3-1:まだ見ぬ強者共(前編)

 マーブルを先頭に、三人は深緑の中をゆく。

 そこはかつて、博士と出会った図書館の近くにあった森と似て非なるものだった。

 山に茂った森は起伏が激しく、場所によって表情を大きく変える。

 その壮大な自然に、かばんもサーバルも興味津々だった。


「すっごいね! 昔行ったじゃんぐるちほーとも、しんりんちほーともちょっと違うよ!」

「色々な景色が見れて、凄く面白いです!」

「あははっ! お客にそう言ってもらえると嬉しいな! ガイドし甲斐があるよ!」

「しんりんガイドだね! がーいど! がーいど! しんりんがーいどー!」

「しんりんがーいどー!」


 やがて元気よく森を行進する一同の前に、大きな岩が現れる。

 おおよそフレンズ三人分程だろうか、

 しかし森のど真ん中に不自然に置かれたその大岩に、かばんもサーバルも疑問を持つ。


「うみゃあ!なにこれー!」

「何だろう、近くに岩場もないのに…誰かが置いたみたい…」


 その言葉に、マーブルは思い出したように答える。


「あ、そうだよ! これはね、ハクトウワシが持ち上げてたの!」


「え・えー! こんなのをー!?」

「そんなに力持ちなんですか…!?」


 驚く二人を見て、マーブルは得意げにそのいきさつを語り始める。


「凄いでしょ? 確かお昼ごろこの辺を飛んでたら何か声が聞こえて…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ハクトウワシ「925…926…927…」


マーブル「うわぁ、ハクトウワシ、そんな岩持って何やってるの!?」


ハクトウワシ「Oh、これ降ろすからちょっと待って」ドズゥゥゥン…


ハクトウワシ「フフ、モチロン筋トレよ!」


マーブル「す…凄すぎるよ…! どうやったらそんなに強くなれるの?」


ハクトウワシ「日々の鍛錬よ! 最初は誰でもちっぽけなモノ。いつもやるべきトレーニングを投げ出さずに続け、時に限界のバトルを経て、そしてフレンズは強くなるの!」


マーブル「か、かっこいい…でも、限界のバトル…危険じゃないの?」


ハクトウワシ「モチロン危険よ。それでも正義は勝たなければならない。だからこそ誰にも負けない強さを持たなくてはならないわ」


マーブル「どうして…どうしてそこまで誰かを助けようと頑張れるの? 自分が傷つくかもしれないのに…」


ハクトウワシ「…マーブルはワタシが傷つくのはイヤ?」


マーブル「当たり前だよ! フレンズが傷ついて喜ぶわけ無いんだからっ!」


ハクトウワシ「フフ、ワタシも、皆も、それと同じよ」


マーブル「…!」


ハクトウワシ「私はハクトウワシ。空の覇者”猛禽”の一角。誰かが守らなければならない笑顔が有り、私にはその力が与えられた」


ハクトウワシ「それだけで理由は十分だわ」


マーブル「…やっぱり凄いや…私には戦う力は無いけど、この青い羽しか取り柄ないかもだけど、何かの力になれないかな?」


ハクトウワシ「センキュー、マーブル。さっき言った通り ”笑顔” は ”誰かが守らなければならない” 大切なモノ。それがある限り、ワタシ達は戦えるわ」


ハクトウワシ「だから、いつも笑っていて。それがオーダーよ、OK?」


マーブル「…うん…! 分かった! 幸せを呼ぶのは大得意なんだからっ!」ニコッ


ハクトウワシ「グッド! それじゃあ筋トレ再開よ! インターバルしたから百回ペナルティね! 1…2…3…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「えぇ…これを何百回も…」


 かばんは唖然として、目の前の大岩もとい筋トレ用具を見つめる。


「そうだよ! やっぱりセルリアン狩りのキャプテンだけあるよ! フレンズ達を助けるためには、どんな敵にも立ち向かうんだから!」

「へぇー! 頼れるリーダーだね! ちょっと持ってみても良いかな?」


 サーバルは目の前の大岩に手をかけ、渾身の力を籠める。


「んぬぅー…くうぉおおおおおお…うぬぬぬぉぉおお…」


 自重で土にめり込んでいた大岩が、次第にもち上がってくる。


「え! サーバルも凄いじゃん! 持ち上げられるの!?」

「み゙ゃぁあああ…! 何とかねー!」


 大岩はやがてサーバルの腰の高さまで持ち上がる。しかし遂に力尽きたのか、半ば落とすようにして元の場所に降ろす。森中には鈍い音と共に地響きが伝わる。


「えへへー…バスより全然重たいや。やっぱりハクトウワシは凄いね…」

「いや、十分凄いよ!? 私なんてびくともしなかったもん!」

「ハクトウワシさん…会ってみたいな…」


 猛禽のリーダー格、ハクトウワシの戦闘力の片鱗を目の当たりにした一同は、その大岩を後にする。

 かばんは群れのフレンズについてさらに知ろうと、マーブルに問いかける。


「他の群れのフレンズさんも、みんな強いんですか?」

「うん、とっても強いよ! オオタカは飛ぶのが凄く上手くて、しかも賢いから”参謀”として作戦を立ててるんだ! それで、ハヤブサは誰よりも飛ぶのが速いの。オオタカとハヤブサはよく一緒に訓練してるんだよ!」


 聞き慣れない言葉に、サーバルは反応する。


「”くんれん”って何?」

「ああ、私も詳しくは分かんないけど、強くなるために頑張ることらしいよ! それでね、森から凄い音が聞こえたから、音のする方へ行ってみた事が有るんだけど…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


オオタカ「あら…前より…かなり、鋭い…動きね…!!」


ハヤブサ「ああ、どれだけ…練習したと思ってる…!」


(ほぼ互角の空中戦を繰り広げる二人。風を翼で掴み、縦横無尽に空を駆ける。その軌跡が重なる点では空気が震え、衝撃が地上にまで届く。互いに背後をとり、とられ、輝く爪を振るい、振るわれた爪を避ける)


オオタカ「えぇ、組み合えば分かるわ…なら…これならどうかしら!」


(オオタカは突然翼を畳み、森の中へとダイブする。それをハヤブサが追う。やがて二人の姿は森の緑の中へ溶け込む)


ハヤブサ「うっ…くぁ…!」


(森へと高速で突入したハヤブサへ無数の枝葉が迫る。最初の数本はかろうじて避けきれたが、どうしてもいくつか体をかすめ、痛みが走る。たまらずハヤブサは地面へ着地し、木の葉を激しく舞い上げ滑りながら減速する。そしてオオタカを探すが、その姿はどこにも見当たらない)


ハヤブサ「(どこだ…どこだオオタカ…!)」


(その瞬間、ハヤブサの体に悪寒が走る。視界でも音でも、味でも匂いでも触った感じでもない。しかしそのどれよりも鮮明で生々しい危険信号を彼女ははっきりと感じた)


オオタカ「森の中で、私相手に立ち止まるのかしら?」


(不意に耳を撫でた声と余りの悪寒に、ハヤブサは直感的に翼と足に渾身の力を込めて跳ねる。刹那、ハヤブサの居た場所に、けものプラズムによる鋭い虹色の軌跡が描かれる。ハヤブサの目の前には、木に着地し、凄まじい眼光を向けるオオタカが一瞬映る。次の瞬間、森の景色が歪み、凄まじい衝撃が腹部へ響く)


ハヤブサ「ぐっ…!!!?」


(気づいた時には、地面には自分が引き摺られた跡が見え、体はオオタカに取り押さえられていた。決着がついたその時、不安げに遠くから戦いを見張っていた一人の影が現れる)


マーブル「何やってるの!? ケンカはダメだよ!」


ハヤブサ「ああ、マーブル。心配かけてすまない。これは訓練なんだ」


オオタカ「ええ、そうよマーブル。お互いケガには気を付けているわ」


マーブル「そうなんだ…凄い音だったよ…やっぱりセルリアンと戦うため?」


オオタカ「ええ、強いセルリアンがいつ現れるか分からないから、こうして模擬戦を行っているの。まあ、ケンカに見えちゃうのは分かるわ」


マーブル「戦ってたんだ…どっちが勝ったの?」


ハヤブサ「見ての通りオオタカだ。私は一撃必殺専門だから、格闘専門のこいつには少々分が悪いな」


オオタカ「あら、速度がついている時のあなたは中々の機動性だったわよ? 咄嗟に私の攻撃をジャンプで避けたのも良い反応だと思うわ。でも、森の中を飛ぶために減速してしまった。格闘戦で減速はご法度よ?」


ハヤブサ「くっ…一撃必殺なら誰にも負けないのだが…」


オオタカ「知っているわ。でも、セルリアンが貴方に一撃のチャンスを与えてくれるとは限らない。こういう格闘戦も、実戦ではどうしても必要だわ」


ハヤブサ「むう…正論だ」


オオタカ「でもそれは私も同じ。私の一撃は貴方のものには及ばない。いくら殴り合いに強くとも、最後に倒せなければ意味が無い。お互い強くなりましょう」


ハヤブサ「…ああ。だが、少し耳の痛い言葉だな…」


マーブル「…凄いね…今でも十分強いのに、まだ強くなろうとしてるの?」


オオタカ「当然よ。他の子達を絶対に守るためにね」


ハヤブサ「うむ、それにキャプテンもすぐ無茶をするからな」


オオタカ「ふふっ、確かに。すぐにトラブルの中に飛び込んじゃうんだもの。あの背中は、私達が守らなくちゃね」


マーブル「本当に素敵なチームだね! きっと幸せが来るんだから!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…どこまで強くなろうとしてるの!?」


 果てしなく高みを目指す二人の話を聞き、サーバルは感心を通り越して仰天していた。


「ホントだよ…もうあのフレンズ達に敵うセルリアンなんて居ないかもね」


 マーブルの話が進むと共に、風景は移ろってゆく。

 木の形も、葉が丸いもの、葉が尖ったもの、色が濃いもの薄いもの様々だった。

 虫の声も、高い音、低い音、けたたましい音、上品な音、進むたびに変わっていった。


「あ、そうだ、後の二人なんだけど…」


 マーブルはそう言って立ち止まる。

 三人の目の前には、大きな崖がそびえ立っていた。

 その崖には、何か凄まじい力で抉られたような、フレンズの体より大きなクレーターが口を開けていた。


「え…何なんですかこれ…」


 マーブルはかばんの方へ振り向き、答える。


「これ、残雪がやったの」

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