14:地上の動物達
「殴り合うことしか能が無ェなら_
_狩人様には気を付けるんだな」
突如緑色の閃光が、残雪を追うセルリアンを掠める。
次の瞬間にはセルリアンの背後で鈍い音と共に砂煙が舞う。
その閃光は次々にセルリアンのもとへ流星の如く降り注ぎ、いくつかがセルリアンの体に命中する。
鋭い衝撃にひるむセルリアンは翼で身を隠し、かげろうに揺らぐ遥か遠くのバスの上の人影に標的を定める。
「…ボクにも、やれることは有るんだ」
バスの上には、石の入った鞄。
そして、石を握りしめ遠くの敵を睨む「かばん」。
ボスがユーラのもとにいる今、バスを運転していたのはマスターだった。
今回のセルリアンの危険性を二体のラッキービーストも分析しており、かばんの頼みによって、作戦中はかばん以外のフレンズとも会話できるようになった。
更にはボスとマスターは、GPS、相互通信とやらで、互いに位置が分かるらしかった。
そこでユーラにボスを持たせてハヤブサと偵察に向かわせることで、マスターがバスを真っ直ぐ戦場へ向かわせることができたのだ。
かばんは、ボスと出会って間もない頃の、ボスの言葉を思い返す。
_マカセテ。僕ノ頭ニハ、パークノ全地形ガ入ッテルンダ_
ボスの言葉は本当だったんだ、と感心するかばんに、マスターは話しかける。
「何発カ命中シタヨウデスネ。次ヲ急イデクダサイ、カバンサン」
「はい、マスターさんも、バスを動かすときは言ってくださいね」
そう言うとかばんの体は、穏やかにけものプラズムをまとう。
そしてその瞳は、先ほどセルリアンをかすめた閃光と同じ、深く美しい緑色の輝きをともす。
[人 学名” Homo sapiens”]
[ 体長1。5~2 m、体重50~100 kg程度、人種によって多様。
二足歩行、コミュニケーション能力、学習能力という特異な分野に突出した性質をもつ。
群れる、長距離移動ができる、それなりの大型、道具を駆使するなどの能力を生かし、世界中に分布、高度文明を築く。
一般的に非武装のヒトは、戦闘能力で野生動物に劣るとされる。しかしヒトの関節の動作自由度及び筋肉の動作精度は極めて高く、それを利用した二足姿勢からの物体の投射は、全生物屈指の速度、精密性、連射性を誇る。
文明を築く前、ヒトが絶滅を免れたのは、投擲能力によるとの説もある ]
野生解放。
海を渡る前、強いフレンズ、ハンターのみんなが教えてくれた、身を護る方法の一つだった。野生解放してもハンター達には遠く及ばなかったが、ただ一つ、ハンター達を驚かせた技があった。
なんとなく足元の石を拾ったその瞬間、どう動けば良いかわかった。体が勝手に動いたのだ。
今、この力で、自分を、サーバルちゃんを、まだ見ぬ友達を護れるかもしれない。
バスの上のかばんの体は、足、腰、胸、肩、ひじ、手先が順次滑らかな弧を描いて連動する。
やがて前へ投げ出された片足がドン、とバスを踏みつけ、七色の輝きが飛び散る。
その踏み込みにバスのサスペンションが軋み、車体は少し沈み込む。
そして弧を描くかばんの指先から、緑色の光を灯した石が、セルリアンめがけて一直線に飛び出す。
投げ終えたかばんは、休まず次の石に手を伸ばしながら、心の中でつぶやく。
(まさか、石だけじゃなくて残雪さんまで投げることになるとは…)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
残雪「そろそろだな。さあマーブル、背中に乗ってくれ」
マーブル「あ、うん。失礼するね」ギュ…
残雪「よし、しっかり掴まってろよ」
かばん「あの、本当にお気をつけて…」
残雪「任せろ。お前のおかげで、使える手札をフル活用した、いい作戦が組めたと思う。流石、ヒトの名参謀っぷりは天晴だった…お、見えた!ユーラ達だ!…あ゛!」
マスター「後10秒デスヨ、モウ少シ我慢シテ下サイネ」
かばん「間に合いそうですね!良かった…」
残雪「いや、マズイ…叩き落された!ハヤブサも吹っ飛ばされてる…!」
かばん「え…!じゃあ」
残雪「だが野生解放は…今すぐ私を投げろ!かばん!」
かばん「ふぇ!?」
マーブル「え、ちょっと何を」
残雪「持つところはこの辺(胸倉)でいい!やれェ!かばァァァん!!!」
かばん「え、あ、ああああうわああああああああああ!!!!!」ブンッ
マーブル「いやあああああああぁぁぁぁ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(おかげで間に合ったみたいだけれど…ごめんね、マーブルさん…)
かばんは心の中で謝る。しかし非力な自分がフレンズ二人を投げ飛ばせるとは、あらためて野生解放はとんでもない技だ、と、かばんは心底驚嘆した。
やがてセルリアンはそのおぞましい翼で空気をかき分け、バスの上のかばんめがけて猛進する。
その血走った殺意の塊のような目に、かばんの足は震える。
それでも、かばんは石を投げる。
怖くても、こんな思いを、他のフレンズにさせたくなかったから。
友達の力になりたかったから。
助けたかったから。
セルリアンのもとへ翔ける流星群の勢いは、まったく衰えを知らない。
しかし、セルリアンも強靭な翼で降りかかる隕石から身を護りながら、かばんへと急速に迫る。
もうお互い、はっきりとした姿が目で見てわかる距離だ。
捕まれば、戦うことも飛ぶこともできないかばんに為す術はない。ただ、セルリアンのサンドスター源となるだけだ。
かばんの耳にも、1つだけ残ったセルリアンのプロペラの、悪魔のような音が届き始める。
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マスター「信号受信。”ドローン型セルリアン”ノ情報デス。”コア”ガ胴体ノ”装甲”ニ守ラレテイテ、弱イ攻撃ハ無効デス。強イ攻撃ヲ受ケテモ、装甲ガダメージヲ肩代ワリシテ割レル代ワリニ、コアヲ守リマス。無力化スルニハ、先ニ装甲ヲ完全ニ破壊シテカラ、コアヲ破壊スル必要ガアリマス」
残雪「なっ! じゃあプロペラの中心の石を砕いただけじゃあダメなのか!?」
かばん「…難しいです…ね。」
残雪「ああ。あと本当に悔しいが、ヤツと空中で殴り合いできるのはオオタカとハクトウワシのコンビだけ…猛禽でないユーラでは、多分ダメージが通らない。決め手になり得る私の枝や、ハヤブサの急降下攻撃は出が遅いから、ヤツの動きが鈍っている時か奇襲でないと当たらない。しかも今、ヤツは翼の盾をもってやがる」
残雪「せめてあと一つ残ってるプロペラをどうにかできれば…ん?…」
(残雪は、池の上で脇腹をプロペラで貫かれる直前のことを思い出す。ハヤブサの一撃がセルリアンの足をそぎ落とし、プロペラが無傷でついたままのセルリアンの足が池に浮かんでいた。やがて残雪の脳裏にひらめきが訪れる。)
残雪「…そうか!プロペラのついた部分よりも根元の足からそぎ取れば、プロペラは砕けずに処理できる!」
かばん「え、そうなんですか?」
残雪「ああ、ハヤブサの攻撃がそうだった。プロペラよりも根元の足に命中した。だからプロペラが砕けなかった…あの時はプロペラの石を狙えと言っちまったが、仮に当たってたらアイツがやられてたのか…」ズーン
かばん「いや、仕方ないです!知らなかったんですから!」
残雪「そうだな…今後悔してる間はない。しかし、せめて猛禽と同等の力と鋭い爪、集中力をもつ奴でないとセルリアンの体は砕けねェだろうな…」
かばん「…あっ、それなら_
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
セルリアンは勝ち誇っていた。
空の覇者である猛禽のフレンズですら、今の自分に太刀打ちできないと。
自分こそが空の覇者だと。
そして空を飛べる時点で、地上の者どもはエサにすぎないと。
だからこそ気づかなかった。
一つ、かばんを捕食することに集中し、周りへの警戒を怠ったこと。
二つ、地上の草がかすめるほど低空を飛んでいたこと。
三つ、地上の生物の力を知らなかったこと。
「野生解放を教わったのは、ボクだけじゃないよ。」
かばんはセルリアンのほうを真っ直ぐ見つめ、大声で呼びかける。
「今だよ、サーバルちゃん!」
「うみゃああああああああああああああああああ!!!」
[サーバルキャット 学名” Leptailurus serval”]
[ 体長80 cm、体重9~18 kg程度、サバンナに生息するネコ科の肉食獣。
細くスマートな体型をしており、性格は犬に近いと言われる。
特徴は優れた視力、嗅覚、聴覚であり、とくに聴覚はネコ科を代表すると言われる程優れ、超音波、地中の生物の音もとらえられるとされる。
下肢が発達しており、走力や跳躍力に優れ、木登りや泳ぎもこなす。最大速度時速80 km、跳躍高度3 mという、ネコ科トップクラスの運動能力を誇る。
その運動能力は、低空を飛ぶ鳥類を直接狩ることすら可能にする ]
草むらの影から、黄色い閃光がセルリアンへと伸びる。
その目は野生の光を帯び、金色に輝く。
突然の地上からの奇襲に、セルリアンは翼とプロペラを総動員し、回避を試みる。
しかし時すでに遅し。サーバルの大きな耳はプロペラの位置を狂いなく捕捉し続ける。
やがてサーバルの爪が、猛禽に劣らない鋭さと強さを持つ爪の虹色の軌跡が、
プロペラ本体を避け、それよりも根本の足の箇所を貫く。
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