第4話 会遇〜アリウムの話②〜

 鳥のさえずりが聞こえる。マツバは大きなあくびをして上体を起こした。テント越しに外の明るさが伝わってくる。夢見心地のまま外に出ると、ボタンが焚き火をいじっていた。


「おはよ」


 ボタンが火と戯れながら言った。


「おはよう」


 マツバが生返事をし、ボタンのとなりに座った。


 しばしの沈黙ののち、ボタンが火をつつくのに使っていた枝で彼の脇腹を刺した。


「痛い!なんで⁉︎」


 彼は脇腹を押さえながら聞いた。


「え?眠そうだったから」


 ボタンはどうしてそんなこともわからないのと言わんばかりに答える。


「だからって眠そうだからって熱い枝で刺さないで?」


「でも、熱くなかったでしょ」


「……熱くなかったけど!」


「じゃあいいじゃん」


「……いい、のかなぁ」


 挨拶がわりのたわいもない会話は、マツバが論点をずらされたことに気づかず丸め込まれて終わった。


 その後、朝食を済ませ、テントをたたみ、目的の地を目指すべく出発した。ボタンを置いていく勢いで進んで行くマツバはすでに、昨夜みせた弱々しさなど忘れたかのようだった。


 ずかずかと森を進んでいるとマツバはあるものを見つけた。は彼が一度も見たことのないものだった。


 それは、大きな骸のように思えた。彼らの身長の三倍ほど大きさで仰向けで倒れている大きな人型の骸。胸にあたるであろう部分には大きな穴が開いており、ところどころ茶色くなっていた。


 マツバは好奇心を抑えきれずそれに近づき、ボタンに呼びかけた。


「ねえ!これ何かわかる?」


「……わからない。けど、すごい……」

 彼からだいぶ遅れてその骸のそばにやってきたボタンは初めてみたそれにかなり圧倒されているようだった。


「神様だったのかな」


 マツバが骸を撫でながら言った。


「そうじゃなくて何かを守っていた何かなのかも」


「じゃあもしかしたらこの辺りにがいるのかな?」


「そうかもね」


 2人はしばらく時間を忘れてその骸の近くにいた。どこか心地よい気がするその骸に背を任せて横並びに座る2人の間を木漏れ日が照らす。


 それが昔なんだったのか、妄想を膨らませているとマツバのお腹が鳴った。


「とりあえず、この辺でお昼にする?」


 ボタンが声をかける。


「うん、お腹すいた」


 2人が昼食の準備をしていると強い風とともに、自分たち以外の人の気配を感じた。次の瞬間、足元に2本の矢が突き刺さった。


 とっさに2人は身を比較し身構える。


 風上から男が現れ、骸の上に立ち、こちらに弓を向ける。それと同時に彼はこちらをみて驚いたような顔をした。彼は弓を下ろした。


「君たち。ここで一体何をしている?」

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古時計 菅原 龍飛 @ryuta130

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