壱の一「崩壊国土」

 地図や地球儀を眺めれば、アジアの極東の果て、ユーラシア大陸の端っこにへばりつくように南北に長く延びた島々を見つけることができるだろう。そこには英語やフランス語、あるいは中国語やロシア語かもしれないが……きっとこう書かれているはずだ。

 日本列島ジャパニーズ・アーキペラゴ――それがその土地の名だ。

日本ジャパン〟という言葉が地図上で確認できるのは、今ではもうそれだけだ。かつてそこにあった〝日本〟という名の国家は、すでにこの星のどこにも存在していない。

 そのことをオレはつい最近まで知らなかった。大人たちは誰も教えてくれなかったし、戦災孤児として政府に拾われ国民防衛学校で機動外骨格の訓練を受けている間も、防衛隊に入って隔離地区に派遣されてからも、何も不思議に思わなかった。

 教官に教えられるままに、自分たちの生きる〝西の皇国〟こそ〝真の日本〟であると信じて疑わなかったし、〝東の共和国〟は勝手に連中がそう騙っているだけであって、我が国の領土を不当に占拠している反政府勢力の支配から〝日本〟を解放することが防衛隊の役割であり、そのために君たちが必要なのだ――と聞かされていた。

 それらが嘘と欺瞞に塗り固められた幻なのだとオレは知った。知ってしまった。

「そんなのは嘘だっ。アンタは、オレを騙そうとしてるんだっ」みっともなく喚き散らすオレに向かって、知りたくもない真実を伝えた老人はどこか悲しげに笑った。

諸行無常しょぎょうむじょうってのは、この世は絶えず変化して、不変のものはないって意味だ」まるで天に詫びるような哀愁を帯びた、癇にさわるほど儚げな笑みだった。「盛者必衰じょうじゃひっすいってのは、栄えるものはいつか滅びる定めにあるってことだ。俺たちの国も――〝日本〟もこの世の理から逃れられなかったのさ」

 とにかく無性に腹が立った。また失うってのか。大災害で生まれた都市を失い、内戦で家族を失い、空爆で体の一部も失った。そして今また信じていたものすら〝紛い物〟だと聞かされて、どうしろっていうんだ?

四苦八苦しっくはっく――人は生きている限り、苦しみからも逃れられねえのさ」その老人の言葉をオレは理解できなかった。ただ生きているだけで、なんでこう色々なものを奪われなきゃならないんだ? 失わなきゃならないんだ? こんなの……理不尽じゃないか!

 闇雲にぶちまけたオレの怒りと嘆きを、事件のなか巡りあった少女はこう受け止めた。

「……生きることは、切ないな」

 そう呟いた彼女の美しい横顔を、オレは生涯、忘れることはないだろう。この胸の奥が締め付けられるような苦しさを抱えながら、オレたちは生きなきゃならない。生きていかなきゃならない。それはきっと、どうしようもなく切ない。

 ああ、こんちくしょう……生きることは、切ないなぁ――。




     壱の一「崩壊国土」




  ぼくらがこの国の未来を創る だから今はゴミ拾い

  ゴミが無くなったら 家を建てよう 街をつくろう

  ゴミの山にはお宝もある そう、ゴミの島は夢の島

  うたかたに消えた蜃気楼 海の彼方にはるかな故郷


 目の前で揺れる旧式の音楽プレイヤが、軽快なリズムを刻む。

 何年か前に流行ったインディーズ・バンドの曲だ。政府の管理する公共ネット上で人気になったそれに、どこかの誰かさんが歌をつけた。韻も譜割りも滅茶苦茶なのに、それが返って人々の心を強く打ったらしい。

 率直なまでに愚直で真っ直ぐなフレーズ――きっと、みんなどこかで求めているのだ。

 誰の心の裡にもあるはずの、魂の故郷を――。

「ぼくらがこの国の未来を創る。だから今はゴミ拾い――」

 無意識に歌詞を口ずさみながら、鳴神なるかみアクタは脚元に転がる瓦礫をつかんだ。重さ数百キロはくだらないコンクリート片を、小石のように軽々と持ち上げる。

 別に鳴神がスーパーマンみたいな力持ち……というワケではない。むしろ身長は同年代の平均よりも低いくらいだ。こんな真似ができるのは、鳴神が搭乗している――この場合〝身に着ている〟と表現した方が正しいか――機械仕掛けの外骨格のおかげだった。

 一〇式ヒトマルしき機動装甲外骨格。通称〈さきもり〉。

 俗にアームスーツとも呼ばれる、身障者用介護パワーアシストマシンに使われる技術を発展させた機体である。一〇式はこの国が独自に開発した、その最新型だ。

 真っ黒な装甲に覆われた全高二・五メートル余りの巨体に、拡張された鋼鉄の手脚を備えた姿は、一昔前のフィクションに登場する人型ロボットそのものといえる。頭部に相当する光学観測搭センサ・ターレットから伸びた二本のアンテナは、まるで角を生やした鬼のようだ。そのため鳴神たちはもっぱらこの機体を〝黒鬼〟と呼んでいた。

 その黒鬼を操り、舗装の割れたアスファルトの道を歩く。

 ガシャガシャと足音を立てて進んでいると、ふいに操縦席に吊るした音楽プレイヤから流れるメロディに、耳障りなノイズが走った。何事かと複合モニタを確認する。


『ジャミング侵度:3.11/ノイズ拡散域バラージ:L1=1575.42 S-band=3227.6 X-band=8176.45』


「……先週よりもジャミング侵度が上がってる?」

 表示された数値に眉をしかめる。操縦席で首を巡らせると、その動きに合わせモニタ内の景色が切り替わった。一〇式に搭載される人工知能〈フツミタマ〉によるサポートだ。AIが搭乗者スーツアクタの眼球や頭の動きを感知して、自動的に後方視界カメラの映像を表示する。

 ズームアップされた画像には、倒壊した家屋が映し出されていた。過去の記録データとの比較によれば、ごく最近になって崩れたものらしい。

「フツミタマ――音楽停止。モニタを有視界ノーマルモードに限定」

 音声入力に従い、AIが遠隔操作で音楽プレイヤを停止させる。運搬中のコンクリ片を一旦脇へ置くと、鳴神は慎重に脚を踏み出した。

 廃屋に近づくにつれノイズが増す。荒波のような妨害電波ジャミングに対抗するため、機体の能動的電子防護AEPシステムがフル稼働している。さながら深い海の中へ潜っていくような気分だ。ジャミングの作り出すノイズの海。電子の視覚エレクトロ・センサが届かぬ水底で、ただ己の肉眼アイボール・センサのみを頼りにノイズの発生源を探り当てる。

 額にじわりと汗が浮ぶ。息の詰まるような作業の末、崩れた外壁の下に隠れていた直径数センチほどの金属体を見つけ出した。

「――やっぱり、コイツの仕業か」

 CKジャム。

都市を殺す電波妨害装置シティ・キラー・ジャミングマシン〟というコードネームが付けられたその装置は、過去の内戦で使用された一種の戦略兵器だった。このちっぽけな装置には、GPSをはじめとした各種電磁波をジャミングする機能が備えられている。

 慎重にCKジャムを拾い上げると、機体の両腰に懸架されたコンテナ内へと収納。特殊合金製の容器がノイズを遮断し、モニタの示す数値が平常値へと戻ったのを確認してから、鳴神はようやく安堵の息を吐いた。

「危ない危ない。こんなところに〝ジャム・スポット〟があるなんて……」

 この筑紫島つくしのしまの隔離地区には、今もこうした汚染の強い危険地帯ジャム・スポットが点在している。内戦が終了した後も、なお残り続ける電子的な汚染。その元凶であるCKジャムを除去することが、鳴神たちに与えられた第一の任務だ。

 AIにしっかりとスポットの位置を記録させて、瓦礫の運搬を再開する。

 着いた先は街外れの公園だ。老朽化したフェンスに囲われた敷地には、ゴミの山ができている。ここは回収された廃棄物を保管する臨時集積所の一つだった。

《おーい、ナルやん。こっちだこっち》敷地の一角で巨大なハンマーを抱えた黒鬼が手を振っている。四角い目標指示TDボックスに囲われた機影に、拡張現実ARによって添付された機体識別IFFコードほか関連情報アノテーションタグが表示される。


対象TD:JDF‐WA09D‐09Si‐CoⅣ〈GENBU〉/AS10J‐No98

 防衛隊第九師団・第九特機科連隊・第四中隊〈玄武〉/一〇式〈さきもり〉九八番機』


《なんだ。今日はケンちゃんが〝解体作業マキワリ〟担当か》

 外部スピーカをONにして相手に話しかける。すると九八番機キューハチが装甲を開いて、操縦席から見知った少年が顔をのぞかせた。

「結構おもしろいんだぜ、これ」

 浅黒い肌に人懐っこい笑みを張りつけたこいつは、大隅おおすみケンジ。鳴神と共に特機科連隊第四中隊、通称〈玄武げんぶ〉隊の第四〇四小隊に配属された仲間の一人で、年齢も同じ十五歳。国民学校で一緒に訓練を受けた同期生でもあり、その頃からの腐れ縁だ。

「こうやって瓦礫ぶっ壊すのも、ストレス発散になるしな!」ぶっそうな言葉を口にしながら大隅は、器用にハンマーを振り下ろす。超震動破砕器が機能し、脚元に転がる巨大なコンクリート片が粉々に砕かれた。「そっちはどーよ。瓦礫ゴミ拾いは順調?」

《さっきCKジャム厄介なゴミを一つ回収したよ》

 腰のコンテナをばんばん叩いてみせると、大隅が明るい声を上げた。

「やったじゃん、これでうちの小隊も万年最下位から脱出だ。他の奴ら、悔しがるぜ」

《もう便所掃除はこりごりだしな》

 喜ぶ相方に頷き返しつつ、鳴神も自分の乗る九九番機キューゾロの装甲を開いた。

 プシュッと空気の抜けるような音を立て、ハッチが開閉。空調と雑音除去機能ノイズキャンセラが働いた操縦席から顔を出すと、たちどころに夏場のむわっとした熱気が襲いかかってきた。

 うるさい蝉の声が洪水のように耳を打つ。生温い風が運んでくるカビ臭さと埃っぽさの入り交じった空気に顔をしかめつつ、周りを見渡した。

 ドミノ倒しのように崩れたビルの群れ。

 ぺしゃんこになった家屋と折れた電柱。

 橋脚ごと潰れた高速道路や線路etc.エトセトラ

 そんな廃墟の街並みが、どこまでも果てしなく続いている。

「……間抜けな話だよな。一台たった数千円ぽっちのジャミング装置に、米軍の最新鋭戦闘機やイージス艦はもちろん、都市機能まで完全に無力化されたっていうんだからさ」

「仕方ないんじゃねー? まさか〝東〟の連中が弾道ミサイル使って、CKジャムを列島中にばら撒くなんて、フツー考えないじゃん」

「そのおかげでとっくに内戦は終ったってのに、こっちはネットもスマホも使えない原始時代に逆戻りだっての。ほんと、大人なんてロクなことしないよな」

 過去の大災害で焼け野原になった場所。その後に起こった内戦でボロボロになり、放射性物質や電子的汚染によって、政府が国土の大半を放棄した果てに広がる光景。

 それが鳴神たちの生きる今のこの国――西暦二〇十五年現在の〝日本〟だ。

 この国を荒廃させたのは、他国からの侵略でもエイリアンの襲撃でもゴジラの上陸でもなかった。〝アジア一の経済大国〟なんて浮かれているうちに、二十一世紀に入ってほどなく起こった大災害と同国人同士の争いで、あっけなく崩壊した。

 極東の島国が崩れゆくさまを、外の連中は〝性質の悪い冗談を見ているようだった〟と他人事ひとごとみたいに語る。だが、これはまぎれもない現実だ。目の前にそびえる膨大な瓦礫の山を撤去し、国土の復興に従事することが、鳴神たちに与えられた第二の任務だ。

〝アジアの死体〟だの〝繁栄に溺れた島国の末路〟だのと世界にあざ笑われようと、日本人にとっての居場所はここしかない。それがこの国に生まれた宿命なのだ、と大人は言う。

 この国の連中は感傷的すぎるんだ――陽炎に揺らめく廃墟を眺め、そう思う。

「どうせならこのゴミを太平洋辺りに運んで、そこに新しい人工島を造ればいいんだ」

「ああ、確かこの国のどこかにそんな人工島があったんだっけ? 〝夢の島〟って言ったかな……そいつはまた、夢のある話じゃねーの」

 アホな冗談を交わして二人でゲラゲラ笑い合っていると、集積所の入り口に新たな黒鬼の姿が見えた。それに気づいた大隅が、急いで操縦席に身を引っ込める。

「ヤベー、先輩たちじゃん。サボってたのがバレたら、ドヤされるぜ」

 大隅が慌ててハンマーを拾い上げる。鳴神もハッチを閉じると、瓦礫を運搬する素振りをする。さも真面目に作業してたように取り繕う二人のもとへ、二体の黒鬼がやってきた。九六番機キューロク九七番機キューナナ。このエリアを担当する四〇四小隊の先輩たちだ。

 モニタに通信ウィンドウが開き、先輩たちの顔が映し出される。《九八番、大隅と……そっちは九九番、鳴神か》《今日は一段と暑いねえ。熱中症になったりしてないかい?》

一〇式さきもりの中は冷房が効いてるから大丈夫ですよ。な、ケンちゃん?》

《そ……そうそう、問題ないっす! えっと……オレら、真面目に作業してたっすよ》

 しれっと応じる鳴神に比べ、しどろもどろな大隅は挙動不審マルダシだ。思わず冷や汗をかく二人を睨みながら、角刈りのリュウ先輩がボソリと呟く。《もうじき昼になる。飯の時間には遅れるなよ》

《働かざる者、食うべからずだよ》続けて丸顔のクマ先輩がにこやかに告げる。《二人とも稼働時間には気をつけてね。お昼もだけど〝同調剤アンプル〟も忘れちゃダメだよ》

「――はいっ」と勢いよく敬礼する二人に満足したのか、先輩たちはさっさと集積所の外へ戻ってゆく。

《アブねー。ナルやん、度胸あるよな。リュウ先輩に睨まれても平然としてんだもん》

《クマ先輩にはバレてたっぽいけどな》

 太陽はそろそろ中天に近い。鳴神は「じゃあな」と大隅に手を振ると、持ち場へ戻る。

 現在の外気温は37.8度。日射しを遮るもののない瓦礫のジャングルは、まるで灼熱地獄の茹で釜だ。午後にはもっと暑くなり、地表付近の温度は60度を超える。例え都市が崩壊しても、夏の暑苦しさはちっとも変わらないんだからやってられない。天罰のような容赦のない日射に辟易しながら、AIに空調の設定温度を下げるよう命じる。

 ふいに耳慣れない物音を、機体のセンサが拾った。バラバラバラ、と遠くから近づいてくる風切り音。周りを見れば、このエリアを担当する他の一〇式たちが空を見上げている。鳴神も機体の頭部センサを上方へと向けた。


『対象:H115多用途ヘリコプタ〈ふよう〉/所属:復興管理局安全パトロール』


 隔離地区の上空を、白い塗装も鮮やかな一機のヘリが飛んでいた。


  

 廃墟の街並みを見下ろすように、ヘリは隔離地区の上空を飛行している。

 操縦桿を握る機長はベテランだ。その腕は確かで、機体は強風に煽られることもなく、地上六百メートルの高度をピタリと維持している。しかし順調なフライトにも関らず、隣に座る若い副操縦士は浮かない顔だった。

 見かねた機長が、小声で語りかける。「任務に集中したまえ。さっきなんて、計器を確認する振りして後ろを覗いてるのがバレバレだったぞ」

「でも機長……なんだってまた、民間人なんか乗せてるんです?」

 後部座席に座るのは、初老の日本人男性とまだ年端もいかない少女の二人だ。これまでにも任務の性質上、この地の視察に訪れるVIPやマスコミの人間を乗せる機会はあったが、どうにも様子が異なっている。

「ひょっとして、どこぞのお偉いさんとそのお孫さんですか?」

「そうだな……この国の行く末を握る人間だよ」キョトンとする部下に、機長がおどけた調子で続ける。「――冗談だ。今回のフライトは訳ありでな。君が知る必要はない」

 それきり機長は黙りこくったまま、ヘリの操縦に専念する。

 軽く肩をすくめて、副操縦士も計器に向き直る。電波高度計や管制塔からの誘導が当てにできない隔離地区では、何よりも人の目による確認が重要だ。目視で確認した地形と、光学測距器の示す数値を照合していた副操縦士の手が、ふいに止まる。

「――なんだ?」 

 眼下に広がる廃墟の一角で、一瞬、何かが光ったような気がしたのだ。

 副操縦士が風防のガラス越しに地上へ目を凝らそうとした矢先――轟音と共に、ヘリに凄まじい衝撃が走った。



 鳴神はその光景を、一〇式の望遠カメラを通して目撃した。

 空を飛んでいたヘリの後部が、いきなり爆発した。

 ヘリの尾翼が半ばから千切れ飛ぶ。ダクテッドファンを失った機体が、回転翼により生じる反トルクを打ち消すことが不能となり、駒のように繰る繰る回転。そのまま酔っ払いのように制御を失い、地上へと落ちてゆく。

「なんてこった……墜落するぞ」

 同時に廃墟の一角から二発の信号弾が打ち上がる。赤は〝我、緊急事態ヲ確認セシ〟。そして黒は〝総員、戦闘配置ニツケ〟を意味する。

 鳴神は抱えていた瓦礫を放り出すと、墜落するヘリに向かって走り出した。ヘリが爆発する直前に見えた光――あれはおそらく地対空誘導弾SAMの発射炎だ。あの爆発は事故じゃない。地上から何者かに攻撃された。

「フツミタマ――〝武活ブカツ〟の許可を要請する!」

 その声に応じて、AIが自己診断モードを開始。モニタに『審議中』の文字が短く明滅。わずかの間をおいて『承認』に切り替わる。機体各部の安全装置が解除され、AIの音声ナビゲーションが火器管制システムFCSの起動を告げる。

《AIによる臨時決議の結果、九十九ツクモ法の適用による〝自衛権の行使〟が許可されました。〈さきもり〉の安全装置を解除。有事における〝武力行使活動〟を実行して下さい》


     ***


 CKジャムにより電子的に汚染された隔離地区は、ゲリラや反政府武装勢力が潜伏するには打ってつけの危険地帯ブラックスポットと化している。

 その対処に迫られた新政府は、ある法案を可決した。

 国土防衛法特例第九十九号――通称〝九十九ツクモ法〟。

 これにより国家及び国民へ損害を及ぼす危険性が認められた〝敵〟に対して、国会決議を経ずAIの判定により〝自衛権の行使〟による戦闘行為が可能となった。

 また総人口がかつての六分の一にまで減少し、圧倒的な人材不足に悩んだこの国では、通信網もライフラインも寸断された状況下において、スタンドアロンで行動できる画期的な労働力を必要としていた。

 そのため特例として、戦災孤児や障害を負った子供たちへ特殊なサイバネ医療と訓練を施し、アームスーツの専任オペレータとして彼らを前線に配置した。

 国土防衛隊・筑紫島方面第九師団・第九特機科連隊所属・特殊機械化連隊士候補生――略して〝特隊生とくたいせい〟と呼ばれる少年少女たち。彼らは平時には復興のための労働力となり、有事には国土防衛のための戦力として、その身を国家に捧げる。

 それこそが現代の〝防人さきもり〟たる特隊生に与えられた、第三の任務なのだ。

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