LAST:果てしなく続く旅路

 星を散りばめた夜空がまだ登らぬ日に照らされ、地平が次第に明るみをおびる。

 森には目を覚ました動物達の声が戻り、真っ暗だった木の下もぼんやりと照らされ始める。


 やがて森を抜ける風の音に交じり、何かが高速で振るわれるような風切り音が響きだす。


「ハッ、ハッ、せあ! フンっ!」


 無数の鎌風が生まれ、辺りの木々をざわつかせる。

 自然の風のものとは異質な音。

 その中心では、褐色の翼の持ち主が猛然と枝を振るっている。

 この場所は、マーブルが残雪の早朝修行に出くわし、ユーラの背に乗ったその場所だった。


 やがて宙に残像を描く枝は次第に七色に光をまとい、更に加速する。


「そぉらぁあ!!」


 残雪の掛け声とともに、枝は地面へ振り下ろされる。火山のように土煙が爆発し、地響きが森に響き渡る。


 やがて視界が晴れ、やれやれ、ひと修行終えたといわんばかりの満足げな残雪の背が見える。


「...今日はマーブルじゃねェな。誰だ?」


 またしても気配を察したのか、残雪は見えない観客へと声を掛ける。その声に木陰から静かに出てきたのは、かばんだった。


「…凄いですね…毎日それをやってるんですか?」

「ああ、まぁな。だが今日は少し強めだ」


 かばんの声へ、残雪は振り向く。

 生来の鋭い眼差しには、仲間を見る優しさがこもっていた。


「昨日のかばんだって凄かったじゃねェか。流石は敏腕狩人様だ。更にはマーブルも、サーバルも…ハクトウワシの言った通り、フレンズの持ってる力ってのは侮れるモンじゃねェや」


 かばんは嬉しかった。

 困っているフレンズを助けられたこと。

 そのフレンズとお話できたこと。

 自分の力が、フレンズの役に立ったこと。


 しかし、昨日散々無理をした体を引きずって訓練する残雪を見ると、どこか心配になった。

 残雪は、そしてフレンズのみんなは、仲間のためなら平気で無理をしてしまう事を知っていたから。

 何よりかばん自身もそうだったから。


「ありがとうございます。でも、残雪さんも疲れてると思うから、今日くらいは休みませんか…?」

「安心してくれ、無理しちゃいねェさ。そろそろ切り上げるとこだったしな」


 少し安心するかばんへ、残雪は続ける。


「マーブルには言ったんだが、この修行をやってるのも猛禽達に負けたくねェからだった。でもな、昨日気づいた。凄ェのは猛禽だけじゃなかった。お前らだよ。怖いだろうに覚悟を決め、特技を生かして立ち向かう様はあっぱれだった。まぁ、戦闘慣れはまだまだだけどな」


 照れ隠しに一言悪態を挟み、残雪は続ける。


「だから、自分の力をもっと磨きてェんだ。今の仲間だけじゃねェ、いつか出会うフレンズの力になるために、な。それに_


_私が傷ついて、お前ら皆本気で心配してくれたり、悲しんでくれた。だから自分を守り切るためにも、もっと強くなりてェんだ。特に、ユーラは二度と泣かせねェ」


 残雪は、がむしゃらに自分をいじめているわけではなかった。

 自分が傷つくことが仲間を傷つけると知り、本当の意味で仲間を護れる”雁の統領”を目指していたのだ。

 かばんの行動から学び努力する残雪から、今度はかばんがフレンズの生きかたの一つを知る。

 前を向く残雪の言葉にかばんが心打たれていたその時、かばんの背後からふいに声が聞こえる。


「それなら、私の指導なんてどうかしら?」


 その声の主は、オオタカだった。突然現れた立候補に、残雪は不意を突かれる。


「オオタカ、何でここに…」

「そろそろ朝ごはんの時間よ? かばんの気配を追っていたらここまでたどり着いたの」


 かばんは驚く。追われていたことに全く気が付かなかったのだ。森に潜む狩の名手の実力を改めて思い知る。


「あぁ、成る程な。それで、どういう風の吹き回しだ?」

「私は昨日、あんな特攻作戦を立ててしまった。それしかないと思ったから。でも、貴方は何が有っても諦めなかった。無茶をしてでも、かばんに自分を投げさせてでも、泥臭くみんな助かる方法を考え続けた。参謀として、あなたとの訓練を通して、その根性を学びたいの」


 残雪だけでなく、オオタカも昨日の戦いを通して前に進もうとしていた。

 向かい合う二人の目は、遥か遠くを見渡せる鳥の目にふさわしく、どこまでも輝き、透き通っていた。


「格闘戦で良ければ、私の戦い方なら教えられるわよ。貴方、一撃の威力は中々有るんだから、立ち回りが上手くなれば、お望み通りもっと強くなれると思うわ。受けてくれないかしら」

「正直、願ってもねェ条件だが…ハヤブサとの訓練は良いのか?」

「彼女には朝ごはんの時話すわ」


 ここまできっぱりと言われれば、残雪としては断る理由もない。


「まあ、分かった。そうして貰えるってなら、是非ご指導願いてェ」

「あら嬉しいわ。それじゃあよろしくね」


 話がまとまった3人は、ジャパリまんの木のもとへ向かう。


「もう! 3人とも心配したんだよ!」


 木の下でジャパリまんを頬張りながら、マーブルがぷりぷりと怒っている。

 いつもなら起きてすぐ探しに行っただろう。しかし昨日慣れない野生解放を多用したせいか、今日は朝食直前まで眠りこけてしまったようだ。


「あ、いや、すまねェ」

「まあ、戻ってきたからノープロブレムね!」

「もう少し遅かったら食べ終わってたぞ」

「それは早食いしすぎだよ!」


 全員で木を囲み、森の命に囲まれての朝食をとる。

 そんな思い焦がれた平穏の中、残雪が思い出したようにマーブルの方を向く。


「お、そうだマーブル、今日もアレ頼めるか?」

「え、ああ、歌のこと? 良いよ! じゃあいくよ?」


 森の生き物たちの声とマーブルの歌を聴きながら食べる朝食は、この上なく絶品であった。

 朝日に照らされた葉はキラキラと輝き、その光は風に絶えず揺らぐ。

 その風が、森の外に広がる爽やかな草原の香りを運んでくる。

 笑顔で喋るサーバルを、かばんは相槌を打ちながら聞く。

 オオタカとハヤブサも、昨日吹っ切れた者同士いつも以上に会話が弾んでいる。

 残雪とユーラは対照的に、お互い静かに体を寄り添わせ、ジャパリまんを一緒に深く味わっている。

 そんな情景をハクトウワシは、満足げながらどこか名残惜しさを含めた表情を浮かべ眺める。


「そういえばさっき3人は一緒だったの? 何してたの?」


 サーバルの言葉に、オオタカがハヤブサの方へ顔を向ける。


「そうだハヤブサ、格闘訓練なんだけど、私残雪の訓練もやろうと思うの」

「そうか、残雪が良ければ良いんじゃないか?」

「残雪には話してるわ。昨日かなり強くなってたのが分かったわ。それに朝早く特訓してるから、協力したくなったの」

「殊勝だな。だが残雪の訓練の間、私は何をしよう?」

「ええ、それは今考え中よ」


その言葉にぴくりと反応する鳥が一人。ユーラはハヤブサの方を向き、口を開く。


「じゃあハヤブサさん、私に戦いを教えてくれませんか?」

「唐突だな、確かに空いてるが、またどうして?」

「今まで皆さんと一緒に戦ってきましたが、やはり一撃で倒せないセルリアンも沢山います。私が猛禽の体でない事は重々理解しています。でも、努力で成せる領域まで、一撃の威力を高めたいんです! 仲間を失う怖さを、もう二度と味わいたくないから…!」


 丁寧で優しい口調に、次第に力がこもる。野生解放はしていないものの、その目は輝きに満ちていた。


「了解だ、稽古をつけよう。ユーラの底力は昨日良く分かったしな」

ハヤブサはその真っ直ぐな目と言葉に、快諾する。そんなハヤブサへ、残雪がうすら笑みを浮かべる。

「稽古をつける…か…一撃はともかく、接近戦と持久戦には気ィつけろよハヤブサ…猛禽様でも中々手ごわいと思うぞ…」

「えぇ、それは自信有りますよ。今から残雪さんで試してみましょうか♪」

「待って待って待って待って師匠コイツ師匠コイツ師匠コイツ師匠コイツ」


 自滅する雁の統領に、一同は思わず笑いに包まれる。

 そんな中、かばんはふと思い出したように群れ全員に声を掛ける。


「そういえば、皆さんの旅の話、聞いてみたいです! マーブルさんが面白いって」

「あー! そうだったねかばんちゃん! 聞きたい聞きたい!」

「そうだよみんな、聞かせてあげて!」

かばん、サーバル、マーブルの頼みに、群れ全員が楽しそうに語り始める。


「ベリーストロングなフレンズが居たのよ! 確か、イヌワシと名乗っていたわ!」

「へぇ…どれくらい強いんですか?」

「そうね。。。パワーでワタシがちょっと負けちゃう位よ」

「え、ハクトウワシさんが!? 物凄く強いんですね!」

「えぇ、でも全体では互角よ! 次会ったら勝つわ!」



「一度せつげんちほーでブリザードに飲まれたことが有ったのよ」

「うそ、オオタカ、大丈夫だったの!?」

「まあ、無事じゃなければここに居ないわ。ユーラが全員抱えて脱出してくれたのよ」

「すっごーい! ユーラはブリザードの中でも飛べるの!?」

「ええ、むしろ調子が出るって…」



「私は生物最速を名乗っているが、実は一人だけ勝てないヤツがいた」

「あれ、その話は聞いたことないよ」

「ああマーブル、まだ話してなかったか。凄まじい速さだった…しかも飛ぶのも上手い」

「ハヤブサが速さで勝てない事ってあるんだ…」

「自分でも信じられん。次会ったら絶対勝つ。確か”オオグンカンドリ”と名乗っていたか…」



「そういえば海を渡る時、物凄ェ細長い翼のやつがいたな」

「へぇー…会ってみたいですね」

「難しいかもな、アイツは陸にほとんど上がらないらしい」

「そうですかぁ…残念です」

「全く羽ばたかねェ癖に、めちゃくちゃ速ェ、インチキみたいな飛び方だったな」

「ふふっ…インチキ…やっぱりフレンズさんは皆凄いですね」

「全くもってその通りだ。名前は拍子抜けだったがな。アホウドリってお前…」



「あれは火山の近くを飛んでた時なんですけどね」

「え、火山? 私が居た島にも有ったよ!」

「そうなんですか? 奇遇です。ちなみにその火山は雪に覆われてて、セルリアンも沢山居たんですよ」

「うわぁ、危ないよ! うちのはそうでも無かったかなー…」

「まあ、セルリアンを倒すのが仕事なので。そして帰ろうとしたら、山の中腹にお湯が沸いてたんですよー!」

「へぇ! 温泉かな!」

「おんせん? 呼び方は存じ上げませんが、入ると気持ち良かったですね…その後なぜか皆ぐでんぐでんになったのですが…」



 色々なフレンズの話、知らない場所の話。長らく冒険を続けてきたかばんとサーバルであるが、空駆け大地を跨ぐ彼女らの話は新鮮味み溢れていた。

 そんな胸躍る冒険譚が終わるころには、手元のジャパリまんは無くなり、日も既にかなり高く昇っていた。

 やがてハクトウワシがおもむろに立ち上がり、一同に声を掛ける。


「ミンナ、旅の前の腹ごしらえはしっかりと味わったかしら!」

「え? どうして?」


 サーバルがきょとんとした顔で聞く。それに答えるようにハクトウワシは続ける。


 「ワタシ達は、そろそろ先に行かなくてはならないわ」


 その言葉に、一同の視線はハクトウワシへ向く。この木を囲って全員で食べる朝食は、これが最初で最後となるようだった。


「残雪やユーラが渡り鳥の飛び方を教えてくれたお陰で、ワタシ達は遠くまで飛べるようになった。今もどこかで助けを呼ぶフレンズがいるわ。その子達のためにも、私たちは行かなきゃならないの」


 鳥の群れ一同も、ハクトウワシの言葉に呼応する。


「そうね、まだまだこんなところで止まるわけにはいかないわ」

「もっともっと速さ、強さを磨き、沢山のフレンズを救いたい」

「任せとけ。私達雁の飛び方なら海でも越えれるさ」

「高山越えも任せて頂きたいものですね」


 言葉を発しながら全員、迷いなき目で次の旅に向け体を軽く動かす。


「…そっか、フレンズ達の為に、これからも頑張ってくれるんだね!」

「お別れするのは寂しいですが、頑張って下さい! また、いつか…!」

「それじゃあかばんちゃん、私達も行こっか! ヒト、今度は見つかると良いね!」

「うん!」


 かばんとサーバルも、今回の合縁奇縁を胸に刻み、新たな旅路へ乗り出そうとしている。


 そんな一同へ、先ほどから喉元に声を引っかけているフレンズが一人、マーブルだった。

 歌が有っても、自分には戦う力は無い。

 5人の群れに入れば、自分は足手まといになる。

 そんなことは分かっている。でも、別れるのは寂しい。

 恩人であり、仲間であり、友達であり。

 更にはかばんとサーバルも旅立ってしまう。

 協力して困難を乗り越える事を教えてくれた、この素敵なコンビとも。

 その時、偶然か必然か、ハクトウワシとマーブルの目が合う。

 マーブルは我慢できず、ついにのどに詰まらせた言葉を一気に吐き出す。


「あの、良かったら私も_」

「マーブル、アナタも一緒に来る?」


 互いの言葉は空中で交差する。

 あっけに取られるマーブルに、ハクトウワシは続ける。


「アナタの力が有れば、もっと多くのフレンズを救えるわ。でもそれ以前に、ワタシ達もう仲間でしょう?」

「え、あ…ぅあ…」


 体の力が抜け、途端に目頭が熱くなるマーブル。


「で、でも、私戦えないし…」


「なんだ、そんなことか」


 残雪はマーブルの言葉へ軽く返し、続ける。


「私が毎朝特訓してたのは、冗談抜きで戦闘がからっきしだったからさ。狩りなんてしねェから、動きなんて鈍い事鈍い事。ホントに頭くらいの大きさのセルリアンしか倒せなかった。悪寒と逃げ足だけは昔から自信有ったがな」


 マーブルだけでなく、かばんやサーバルも仰天する。そんなか弱い姿は、立派な戦士となった今の残雪には見る影もない。


「それでも皆受け入れてくれた。長距離移動や警戒の特技だけで、毎回凄ェと言ってくれた。いや、それどころか一緒に居るだけで楽しいと、仲間だと言ってくれた」


 残雪は記憶を吟味し、一呼吸おいてマーブルに贈る言葉を紡ぐ。


「だから力の有無なんて気にすんな。まあ、それでも戦いたきゃ、稽古はつけてやらァ。何、案外努力でそこそこの事はできるもんだ」


 残雪の言葉に、オオタカとハヤブサも続ける。


「まあ、そういう事よ。貴方の参加は歓迎するわ」

「そうだな。急降下ならいつでも教えられるぞ」

「う、うわあああああああありがとおおおおおおおおお」


 マーブルの目からは、一人じゃない喜び、仲間と旅ができる喜びが、キラキラと輝く玉露となってあふれ出す。そんな青い鳥に、屈強な鳥たちが寄り添う。


「あらあら、こんなになるとは思わなかったわ」

「グスっ…オオタカ…残雪って、ホントに昔は弱かったの?」

「うーん、弱かったていうか…狩りをしない鳥だから仕方ないんだけどね…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

残雪「おらァァァァ来んじゃねェェェェェェ」ベシベシベシベシ!

ユーラ「いやああああああやめてえええええ」ベシベシベシベシ!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…て感じで、腕をグルグルしながら弱点でもない場所を叩きまくってたわ」

「…う…ふ…クスッ…」

「あ゙ー!? バラすんじゃねェよオオタカ! マーブルも笑うなァァァ!」

「フゥー! 良いスマイルよマーブル!」

「何がスマイルだ! そういう笑いのスタイルは良くねェんだよ!」

「スマイル…スタイル…わざと…ですか残雪さん?…ふっ…」

「違ェよ断じて!」


 マーブルは笑いを堪えきれず腹を抱える。残雪は嫌がっていたが、マーブルの笑顔に次第に可笑しくなってきたようだった。


「だから笑うなって…あぁー…まあいいか」


 マーブルの涙も止まり、それぞれ別の道へと旅立つ時が来た。かばんとサーバルはバスに乗り込み、新たな仲間を加えた鳥の群れはゆっくりと空中に体を浮かべる。


「それじゃあ、元気でね! またいつか会おうね!」

とサーバル。


「さようなら皆さん! 無理はしないで下さいね!」

とかばん。


「ああ、そっちもな。お前ら面白かったぞ、かばん、サーバル」

と残雪。


「またお会いした暁には、高い空の景色を見せて差し上げますよ♪」

とユーラ。


「正義は負けないわ! ピンチになったらいつでも駆けつけるわよ!」

とハクトウワシ。


「何事もクールさは大事だけど、貴方達の熱さは好きよ」

とオオタカ。


「次会うまで元気でいてくれ。あと速さも鍛えておくべきだな」

とハヤブサ。


「二人には幸運をお裾分けしたからね! 困っちゃうくらい幸せになるんだからっ!」とマーブル。


 皆が言葉を交わした後、辺りの木々は旋風にしなり、木の葉や草が舞う。

 突風に身構えるかばんとサーバル。

 やがて舞い上げられた木の葉が青空へと軌跡を描く。

 その先端には、整然と並んだ鳥の群れが雲を貫いて彼方へと消える。


「…綺麗だね、かばんちゃん…」

「…うん。最後まで凄いフレンズさん達だったよ…」


 立つ鳥たちに圧倒される二人。

 フレンズ達の賑やかな声がなくなり、聞こえるのは風の音と森の生き物の声だけとなる。


 かばんは、ジャパリまんの木を少し離れたところから見続けているマスターのもとへ歩み寄り、別れの挨拶をする。


「マスターさん。本当にありがとうございました。ここを教えてくれたり、セルリアンと一緒に戦ってくれたり、ホントに…マスターさんが居なかったら…ボクたち...」

「…良インデスヨ、カバンサン。僕ハ”ラッキービースト”。ヒトノ案内ガ仕事デスカラ」

「それでも、ありがとうございました! マスターさんも、元気で」


 そういってかばんはバスへ戻る。

 その背後で、マスターは誰にも聞こえないよう、最小音量で言葉を発する。


「…カバンサン、ヒトト久シブリニ話セテ、楽シカッタデス…」

「…フレンズ…ヲ…助ケラレテ…嬉シカッタデス…」


「じゃあ、ボクたちも行こう」

「うん! 次はどこに行ってみる?」

「あ、そうだった…ボスさん、どこかヒトが居るか、ヒトの事を知れる場所は有りますか?」

「ケンサクチュウ…アッタヨ。イクツカノチホーヲ越エタ所ニ ”動物博物館” ガアルネ。案内時間ハ、二時間程ダヨ。ソレジャア…」

「…行コウカ」

「「おおー!」」


 森林の中の道に揺られ、黄色いジャパリバスが行く。

 初めての道を行くとき、大抵いつもでこぼこで険しい道ばかりだ。

 しかし、その険しい道中での出会いと別れは、いつもかけがえのない物を二人に与えてくれる。

 再び目的地を目指し、進みはじめた彼女らの目の前には、

 いつも通り、道が、空が、どこまでも、どこまでも、続いていた。



ジャパリパーク、ゴコクエリア某所


「…ん…あれ、ここは?」


 ほのかにサンドスターの七色の輝きを伴い、生命の気配無き薄暗い廃墟の中に一人の影が現れる。薄明りが照らすその姿は、褐色肌の少女だった。


「怖い…何なのここ…あれ、何か書いてある…」


 少女は身をかがめ、自分が乗っている台のようなものへ目を近づける。

 そこへは何やら薄汚れていて、くすんだ光沢を放つ冷たい板が埋め込まれていた。

 そしてその板には、何やら汚れとは異なる、線のような足跡のような模様が刻まれていた。


 少女はその模様に目を凝らし、読み上げる。


「…”期間限定展示! これがぼくたち”ヒト”の祖先の化石だ!” …何これ?」

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