【コミカライズ記念】春の姫君の休日
「いい加減にしてください!」
ある日のこと、私の世話係をしてくれているサラさんの怒りが爆発した。
とはいえ、サラさんは基本的に(私には)激甘だから怖くない。むしろ怒りの矛先は筆頭騎士のレオさんに向いているようで……。
なにゆえに?
「そもそも姫様は働きすぎなのです! そしてそこのポンコツ騎士たちは姫様を休ませることもできないなんて、使えないにもほどがあります!」
「サラさん、そこまで言わなくても……」
「姫様は甘すぎます!!」
「はい! ごめんなさい!」
ようやく姫としての仕事……儀式などに慣れてきた私だけど、騎士さんたちへの気配りまで出来ていないらしい。
働きすぎだとサラさんに思われてしまうのなら、どうにかすべきだったのだ。
どうにかサラさんの怒りをおさめたのは「今日は休みにする」という私の言葉だった。
これからは定期的に休もう。じゃないと、レオさんたちが怒られちゃうもんね。
「私がちゃんとしていないから、レオさんたちまで怒られちゃって、ごめんなさい」
「いや、姫さんは気にしなくていい」
「そうですよ。我らの姫君は一生懸命頑張ってらっしゃるだけです」
落ち込んだ私は、塔の庭にあるウサギ小屋でピンクもモフモフをモフモフすることにした。モフモフは癒しだ。モフモフは正義だ。
レオさんとジャスターさんが護衛としてついてきてくれた上に、落ち込む私を交互に慰めてくれている。ありがたいやら、申し訳ないやら……。
「それにしても、休みの日って何をすればいいのかわからない……」
「趣味とかやればいいんじゃないか?」
「うーん、趣味は……絵を描くこと?」
「それはお仕事ですね」
「楽器を弾くことも……」
「それも仕事だな」
「うがー!! 趣味が仕事になっちゃってるー!!」
そう言いながらモフモフを音速でモフモフしたところ、ブワッと毛が舞い散ってしまった。
いつもウサギの毛を回収してくれる庭師のアークさん、お仕事を増やしてごめんなさい。このウサギのモフモフ毛はお金になるから、そこらへんに放置してはダメなのだ。
それはともかく。
「お休みの日の過ごしかた……レオさんとジャスターさんの休日は?」
「あー、塔に来る前は飲み歩いたりしてたなぁ」
「飲み歩き……」
そういえば、この世界に来てから塔の外でお酒を飲んでいないなぁ。
「私は読書ですね」
「読書……」
こっちの世界にも小説みたいなものはあるけれど、本を読んでいるとサラさんに「お勉強されていて偉いですね」って褒められるんだよね。
休んでいるって感じじゃないのかもなぁ。
ということは。
「ダメだぞ」
「なぜ!? そしてまだ何も言ってないのに……」
「姫さんが飲み歩きなんてダメだろ。不良になったとか言われるぞ」
「……お酒、飲めるのに」
この世界では成人していたら飲酒できるけれど、水で薄めたワインくらいは子どもでも飲んでいる。
なぜかサラさんは果実水やお茶ばかり出してくれるんだけど。
いや、私は成人している……はず。
「ん? 飲み歩いていたのは塔に来る前ってことは、今のレオさんは休日に何をしているんです?」
「あー、まぁ、色々と」
こてりと首を傾げながらレオさんに聞いても、言葉を濁されてしまう。
何だろう。私には言えないような趣味とか……。
「ふふ、筆頭はですね……」
「ジャスター」
クスクス笑いながら話そうとするジャスターさんに殺気を向けるレオさん。
いや、殺気は引っ込めてください。そういうのはパワハラですよ。
私が「姫」の圧をかけてレオさんにパワハラ返しをすると、ジャスターさんに話を進めてもらう。パワハラになる? それは知らない子ですね。
「ジャスターさん、休日のレオさんは何をしているんですか?」
「そうですね。たとえば姫君が書庫にいれば、読書をしていますし」
「ふむふむ」
「姫君が庭でウサギを愛でていれば、庭を散歩していますし」
「ふむふむ」
「街で買い物をしていれば、街を歩いているようですね」
「ふむふ……む? それって、私のいるところにレオさんがいるってことですか?」
「そうなりますね」
「……別にいいだろが。迷惑をかけてるわけじゃないし」
そっぽを向いたレオさんは首まで真っ赤になっている。そういうのを見ると釣られてしまうからやめてほしい。うう、私も顔が熱くなっちゃうよう。
とりあえずピンクウサギをモフモフすることに集中し、なんとか平常心を取り戻したところで「あれ?」となる。
「レオさんは飲み歩くのが趣味だったのに、お酒飲まなくて大丈夫なんですか?」
「それは……」
「大丈夫ですよ。筆頭は姫君が就寝された後に、私が夜番なのを確認してから飲むようにされてますから」
「はっ!? おま、何で知って……」
「何年、貴方のもとで働いていると思っているのです?」
な、なんということでしょう。
レオさんの休日は……いや、騎士さんたちは皆、姫である私を中心に動いてくれているのは知っていたけど、レオさんは別格のような気がする。
驚いている私に、レオさんとジャスターさんは苦笑して言った。
「別に。これが普通だろ」
「さすがに筆頭ほどではないですが、騎士たちは皆同じようなものですよ」
「俺は普通だ」
「はいはい。そういうことにしておきますよ」
私は二人のやり取りを聞きながら、毎日をのんびり過ごせていることが彼らの努力によるものだということを実感していた。
ありがたや……と感謝の念を送っていたところで、良いことを思いつく。
「それなら、私が休みの時は、レオさんも一緒に休みましょう」
「へ?」
「散歩したり、どこかへ出かけたり、一緒にいればレオさんも安心でしょう? 護衛は別の人にやってもらえばいいし」
「は、いや、それは……」
「それはいいですね! ぜひともそうしましょうか! ねぇ、筆頭!」
「ジャスター、お前っ」
「わーい! レオさんとお出かけー!」
無邪気に喜んでいた私は、かなり後に「女性から男性に対し、とんでもなく積極的にデートの誘いをしていた」ことに気づき、ベッドでのたうち回ることになるのであった。
おしまい。
四季姫、始めました~召喚された世界で春を司るお仕事します~ もちだもちこ @mochidako
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