設定資料①「初期設定集」

(本編執筆に先駆けて公開していた初期設定集です。一部未使用設定や没・変更したアイデアも含まれます)



《イントロダクション》

 2005年の大災害によって崩壊した日本。

 スマトラ沖地震と同規模のマグチュード9.0を超える大地震が日本近海で連続発生(南海トラフ?)。津波による被害と原発事故による放射能汚染により、本州=秋津島の大部分を失った日本政府は国土の大半を放棄する。(秋津島大災害)


 当初はアメリカによる支援のもと、沖縄の暫定政府から汚染をまぬがれた九州・北陸・北海道へ避難民の誘導が行われたものの、アメリカの内政干渉に反発する反米・反政府グループが札幌にロシアを後ろ盾とした新政権の樹立を企て、それぞれの工作員が互いに電子戦とテロによる破壊工作を繰り返した結果、事態は2つの大国が裏で糸を引いた代理戦争としての内戦にまで発展。日本は〝21世紀版東西冷戦〟の戦場となる。(極東戦役)


 東西の緩衝地帯と化した秋津島全域が戦地と化し、残された国土は更に荒廃――国連の介入による事態解決の必要性が問われるなか、2010年にナショナリスト集団に扇動された国外脱出を試みる6000人の被災者が、ロシアのナホトカ港で集団凍死する事件が発生。(ナホトカ事件)


 これを契機に、国際世論に後押しされる形でアメリカ・ロシア両国を含む国連常任理事国は「日本を文化保全対象国に認定」することで合意。

 ただちに国連平和維持軍の派遣による内戦状態の解消が図られ、紆余曲折を経た協議の末に、維持困難となった日本の国有財産の多くはオーストリアのミリオポリス市へと文化委託されることが決定。

 残された国土はアメリカとロシアによる分割統制によって地域の安定化と復興を目指す運びとなった。


 これにより日本は、アメリカの支援を受けたオキナワ政府により管理される九州・沖縄諸島を領土とした「琉球・筑紫島皇国」通称「西の皇国」と、ロシアの援助のもとサッポロ政府により管理される北海道・東北地方の一部を領土とした「蝦夷及び北陸共和国」通称「東の共和国」の二つへ分断されることになる。



《特例未成年自衛官候補生制度》

 大災害後にオキナワ政府が発した非常事態宣言化において、国土防衛と災害復興のために自衛隊法が一部改定され、主に人材不足を補う目的で防衛大学の下に新たに設けられた「国民防衛学校」に所属する13歳~18歳の学生を「特例未成年自衛官候補生」として、防衛出動や災害派遣に従事させることを可能にした。

 なかでも先進国の中でいち早く児童福祉法に機械化政策を取り入れたミリオポリズム(ミリオポリス式)にならい、大災害と内戦よって肉体に障害を負った未成年者を機械化し、特殊な訓練課程を経た上で未成年自衛官候補生としたものが「特殊機械化連隊士候補生」通称「特隊生」である。

 特隊生には米軍との共同研究により開発された一〇式強化装甲外骨格〈さきもり〉が与えられ、紛争と災害により汚染された隔離地域内での〝特別奉仕活動〟に従事している。



《特別奉仕活動》

 オキナワ政府より特隊生へ与えられた任務。

 避難命令が下され隔離地域に指定された筑紫島(旧九州地方)での国土防衛・災害復興活動。

 その目的は

 一、隔離地域内に撒布された電波妨害装置の撤去。

 二、隔離地域内の瓦礫やゴミ、廃棄物等の撤去。

 三、隔離地域内に残された国家・個人の財産、被災者の保護と回収。

 四、隔離地域内での治安維持活動。

 以上の四つを基本方針とする。

 特に治安維持活動において、隔離地域内でテロリストや国家・国民に損害を与える〝外敵〟と遭遇した場合は「国土防衛法特例第九十九号」通称「九十九法」の適用による武力行使活動――〝武活〟が許可される。

 特隊生各自の判断による搭載火器の使用が認められ、一〇式強化装甲外骨格の各安全装置が解除されることで、交戦が可能となるのだ。



《一〇式強化装甲外骨格〈さきもり〉》

 西日本・オキナワ政府がアメリカと共同開発した新兵科。

 筑紫島隔離地域内の災害復興及び治安維持活動と、将来的には本州の再領土化を目指して開発された。

 アメリカ特殊作戦群(US-SOCOM)が開発を進めていた〈サテュロス〉式アームスーツ(米陸軍正式採用名〈AS-03ハーバード〉)をベースに、日本の誇るロボット工学技術を合わせ再設計した機体。開発にはアメリカに亡命した日本人技術者が多く関っているものの、実際の製造と開発資金の多くはアメリカ軍及びアメリカ系企業によって成り立っている。

〈サテュロス〉は身障者用のロボットスーツ技術を軍事転用したものであったが、一〇式強化装甲外骨格はさらに搭乗者を体格的に発育途上な未成年サイボーグ=機械化児童に限定している。これにより搭乗スペースの縮小化と、機械化義肢との連動によるインターフェイスの簡略化が図られ、全高2.26メートルまでの小型化に成功している。


 装甲は特殊セラミック・繊維強化カーボン素材の複合装甲。動力は高出力メタノール燃料電池。最大で20時間の連続稼働が可能。

 主兵装は両腕部に装備される高圧電流を放出する対暴徒鎮圧用ショックカノン×二門。肩部に装備される一四式7.62mm機関銃×二門。腰部にマウントされる一四式対物斬鋼刀。これらの装備は〝武活〟実行時のみ火器管制システムが起動し、安全装置が解除されて使用可能となる。

 一〇式の名は本来、大災害前に自衛隊の第四世代型主力戦車として開発が予定されていた一〇式戦車に用いられるはずの呼称であったが、2010年における日本の文化保全対象国指定によりオキナワ政府内の防衛装備案が再協議され、一〇式戦車開発計画を変更し一〇式強化装甲外骨格開発計画へと移行したことに由来する。そのため実際のロールアウトと実戦配備が始まったのは2015年になってからである。


〈さきもり〉のペットネームは当初、開発に携わった日本人技術者の間でのみ用いられる愛称であったが、稼働テストの視察にアメリカを訪れたオキナワ政府高官が名前を気に入り正式なペットネームとして採用したというエピソードがある。また、角のように見える頭部のセンサーユニットと各中隊ごとに赤・青・黒・白のカラーリングが採用されたため、現場の特隊生からはそれぞれ〝赤鬼〟〝青鬼〟〝白鬼〟〝黒鬼〟の名で呼ばれている。



《フツミタマ》

〈さきもり〉に搭載されるAIサポートシステム。

 名称は日本神話に登場する布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)に由来する。広域ジャミングの影響で従来型のデータリンクによるサポートが受けられない隔離地域での復興活動を可能にするため考案されたシステム。

 その概要はジャミングの影響を受けない光無線通信(特定波長の可視光線を使用)によって〈さきもり〉に搭載される各AI同士をクラスタ接続し、位置情報や通信・各作業に必要な演算を分散処理するもの。これにより〈さきもり〉の大量投入による筑紫島全土の大規模復興作業が可能となった。

 またこのシステムは、特隊生たちの行動を管理するための無人監視装置の役割も担っている。長距離回線による現場のモニタリングが不可能な環境下で、AIによる自動判定により国会など意思決定機関の審議を経ずに自衛権の行使による"武活〟を可能とするのが「九十九法」なのだ。



《HIRUME》

 大災害後にオキナワ政府が採用した次世代型ネットワークシステム。

 日本版マスターサーバーともいえる大規模管理コンピュータシステムで、大災害によるハイパーインフレで破綻した通貨システムや医療・福祉・各行政システムを統合ネットワークによって一元的に管理することで、社会システムの効率化と大胆なコストダウンを計ったもの。

 西日本及び在日米軍筑紫島駐屯部隊で使用されるほぼ全ての電子機器は〈HIRUME〉ネットワークにより管理されている。〈さきもり〉に搭載されるAI〈フツミタマ〉の上位システムでもある。名称は日本神話の最高神・天照大御神の別名である大日孁貴(おおひるめのむち)に由来する。



《電紋》

 特隊生をはじめとした西日本の全国民に与えられた個人認証コード。

 インプラントチップに記録された個人番号・戸籍・職業・資格・身体・医療・口座などの各種データを〈HIRUME〉の管理する端末で読み取ることで、それまで必要だった書類や通帳・カードによる雑多な手続きが不要になった。

 インフレの影響でそれまでの紙幣・通貨による取り引きが困難になった西日本においては、ほとんどの経済活動が電紋による電子マネーによって成り立っている。また電紋は身分証明も兼ねており、自衛隊や警察、特隊生の階級なども電紋によって管理されている。



《登場人物》

■鳴神アクタ(なるかみ あくた)

体を機械化され特隊生となった少年。15歳。国防自衛隊の特殊機械科連隊第四中隊〈玄武〉第四班に配属されている。階級は二等隊士。いつか世界を自由に旅するのが夢。


■大隅ケンジ(おおすみ けんじ)

鳴神と同じ第四班の特隊生。15歳。階級は二等隊士。歴史マニアで過去の日本について詳しい。避難キャンプで暮らす祖父母と共にアメリカへ移住したいと考えている。


■不破リュウセイ(ふわ りゅうせい)

第四班の班長を務める先輩。17歳。階級は一等隊士。無口だが面倒見がいい。


■佐久間モリオ(さくま もりお)

第四班の先輩。16歳。階級は一等隊士。料理好きで進んで第四中隊の駐屯地〝学校〟での炊事長を務めている。


■椚木セイシロウ(くぬぎ せいしろう)

特機連隊第四中隊〈玄武〉の中隊長。18歳。階級は隊士長。強面で周りから恐れられている。


■杜リンタロウ(もり りんたろう)

鳴神が隔離地域で出会った不思議な老人。ヨーロッパから〝忘れ物〟を取りに日本へ戻ってきたという。


■音來カナエ(ねらい かなえ)

杜と行動を共にする盲目の少女。沖縄のとある島からやってきたという。手を触れずに周囲の電子機器を操る不思議な力がある。


■音來タツミ(ねらい たつみ)

HIRUMEシステムの開発責任者。かつてはW・F・ブラウン博士と共に脳内チップの研究に携わっていた。ガラテア・コンプレックス理論を独自に発展させた「九識理論」の完成を間近にひかえ失踪する。


■蝮蛇(フーショー)

若くして香港マフィアの幹部にのしあがった青年。中国政府からの密命を受け、〈毒蜂〉部隊と共に隔離地域に現れる。


■毒蜂(ドゥフォン)

中国の非公式部隊〈蟲〉の東アジア方面特務部隊。要人暗殺や営利誘拐によりアジア情勢を裏から操作する影の中の影。その任務性から大陸・香港島のマフィアやシンジケートらと協力関係を築いている。


■御霊会(ごりょうかい)

古来より日本を裏から支配してきた権力者たちの末裔。オキナワ政府を影から操る黒幕。かつては七家より構成される〈七望会〉と呼ばれていたが、杜家・今村家が離反したため残された五家よる御霊会(=五霊会)へと変貌した。

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