25、誰も触れてはならぬ
昼の休憩時にゴタゴタはあったものの、レオさんとジャスターさんの冷気?にあてられたのか例の騎士は大人しく付いてきていた。
馬車の中からこっそり見たけど、ヤツは白馬に乗っていた。金髪碧眼でキラキラしているし、王子様かよって心の中でツッコミを入れてしまう私。
「それにしても珍しいことです」
「あの派遣の騎士?」
派遣……今となっては懐かしい響きだ。
今は辛うじて無職じゃないけど、職業『姫』は安定していない気がする。派遣社員と対して変わらない気がするなぁ。
「貴族であれば、四季姫様付きの騎士になるのは名誉なことなのです。かの無礼な騎士学校の生徒のように、季節関係なく騎士になりたがるのが普通なのですよ」
「そうなんだ。私が『春姫』だから、嫌がられているのかと思ったけど」
「姫様を悲しませたことは万死に値しますが、あの騎士にも事情がありそうですね」
なんだかサラさんからも、レオさんとジャスターさんみたいな冷気が出ているような気がするよ?
怖いから落ち着いて。はい、息をすってー、はいてー。
私がサラさんを宥めていると急に馬車が止まる。前のめりになった私をサラさんはすかさず支え、素早くカーテンの隙間から馬車の外を見た。
「何? 何かあったの?」
「魔獣の輩ではないようですが……」
すると馬車のドアを叩く音がして、サラさんが確認してからドアを開ける。入ってきたのはレオさんだった。
少し乱れた紺色の髪と、着崩した青い騎士服が色々と目に毒だ。ねぇ、ボタン開けすぎじゃない?
「悪いな姫さん。夜には一つ目の村に入れそうだったんだが、川を渡るための橋が壊れていた」
「レオ様、儀式の場へと通じる道は安全を確保されているのではないのですか?」
「うーん、それがな。塔で姫さんが儀式の練習してただろ? あの後この近くの山の雪が解けて、川の水が一気に増えたらしい。前代未聞のことだが、長い間『春姫』がいなかった反動じゃないかって話だ」
「練習だけで、こんな事になるんですか?」
「今、ジャスターが確認しているところだ。恩寵の『鑑定』で出た結果だから、恐らくそういうことだろうな」
えっと、ジャスターさんの『鑑定』って、状況から原因を特定できるような恩寵なの? それってすごくない? 警察にジャスターさんが一人いれば、あっという間に事件を解決出来そう。
いやいやそれより、塔で練習してただけで天変地異みたいなことが起きるなんて……。
「姫さんには、もっと塔で演奏してもらわないといけないかもな」
「またこんなことがあったら大変じゃない? 橋が壊れたり……」
「それは違いますよ」
うぉ!? いつの間にかジャスターさんが!? またしても気配を消してた!?
「普通にドアをノックしてから入りましたよ姫君。考え事をされていたからでは?」
「え? そうなの? ごめんなさいジャスターさん、気がつかなくて」
「いいえ、姫君の真剣に考えてらっしゃる愛らしいお顔も見れましたから、お気になさらず」
そう言って柔らかく微笑むジャスターさん。あ、愛らしいとか、照れるんですけど……じゃなくて。
「あ、あのジャスターさん、なんでもっと演奏した方がいいんですか?」
「季節がきちんと巡っていない、滞っていた部分が流れるようになったみたいです。雪山も本来の姿を取り戻して、あの周辺で山の幸が採れるようになりますよ」
「悪い事じゃない、ということ?」
「ええ、もちろんです」
そっか。塔の中で練習することも『姫』としての仕事の一部ということなんだ。
ホッとした私だったけど、ふと気づく。
「そうだ。川を渡れないってことは、今夜は野宿になるの? 準備してたっけ?」
「もちろんですよ姫様。不便を感じさせないよう、サラがしっかりと準備していますからね」
「周囲に『鉄壁』で壁を作っておくから、火を使って調理を出来るぞ。周辺を探索して、魔獣がいれば傭兵団で狩っておこう」
さすがサラさん、そしてさすが元傭兵団長レオさんだ。ジャスターさんが「普通の『姫付きの騎士』たちでは魔獣を狩れないですよ」って言ってた。うむ、我ながら良い人選だったと自分を褒めてやりたい。
「少し早いですが川も近いですし、野営の準備に入りましょう」
「またやるのか、姫さん」
「もちろんです!」
皆さんのお世話をするべく、頑張るぞ!!
そう思った時期もありました。
「おい娘、私が国の騎士としていかに素晴らしいかを教授してやろう」
「お断りします」
「あの粗野な騎士よりも、王都では私のように美しい男が婦女子に人気があるのだぞ」
「ここは王都じゃありません」
「娘、もっと美しい盛り付けにできないのか」
「文句があるなら食べなくて結構です」
ぷくっと頬を膨らませてキラキラ騎士の持つ皿を取り上げようとしたけど、高い位置に持ち上げられて取れない。くそう。
コイツもなんだかんだいって、レオさんやジャスターさんと同じくらいの身長があるんだよね。ムカつく事に。
「うう、卑怯ですよ!」
「大きくなれ、娘よ」
「余計なお世話です!」
レオさんとジャスターさんは不在で、サラさんは食事の配膳に忙しい。そうなると必然的に国から派遣されたキラキラ騎士の相手は私がやる事になる。
いや、別に相手をしなくても良かったんだけど、やたら話しかけてくるんだよね。
「肉付きの良い女になれば、すぐにも嫁にいけるぞ。一度だけお見かけした秋姫様は、容姿端麗で素晴らしい女性だった」
「容姿端麗? 肉付きがいいのがですか?」
「あの美しく大きな双丘を、是非ともまた拝みたいものだ」
「そーきゅー……」
しばらく漢字変換できなかったけど、脳内に出てきたイメージ画像に私は無表情になる。
「む? どうした娘?」
「イエ、ナンデモアリマセンヨ」
目だけ笑っていない状態で口角だけ上げてみせれば、キラキラ騎士のキラキラ部分が心無しが薄くなる。
「こ、怖いぞ娘」
「ハハハ、コワクナイコワクナイ」
人には、触れてはならない部分がある。
それに触れたものは、等しく滅びが与えられるのだ。
「お、おい、筆頭騎士はどこにいる? おい!! 誰か知らんか!!」
「ハハハ」
この後、帰ってきたレオさんとジャスターさん、そしてサラさんに慰められ甘やかされ、ご満悦な私は気分良く熟睡した。
翌日からキラキラ騎士は、私の姿を見るたびに嫌ってたレオさんの後ろに隠れるようになっていた。
……解せぬ。
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