123、ふたたび輝く星
なぜ、こうなってしまったのだろう。
茹だった私を見たサラさんに問答無用で追い出されたレオさんは、余裕たっぷりの表情で「何かあっても、なくても呼べよ」と追い討ちをかけてきたものだから、もうお腹いっぱいです。渋いお茶をください。
「まったく、あの獣騎士(けだもの)は……。姫様に好かれているのをいいことに!」
「えっ、ちょ、サラさん、私がレオさんを好きだとかって」
「そりゃ分かりますよ。筆頭騎士様がいる時といない時で、姫様のお顔がまったく違いますからね」
「いやあああああ」
何それお恥ずかしい!
ということは、ジャスターさんたちにも丸わかりってことでは!
「ジャスター様だけではなく、塔の関係者全員が周知しておりますよ」
「チコちゃんとルーくんも!?」
「そりゃ、私どもよりも頭の良い子たちですからね」
「いやあああああ」
いつもより濃い目のお茶をひと口飲んで、涙目でサラさんを見上げる。そんな私に優しく微笑んでくれたサラさんは、大丈夫だと太鼓判を押してくれる。
「さすがに二回り以上も年が離れている姫様を、筆頭であるレオ様が何かすることはないと思いますけどね」
「え、二回り? そういえばレオさんって何歳なんだろ?」
「本人は三十代半ばと……執事長に聞いておきますか?」
「いえ! 大丈夫です! そういうのは気にしないので!」
「確かに、エルフの血を受け継ぐジャスター様は年齢関係ない容姿をしてらっしゃいますからね。ジークリンド様に至っては数えるのも面倒とか」
サラさんの言葉に、私はとんでもないことを思い出す。
この世界に来てから『身体能力強化(免疫抗体強化)』という謎の恩寵によって、私は全盛期のモチモチプルプルお肌になっていることを。
加えて日本人あるあるの低身長で童顔とくれば、実年齢よりも低く見積もられるのは当然の流れだ。
そして、その流れに流されていただけの私は、この世界で未成年だと思われていたのだった。
あれ?
「サラさん、晴彦……弟って、どう見えます? 外見とか……」
「弟様ですか? そうですね。とても大人びてらっしゃるので驚きました」
ええ、そりゃそうですよ。だって大人だもの。
「ちょっと晴彦のところに行ってきます!」
そして口裏を合わせてきます!
客室にいる晴彦のところへ飛び込んだ私は、とてもいい笑顔のジャスターさんに迎え入れられる。
え、なんだろう。とてつもなく嫌な予感がするんですけど。
「我が姫君、お疲れ様です」
「あ、はい、お疲れ様です?」
何か疲れることをしたかなって思ったら、なぜかレオさんが苦笑いで頬をさすっている。何があったか聞くのはよろしくない気がするから、スルーしておこう。
「弟君に御用ですか?」
「はい。額の印のこともあるし、心配で……」
「そうですね。同じ『四季姫』が複数人存在するのは、今までに無いことです。おじいさまが大図書館とやり取りして調べておりますので、しばしお待ちを」
「よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀した私は、奥のソファーで申し訳なさそうな顔をしている晴彦に気づく。
まさか……。
「姉さんごめん。ここの人たちに年齢のこと話してなかったんだな」
隠していたと言わないところが晴彦の優しさだ。
「なななんのことかしら、ほほほ」
「いや、誤魔化しきれてないし、めちゃくちゃどもってるし。それじゃただの変な人になっちゃうよ」
「うわーん! だってこの世界にきたら、皆さん私を子どもあつかいするんだものー!」
「姉さんは元々子どもっぽいから」
「大人だし! 働いていたし!」
「働けば大人っていう定義とか、その時点でもう子どもっぽいよ」
「きぃーっ!」
掴みかかろうとする私の手を、晴彦はクスクス笑いながら押さえている。
ぐぬぬ、恩寵使えばひとひねりだぞと、やる気を出そうとしたところでヒョイと後ろから抱えられてしまう。
「はい、姫さんそこまで。年齢なんざどうでもいいだろう」
「ふぁっ!?」
腰に響くバリトンボイスで耳元をくすぐられた私は、ふにゃりと体の力が抜ける。
弟とはいえ男である晴彦に嫉妬したとか、そんなことはないでしょうねと後ろを向けば、めちゃくちゃ甘い笑みを浮かべる肉食獣が。
甘くて強いとかちょっと相容れない気がするけど、今のレオさんには奇跡のマリアージュが起きている。
うん。自分でも何を言っているのか分からない。ちょっと落ち着きたい。
「はい、そこまで」
ムチムチ筋肉の腕に包まれていた私は、さらにヒョイとしなやかな腕に抱きかかえられる。
おお、ジャスターさんも意外と良い身体をしておりますな。
「お前……」
「やり過ぎですよ筆頭。今は色々問題がありますから、もうしばらく我慢していてください」
「はぁ……しょうがないな。早く終わらせろよ」
「おじいさまに期待ですね」
ジャスターさんとレオさんのやり取りで、しばらくは落ち着いて考えることができそう……かな?
なかなかよい安定感のジャスターさん抱っこを堪能しつつ、私は小さく息を吐く。
晴彦と口裏を合わせていなかったから、年齢のことがバレてしまった。
だがしかし、レオさんは「どうでもいい」と言っているし、ジャスターさんの態度もそのままだ。もしかしたら皆さん、私ごときの年齢なんて興味なかったのかもしれない。
そうだ。きっとそうだ。自意識過剰ってやつ。お恥ずかしい。
するとドアをノックする音がして、ジャスターさんは私をソファーへ座らせてくれる。
部屋に来たのはジークリンドさんともう一人褐色の肌をした青年だった。
えっと、誰?
「この塔に入れるのは、姫に害をなさない者です。しかし彼はビアン国の人間であり、かの国の者を受け入れたのは一人しかおりません」
「ま、まさか、ナジュム君!?」
「はい、春姫様。見習い騎士のナジュムです」
すらりと背の高い褐色の肌を持つ青年は、ふわりと微笑むと綺麗な所作で一礼した。
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