エピローグ
それから。
四季を調整するための儀式については、四季姫が各所で年に数回ほど合奏をすれば良しということになった。
儀式を行う会場や、行軍のルートを各国満遍なく回れるように調整する必要があったんだけど、それらはキラ君のお兄さん『祈りの塔』の神官さんたちが全面的に協力してくれたんだ。
やけにすんなり事が進むと思ったら、どうやら神王が各国にある『祈りの塔』の神官たちにお告げをしたらしい。
たまには『理』の隙間をついて働かないとハナが怒るからとか、夢に出てきた美少年から言われた。
別に怒らないのに、失礼な話だよ。ちょっとだけなのにね。
「姫君、明日締め切りの分があがっておりませんが?」
「ちょっと待ってください。もう少しなんです」
「その『ちょっと待つ』ことは、あと何回すればよろしいのでしょう?」
わぁ、美形の笑顔って素敵だけど、なんか部屋が寒いなぁ。
私の描いている漫画(とはいっても、荒いペン画みたいなもの)は大好評で、各国から依頼が殺到している状態だ。売れっ子作家ってやつだね。
紙やインクの原料を皆がこぞって求めたため、魔獣の討伐が盛んになった。
定期的に魔獣を狩っていれば、レオさんが出動するほどの強さにならないということが判明したのだ。
大図書館でジークリンドさんが調べてくれて、魔獣の発生については徐々に解明されてきているらしい。よかったよかった。
「ジャスター、そこまで強く言わんでもいいだろう。ハナは疲れているんだ。休ませてやれ」
「筆頭は、すぐそうやって甘やかす……」
机に向かっていた私を抱き上げた逞しい腕に、思わず頬をすり寄せてしまう。ククッと小さく喉の奥で笑うのは機嫌いい時のレオさんだと分かってしまうのは、毎日抱っこされるような関係になったからだ。(深読みしてくれてもいいよ)
やいのやいのしている私たちをよそに、セバスさんとサラさん親子は机に散乱している紙を片付けてくれたり、お茶をいれてくれたりと通常運転だ。いつも感謝です。
「春姫様、ただいま戻りました。お土産の新作の茶葉ですよ」
「ナジュム君、ありがとう! 秋姫様は元気そうだった?」
「ええ。あちらの筆頭ともいい試合ができるようになってきました」
「それは良かったね!」
「ありがとうございます」
正式に『春姫の騎士』となったナジュム君は、秋姫の筆頭騎士アンジェリカ(源氏名)に勝ったらプロポーズするらしい。かの幼馴染みの姫は楽しみにしていると儀式の時にそっと教えてくれた。あんな色っぽいのに可愛いとかずるいよね。全力で応援してるけどね。
電撃結婚したのは冬姫だった。
ムッツリ筆頭騎士がやらかしたって元冬姫自身から聞いたんだけど、すんごい笑顔だから良かったんだと思う。
新しい冬姫は美少年にしか見えない女の子だった。あそこの姫はその路線で攻めていくのだろうか。某歌劇団を思い出しちゃうね。
夏姫は今やゴリゴリに成長した赤毛の筆頭騎士とゆっくり恋を育んでいるみたい。たまに春の塔に二人で遊びに来ては赤毛君はレオさんと剣を合わせて、夏姫は私と漫画談義に花を咲かせている。ネタもくれるし、夏姫には頭が上がらないよ。
でも、この世界でこういう親友ができるって思わなかったから嬉しいんだよね。えへへ。
「おにいちゃん! これ、つくったの! たべて!」
「食べるから落ち着け。くっつくな、おい、もっと女性としての嗜みをだな」
「おにいちゃん、だいすき!」
「ぐっ……」
最近、めっきり女の子っぽくなってきたチコちゃんは、キラ君がお気に入りみたい。
料理長のモーリスさんからお菓子のレシピをもらい、完璧にそれを再現させてはキラ君に貢いでいる。
「おい、キアラン。まだ手を出すなよ」
「出すか!!」
顔を赤くして怒っているキラ君だけど、チコちゃんから「おにいちゃん」と呼ばれるたびに頬が緩んでいるのを私たちは知っている。によによ。
ルー君はまだそういうお年頃じゃないみたい。相変わらず本の虫です。ジークリンドさんと大図書館の管理人の夫婦から可愛がられている。
あの二人は気がついたらラブラブしてたから、いつか詳しく聞いてやろうと思う。抜け目のないお爺ちゃんエルフめ。
チコちゃんがキラ君を追いかけまわしているのを、ジャスターさんは微笑ましげに見ている。
「まぁ、当人が幸せならそれでよろしいかと」
「ジャスターさんは?」
「幸せですよ。自分はずっと、ずっと幸せです」
「そっか」
向けてくれた笑顔に嘘はない。
うん。そうだね。幸せだね。
ところで。
私の額にくっついている『春姫』の印なんだけど、これはいつ消えるんだろう?
ほわほわ考えていると、私を抱っこしているレオさんが耳元で囁く。
「おかしいよな、全部食ってやったのに……まだ足りないのかもな?」
「ひぇ!?」
なんでこんなことに!?
めでたしめでたし、なんて言えないよ!!
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