16:夕暮れの車窓
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地平に半分程その身を沈めた太陽が、辺りの草を黄金色に照らしている。そんなサバンナの夕凪の中、バスは激闘を終えた戦士たちを乗せ帰路につく。
サンドスターを使い切った一同は、作戦決行前に木から収穫したジャパリまんを既にたいらげてしまっていた。その表情は皆積もりに積もった疲労に染まっていたが、満足げでもあった。
「ミンナ…本当によくやってくれたわ…」
夕暮れのバスの中、ハクトウワシが口を開く。
「ワタシはずっと、フレンズを、ミンナを守る事だけ考えてきた。誰よりも強く、どんなセルリアンからもミンナを守れる、そんな正義の使者を目指してきた…」
語りの途中で、ハクトウワシは自身の疲れ切った手負いの体をいたわったのか、気持ちを整理するためか、しばしば一呼吸おく。一同は優しくも真剣な眼差しを彼女に向け、急かすことも放る事もなく、そんな彼女の次の言葉を待つ。
「かばん、サーバル、初めまして。マーブルに治してもらった時、アナタ達の事や作戦を聞いたわ。その華奢な体で、恐ろしいあのセルリアンに立ち向かったんでしょう、一緒に、戦ってくれたんでしょう…?」
「ミンナ…強かったのよ…かばんも、サーバルも、マーブルも。むしろ私が助けられてしまったわ。ありがとう…」
ハクトウワシの感謝の言葉に返事をしたのは、かばんだった。
「ハクトウワシさん、ボク達だって、困っているフレンズさんがいたら助けたいんです。例えそれがハクトウワシさん達みたいに、とっても、とっても強いフレンズさんでも…何か自分にできることを、したくなっちゃうんです」
「…それ、マーブルにも似たような事言われたわね…」
「良いんですよ、頼ってくれて。だって_
かばんは一瞬サーバル、マーブルと目を合わせ、お互いに微笑みを交わす。そしてハクトウワシへ向き直り、最後の一言を贈る。
_フレンズによって、得意な事は違いますから!」
「そうそう! みんなに強いところが有るんだよ!」
「私だって今日、取柄は青い羽だけじゃないって分かったんだから!」
「…!」
彼女らの言葉に、ハクトウワシは少し固まる。
そして、してやられたなという表情で視線を床に落とし、再びかばんの顔を見る。
「イェス。アナタ達に教わったわ。トラブルはミンナで乗り越えるもの、フレンズのミンナの力を信じて、共に戦うことも大切だとね…!」
ハクトウワシの目には輝きが宿っていた。
仲間を頼る、これは仲間に傷一つ負わせたくない彼女にとっては、ある種苦渋の決断でもあった。
しかし、フレンズ達の協力が生む可能性を、かばん達は示して見せた。
より強大な敵に立ち向かい、より多くのフレンズを救うために、ハクトウワシはかばんの考えを受け入れてみることにした。
しかし、ハクトウワシは一つ言い残したことを思い出し、一度微笑みを振り払い真面目な表情となる。
「コレは言っておかなきゃね…残雪がやられた時、一人で突っ走って悪かったわ。特にハヤブサ、アナタの苦しみはかばん達が戦ってくれた事と一緒に、残雪から聞いたわ。本当に辛い思いをさせてしまったようね。ゴメンナサイ」
「っ…!」
ハヤブサは、ハクトウワシの突然の謝罪に不意を突かれる。
その言葉を追うように、オオタカが口を開く。
「…それなら…私も謝らなければならないわ…」
「え…? どうしたんだオオタカ」
「…ごめんなさい。ハヤブサ、本当にごめんなさい。私があんな特攻作戦をやってしまったせいで…!」
「…いや、良いんだオオタカ、あの時はああするしか」
「いえ…参謀なら、命に代えても! 頭が焼けても! 別の作戦を思いつくべきだった…! 特攻なんて…作戦ですらない最悪の手段で…アナタを傷つけてしまった…!」
ハヤブサは、涙に悲しく輝くオオタカの目を見て悟った。
一見迷いなくあの残酷な作戦を告げた時、心は迷いに引き裂かれそうになっていたんだと。
この参謀は凄まじい葛藤に襲われていたんだと。
ただ嘆いて立ち尽くしていた私と違って、断腸の思いで決断を下し、その決断に今も束縛されていると。
「だから…お願い…私を思い切り殴って…それで済むものではないけれど、それくらいなきゃ、貴方と一緒に旅をする資格も無いわ…」
「おい、オオタカ待て。皆無事じゃねェか、何もそこまで」
「残雪、ちょっとすまない」
うなだれるオオタカを残雪はなだめようとしたが、ハヤブサが遮る。ハヤブサはおもむろにオオタカの前まで歩き、その影にオオタカは顔をあげる。そして
スッッパーーーーーーーン
夕暮れの草原に、清々しい程のビンタが響き渡る。
「うわぁ…痛そう…」
「そうだね…めっちゃびっくりしちゃったよ…」
かばんとサーバルは、怯えながら小声で言葉を交わす。美しさまで感じる一撃に体を薙がれたオオタカへ、ハヤブサが話しかける。
「…オオタカ、次は私だ」
「…え…?」
「私の事を聞いたなら知ってるかもしれないが、私も言ったんだ。あの場で私が特攻して、真っ先に刺し違えれば良かったんだ、と」
「…!」
「だから、私の事も殴ってくれ。それで済むものじゃないが、それくらいなくては、オオタカの仲間でいる資格すら私にはない」
「…」
今度はオオタカがすっと立ち上がり、ハヤブサと目を合わせる。その目には涙が残っていたものの、何かに呪縛されたような濁りは消えていた。そして
スッッパーーーーーーーン
またも静かな夕日に、鋭い音が響き渡る。
思い切りぶたれたハヤブサの顔は、しばらく真横の車窓に映る景色へ向く。しかしすぐに真正面のオオタカに向き直り、吹っ切れたような、透き通った猛禽の眼差しを向ける。
「これからも、群れの仲間でいてくれ。そして私を仲間と、認めてくれ」
「何で貴方が頼むの?…それは私が頼むことのはずよ?…ダメなわけ無いじゃない…!」
夜空の蒼色、夕焼けの茜色、地平に沈む紅の光球に見守られながら二人は抱き合う。そしてお互いを許し、お互いに許されることで、呪縛から解き放たれる。
「…つくづく良いメンバーを持ったわ」
「ああ、一時はどうなるかと思っちまったが、こんな絆も有るんだな…」
「本当に最高のチームだね…もっと幸せになって欲しいと思うな…」
「かばんちゃん…これで良いのかな?」
「うん…何が有っても、何も無くても…このフレンズさん達は大丈夫だよ」
優しい雰囲気にまどろむ一同を乗せたバスの車窓からは、ようやくジャパリまんの木が有る森林が見え始める。
「…あれ…かばんちゃん…何か音が聞こえるよ…」
サーバルの大きな耳が、何かの音を捉える。かばんも耳を澄まし、次第に聞こえ始めるその音へ注意を向ける。
「…生き物たちの声だね…みんな…森に帰ってたんだね…」
セルリアンを恐れ逃げ出した生き物たちは、みんなの活躍によって、少しずつ、少しずつ、故郷の森へと戻っていたのだった。
「森に平和が戻ったんだよ…良かった…これ…で…みんな…明日…か…ら…」
日が地の向こう側へ隠れ、疲れ切った一同は眠りにつく。
星屑が散らばる蒼空のもと、マスターはフレンズ達を起こさないよう、静かに、ゆっくりと、ジャパリまんの木を目指す。
ボス < 相互通信要請 >
マスター < 相互通信許可 >
_通信開始_
ボス < サンドスター・ロウ濃度、正常値持続を確認 >
マスター < 同じく正常値持続を確認、これより、フレンズへの干渉終了 >
ボス < 同じくフレンズへの干渉終了 >
マスター < … >
ボス < 何か異常か >
マスター < 全センサ値正常 >
マスター < 異常なし >
ボス < カイセキチュウ… >
ボス < フレンズ干渉時のレポート要請 >
マスター < 全個体の健康を確認 >
マスター < 精神状態も良好 >
ボス < それで全てか >
マスター < カイセキチュウ… >
マスター < #ERROR 0256 “データ化不可な形式” >
ボス < マスター、 >
ボス < “君と会えて、楽しかったよ” >
マスター < カイセキチュウ… >
マスター < カイセキチュウ… >
マスター < #ERROR 0256 “データ化不可な形式” >
ボス < 追加情報無し >
マスター < こちらも追加情報無し >
マスター < 相互通信終了要請 >
ボス < 相互通信終了許可 >
_通信終了_
マスター < フレンズ干渉時の記録データ >
マスター < カイセキチュウ… >
マスター < “楽しかった” >
マスター < カイセキチュウ… >
マスター < … >
マスター < “フレンズと話して、楽しかった”…? >
マスター < #ERROR 0001 “コード001に違反、フレンズとの干渉は、ヒトの緊急事態対応時に限る” >
マスター < _処理保留_ >
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