい。夢で会えるよ」
「あたしあんまり夢見ないんだけど」
「見るから大丈夫だよ」
「なんにも大丈夫じゃないわよね?」
止める間もなく、じゃあ手紙書いてくるから待っててね、と言い残し、にこやかに主神はその場からいなくなった。
あいつ碌でもないわね!? 本当に神様なの!? 頼みとか言っておいて結局人の言い分なんかまるっと無視して有無を言わさずやらせる気なんじゃないの!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます