蛇足編、新王様と青麒麟
黄金色の草原。
生き物の気配はない……と思いきや、ふわりと風に運ばれてきた綿毛に飛びつこうとするモフモフな生き物がいる。
「アサギは毎日のように遊びに来ているね。ハナが寂しがるよ」
「だいじょうぶ! ハナはつよいからね!」
「強い?」
「まちがえた! つよいのといっしょにいるから!」
「なるほどね」
確かに、彼が常にべったりな今なら「大丈夫」だろう。色々な意味で。
「まいにち、すごくなかよしで、ハナがしあわせそうなの」
「彼について不安がないわけじゃないけど、きっと今のハナは感謝しているだろうね。『理(ことわり)』が与えた『恩寵』を」
身体能力を強化されていなきゃ、彼の相手は難しいだろう。色々な意味で。
ここでアサギが遊んでいる時、向こうの体は寝ている状態になる。
動物の子どもは基本、寝てばかりだから心配されるようなことはないだろうけれど……。
黄金色の草原から見え隠れする、白と緑のモフモフ尻尾が愛らしい。
この場所は初代春姫である、ハルの魂だったものを集めるために創った空間だ。
いわゆる寝所だから静かにしてほしい気持ちがあるのだけど、楽しげに遊ぶアサギを見ていると、これはこれでハルも喜びそうだと思ったりもする。
何にせよ、自己満足だ。
「それより、さみしいのは神王様のほうでしょ? ハナがいってたよ。ひとりはさみしいって」
「神王である私が……さみしい?」
「だからアサギがきてるの。わかる? ねているばかりじゃないの。はたらいているの」
寝ているばかりではないのは分かるけど、働いてはいないよね?
君、さっきから飛んできている綿毛を、全力でつかまえようとしているだけだよね?
言いたいことはたくさんいるけれど、アサギ独自の理論?は、どことなくハルがたまに言い出す無茶苦茶な提案を思い出させるものだった。
いきなり誕生日パーティーしようとか、赤い服と白い髭をつけさせられ、世界中の子どもたちにプレゼントを配ってこいとか。
神王である私に誕生日というものは存在しておらず、結局ハルと同じ日になった。
プレゼントは各国にある『祈りの塔』にまとめて置いてきた。神官たちが配るはめになって、悪いことをしたと反省したりした。
うん。
ハルのことを思い返せば返すほど、アサギがここで無邪気に遊んでいるくらいどうでもいいような気持ちになってくるぞ。
「ありがとう、アサギ」
「どういたしまして!」
ハナのおかげで、壊れて傷ついてしまったハルの『カケラ』は回復しつつある。
これなら近いうちに、彼女も輪廻の流れに入れるだろう。
もう二度と間違えない。
神である私に、人を愛するという心が生まれた。
それを私は愚かにも否定した。
神の一存に、世界が彼女の存在を否定した。
その瞬間、ハルの魂は砕け散ってしまった。
「次こそは、幸せになって」
こんなことを言っていた数年後。
ふくふくのほっぺを真っ赤にして怒る幼女から「何が次こそだ! 責任とれ! バカ神王!」と散々泣かれることになる。
はい。
反省しております。
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