3-2:まだ見ぬ強者共(後編)

 探検する三人の前に現れた崖には、何か凄まじい力で抉られたような、フレンズの体より大きなクレーターが口を開けていた。


「え…何なんですかこれ…」


 マーブルはかばんの方へ振り向き、答える。


「これ、残雪さんがやったの」


「あ、うん、そうなんですか…」

「え、ちょっと、ドン引きしないでよ!」

「あ! いえいえ! 引いてないですから!」


 かばんも、凄まじいフレンズ達の話を聞き過ぎたのか、少し麻痺してきたようだった。そんなかばんをよそに、サーバルは懲りずに質問する。


「残雪、っていう子も強いの?」

「うん! これができる位ね。あれは確か朝早く起きて、朝ごはんまで時間があった時…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


マーブル「ん…眠い…あれ、誰か…」


(マーブルの視線の先では、残雪が木の枝を振っている)


残雪「ハッ、フンッ」ブンッブンッ


マーブル「…(訓練…かな? 邪魔しないようにしておこう)」


残雪「朝早いんだな。遠慮しなくていいぞ」


マーブル「ひっ!? バレた!」


残雪「当たり前だ、雁を侮るんじゃねェ。まあ、見せモンでもねェが、隠すモンでもねェしな。一撃見てくか?」


マーブル「一撃…ちょっと見たいな」


(残雪はそばに有った崖へ体を向け、枝を構えなおす。やがて、木の枝は七色の”けものプラズム”を纏い、輝きを増す)


マーブル「凄い! 何それ! めっちゃ光ってる!!」


残雪「コイツは”野生解放”だ。サンドスターはかなり使うが、眠っている力や能力を引っ張り出したり、持ってる物を強化したりできる。だから、こんな木の枝でも、私みたいな雁でも…!」


(そう言うと残雪は、崖に向かって七色に輝く枝を振り下ろす。凄まじい爆音と土煙の嵐の後、残雪の前の崖には身の丈を超えるクレーターが現れる。それほどの衝撃にもかかわらず残雪の持つ枝は、サンドスターで強化されていたためか、無傷で原型を留めていた)


マーブル「…え…何これ…凄まじすぎるよ!? 本当に同じフレンズなの?」


残雪「ああ、ただのフレンズだ。猛禽の面々はこんなモンじゃねェぞ」


マーブル「えぇ…(強さがが何もかも違いすぎるよ…本当にセルリアン相手に戦ってきたフレンズ達なんだ…)」


残雪「ん? おっ、湧き水が出やがった」


(残雪が抉った崖からは、透き通った水が噴水のように湧き、せせらぎを作る)


残雪「…丁度一服しようとしてたトコだ。一緒にどうだマーブル、直にユーラも来るぞ」


マーブル「…え? あ、うん! じゃあ頂こうかな!」


(二人は近場に有った丸太に腰掛け、せせらぎの水を口に含む。やがてユーラも現れ、明るく染まり始める地平を眺めながら会話を交わす)


マーブル「綺麗な空だね! やっぱり朝は気持ちいいよ!」


ユーラ「ええ、思わず高く飛びたくなりますね」


残雪「ああ、折角特訓するんなら、せめていい風景の下でやりてぇってもんだ」


マーブル「あれも訓練なの?…やっぱりセルリアンと戦うため?」


ユーラ「ええ、もちろん訓練ですよ」


残雪「ただ、純粋にセルリアンを倒してェってだけじゃねぇかもな」


マーブル「え、どういうこと?」


残雪「何て言うか、猛禽の奴らに引けを取りたくねェんだ」


マーブル「何言ってるの? 残雪もめっちゃ強いよ? 崖を吹っ飛ばしたでしょ!」


残雪「ああ…だが、あれは打つまでの隙が長すぎるんだ…ちょこまか動き回るセルリアン相手だと、中々当たるモンじゃねェ」


マーブル「でも! 出会った時に私を狙ってた地中のセルリアンに気付いたのも、残雪だったじゃない!」


残雪「ああ、だがトドメを刺したのはハヤブサだ。私達、雁には猛禽のような握力も爪も無い。体力や根性なら負けねェが、そもそも戦うための体じゃねェんだ。それでもいざって時には、もっと力になりてェ」


ユーラ「その気持ち、よくわかります。でもあの三人とも、残雪さんの長距離飛行や危険予知には感謝してくれていましたよ」


マーブル「そうだよ! 危ない時、いつも真っ先に気付いてくれるよね、何度も助かったんだから!」


(不意に褒められた残雪は、少し力んだ不器用な笑顔を返す)


残雪「そうか…ありがとな、感無量だ。だが…それでも戦いで足引っ張るのは御免だな!」


ユーラ「フフ、残雪さんのそういう所、大好きですよ。今日は特訓にお付き合いしましょうか…?」


残雪「え゛っ…うっ…そうだな…ああ、うん」


ユーラ「あら、何か嫌そうですね?(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)」


残雪「いや違う! せめて! せめて時間制限つけろ!」


ユーラ「時間制限? もちろん私の体力が尽きるまでですよ?」


残雪「あ゙!? だからそれだと日が暮れてまた昇っちまうだろうが!」


マーブル「残雪、せっかく誘われたんだから付き合おうよ」


残雪「おい待てマーブル、お前はコイツの体力を知ら…そうだ、マーブル、雲の上の景色、見てみたくないか?」


マーブル「え、そういえばどんな風になってるんだろう…そんな高い所は飛べないし、行ったこともないや」


残雪「そうか、ユーラはな、パークで最も高い所を飛べるフレンズなんだ。雲の上なんて余裕も余裕、きっと凄い絶景が見られるぞ」


マーブル「へぇ、凄い! ちょっと見てみたいな! ユーラ、連れてって欲しいな!」


ユーラ「うーん、そうですね、それじゃあ行ってみましょうか!」


マーブル「わーい! くっもの上♪ くっもの上♪」


残雪「ふう…(助かった…)」


ユーラ「…私はこれをウォーミングアップとしますので、残雪さんも訓練の準備、しておいて下さいね♪」


残雪「ヴぇっ!?」


ユーラ「それじゃあマーブルさん、背中にどうぞ。しっかり掴まっていてくださいね」


マーブル「うん! 準備OK!」


ユーラ「よし、行きますよ…!」バサッ…ゴォォォォ


(ユーラは翼をはためかせ、その姿はあっという間に空の群青へ溶け込む)


残雪「はぁぁぁ…どえらいことになっちまった…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「残雪さん、謙虚なんですね。十分誇っても良いくらいなのに…」


 かばんは、崖を穿つ力を持ちながらも謙虚な鳥に感心する。


「そうだね! 昔 ”雁の統領”? だったらしくて、それに恥じないように頑張りたいとかで」

「しかも喋り方は少し怖いけど、穏やかで心優しいんですね」


 その言葉に、マーブルの顔がにわかに明るくなる。


「そう! そうなんだよ! そこのギャップが良いんだよね。確かにあんな統領さんがいたら、ずっとついて行きたくなっちゃうよ!」

「分かります! でも、もう一人のユーラさんっていうフレンズに怯えてたみたいですけど…仲が悪いわけじゃないんですよね?」

「もちろん! あの二人は群れの中でも素敵なコンビなんだから! あれだってじゃれてただけだよ! まあでも…残雪が怖がるほどユーラが凄いっていうのは事実かな…」


 それを聞いたかばんは、素直に喜んで良いのかそうでないのか、複雑な心境になる。


「ユーラはドッカーン! みたいな攻撃はしないんだけど、物凄く体力があるの。どんなに動いても平気なんだよ!」


 その言葉に、サーバルが反応する。


「そうなんだ! かばんちゃんもね、どんなに歩いても疲れないんだよ!」

「あはは、サーバルちゃん、恥ずかしいって…」

 変わらず仲むつまじい二人を眺めながら、マーブルは話の続きを語る。

「そうなんだ! でも、ユーラの疲れ知らずは、何て言うかもう別次元で…さっきの話の続きなんだけど…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


マーブル「うあああああ、速い! もう雲が真横に!」


ユーラ「フフ、まだまだ上りますよ♪」


マーブル「ユーラ、こんなに飛ばして疲れないの? こんな高さ、私飛んでたら息が切れちゃうよ」


ユーラ「ええ、それが私の取り柄ですからね。疲れるどころか、体が温まったのでペースを上げますよ…!」ゴォッ


マーブル「うぉわああああああああああ!」


(やがてマーブルの頭上には朝日に彩られる一面の蒼空のみが広がり、見下ろせば姿形も十人十色な雲が漂う)


マーブル「うわあぁ…すっごく綺麗…空の上にこんな世界があったなんて…」


ユーラ「喜んでもらえて何よりです。その日によって、空は色々な姿を見せてくれます。どれも美しいんですけどね…」


マーブル「へぇ…でも…本当に高い…何もしなくてもちょっと息が苦しいな」


ユーラ「あっ、ゴメンナサイ! 大丈夫ですか?」


マーブル「へーきだよ! でもユーラ…こんなところを飛んでもまだ余裕そうだね…」


ユーラ「そうですね。もっと高く飛べるのですが、いかんせん二人だと危険なので。今日はこのくらいにしておきましょう♪ それじゃあ降りますよ」


マーブル「うん!(まだ上に行けるんだ…)」


(二人は流れる雲の合間をゆったりと下る)


マーブル「ねぇ、ユーラ」


ユーラ「はい、何でしょう?」


マーブル「残雪とは長い付き合いなの?」


ユーラ「ええ、フレンズ化してすぐの頃、セルリアンに襲われた所を助けていただいて、それからずっと一緒に旅をしています」


マーブル「そうなんだ、だから仲が良いんだね!」


ユーラ「ええ? そう見えちゃいますか…?」


マーブル「うん! 何だか話さなくても、お互い分かってる感じがするよ」


ユーラ「あぁ…何というか、一緒に旅をしていると、お互いの気持ちが分かるっていうのは有るかもしれませんね。それにマーブルさんの言う通り、大好きですよ、残雪さんのこと」


マーブル「わぁ!」


ユーラ「出会った時からずっと助けてくれて、ちょっと口調が荒かったり、疑り深い所も有りますが、熱くて、仲間想いで、勇敢で…同じ雁なのに憧れちゃいますね…」


マーブル「…それ、残雪に伝えてあげよっか…?」


ユーラ「えっ! いやいやいやいいですそんなっ///」


マーブル「あー、照れてるー?」


ユーラ「あぁ、もう! 想いは内に秘めておくのも大事なんですよっ!」


マーブル「えへへー…あれ、あそこ…大変! フレンズがセルリアンに襲われてる!」


ユーラ「あら、本当ですね。浮ついた話は少しお休みにしましょう。ここからは少し本気を出すので、マーブルさんは離れて私の背後にいて下さい!」


マーブル「うん、わかった!」


ユーラ「雁の戦い、とくとご覧下さいな」



「うわぁぁぁ!た、助けてくださぃぃぃぃぃ」


セルリアン「キュルルルルル…ギャッ!!」バッ…キィィィン


(セルリアンは怯えるフレンズに向け鋭い腕を放つ。間一髪の所で、ユーラの腕がセルリアンの腕を受け止める。その腕は七色の輝きを纏い、嘴を模した籠手を備えていた)


ユーラ「そこまでですよ。ここから先は私がお相手致しましょう」ギギ…キ…゙


「え、え?」


ユーラ「今のうちにお逃げ下さい! 早く!」


「は、はいぃぃぃ」スタタタタ…


マーブル「うわぁ!何その腕!」


ユーラ「野生解放…というものですね。猛禽のような爪ほどではないですが、これが私達の武器です。残雪さんもこれを使えますよ」


マーブル「凄い! セルリアンの腕も防げるんだ!」


ユーラ「ええ、それじゃあ行きますよ…!」バァンッ!


(ユーラは受け止めていたセルリアンの腕を跳ねのける。七色の火花が飛び散り、セルリアンの体は揺らぐ。その瞬間、ユーラの体はけものプラズムと熱気を放ち、猛然と腕を振りかぶりセルリアンに襲い掛かる。ユーラの腕は全力で羽ばたく翼のように振るわれ、セルリアンの体を容赦なく削いでゆく。体一つ分の隙間もないインファイトにセルリアンは応戦するも、全ての攻撃はユーラに当たらず空を切る。迫りくる籠手に少しずつ体を削られ、細かな破片が辺りに飛び散る。やがて数発が、上部に露出してきたセルリアンの石を捉える)


マーブル「やった!石に当たった!」


ユーラ「いえ…まだダメです…!」


(雁の嘴は獲物を狩るためのものではなく、一撃ではセルリアンの石を砕き切れないこともあるのだ。しかしユーラはあきらめない。猛攻は一向に収まらず、舞い踊る体が辺りに旋風を起こす。セルリアンの石は籠手が当たるたびにひび割れ、やがて)


セルリアン「ギィイ…」パッカーン


ユーラ「ふぅ、やりましたね」


(ユーラの放つ熱気は収まり、籠手は虹色の光となって空へ消える)


マーブル「…全然強いじゃん…雁って、強い鳥だったんだ!」


ユーラ「いえ、そんなことは有りません」


マーブル「え?」


ユーラ「残雪さんも言っていた通り、あれには爪のような鋭さは無いです。今回みたいに、石を一撃で砕けないことも…」


マーブル「一撃で倒せなくっても、ユーラは何発でも打ったじゃん! そして倒しちゃったんだから、ユーラは絶対強いよ! 私が保証するんだから!」


ユーラ「…日頃の鍛錬が実ったようですね…褒めてくれてありがとう。素直にうれしいです♪」


マーブル「うん!さあ、残雪の所に戻ろ?」


ユーラ「そうでしたね、丁度良い準備運動もできたことですし」


マーブル「(あれで準備体操なんだ…残雪が嫌がったのも分かるかも…)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そんなに飛んで、セルリアンと戦って準備運動なの!? 私ちょっと走ったら息が切れちゃうのに!」

「あ、あはは…ボクの ”歩いても疲れない” っていうレベルじゃないや…」


 かばんもサーバルもユーラの別次元の体力に目を丸くする。


「そんなことないよ! かばんちゃんはかばんちゃんですっごーいんだから! あとユーラも、残雪と同じで謙虚で優しいんだね!」

「うん! 群れの中では戦うことに対して控えめなんだけど、やるときはやる、芯の強いフレンズなんだよ!」

「頼もしいね! そういえば何でそんなに元気なのかな?」

「元々高い所を飛ぶのが得意な鳥だったらしいの。しかもその後ホントに残雪と訓練してたんだから…」

「えー!! どうなったの!?」

「…残雪、こってりしごかれてたよ。流石にお昼くらいまででユーラも勘弁してたけど、残雪はうつ伏せでなんかうわ言を言ってたよ…」

「うわぁ…」


 かばんもサーバルも、まだ見ぬフレンズ、残雪に同情する。


「それで、その後ユーラさんは…?」

「…体が温まったついでとか言って、山の周りを飛び回ってたよ…」

「うわぁ……」


 残雪の言っていた、日が沈んでまた昇るまで動ける、というのは誇張ではないらしい。ユーラにも会いたいと思いつつ、怒らせてはならないと肝に銘じたかばんとサーバルであった。

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