24、国から派遣された騎士
私とサラさん、レオさんとジャスターさん、傭兵団の方々が二十名。
本来ならばもっと大勢の行軍になるそうだけど、レオさんが人数を極力増やさないようにしたらしい。理由の一つとして、多くの人数がいても補佐がいなければ統制がとれなくなるそうだ。
レオさんとジャスターさんが十名ずつ隊を組んで指揮することで、なんとかいけるだろうとのこと。
今回は騎士だけではなく傭兵さんたちも馬に乗るため、移動時間が短くなるのが嬉しい。
「魔獣って、この行軍では滅多に出てこないんだよね?」
「ええ、頻繁に国の騎士や傭兵たちが見回ってますから、道から外れなければ魔獣に襲われることはありません。魔獣避けの香も焚いてますし」
「それって毎日?」
「四季の姫様たちは国の宝ですからね。何かあってはいけないと、念には念を入れているのですよ」
それって、儀式がない時もやってるってことだよね? 無駄じゃないのかなって思ったけど、国の決まりならしょうがないのかな?
私に対しても過保護な人が多いし、この世界では『姫』は大事にされるのが普通なんだろう。
馬車に揺られながら、私はサラさんと雑談に興じている。
何せ移動時間はやる事がなくて暇なのだ。揺れるから絵も描けないし、揺れている中で本を読むと乗り物酔いしてしまう。
……いや、身体能力強化でそういうのも大丈夫そうだな。試すのは今度にしておこう。初めての旅で乗り物酔いするのは、精神的にキツい。
「筆頭騎士レオ様がいるので、魔獣が出てきても何も心配いらないと思いますけどね」
「強いんだねぇ、レオさん」
「素行は悪いですが、恩寵がない状態でも単騎で大型魔獣を狩っていたようですからね。実力は申し分ないかと」
やはりサラさんの中でレオさんの評価は低い。このままでは良くないだろうけど、今のところ表立って衝突していないから大丈夫、だよね?
その時、コンコンと馬車の窓が叩かれ、サラさんが窓のカーテンを少しだけ開けて外を確認している。
「騎士ジャスター様です。もう少しで昼休憩の場所に着くと」
「ありがとう。じゃ、私も着替えないと」
「本当によろしいのですか?」
「だって、サラさんだけじゃ無理でしょ? 私も働くよ。幸い恩寵のおかげで疲れてないし」
「ですが……」
「命令、だよ」
「……かしこまりました」
「食事でーす。順番に取りに来てくださーい」
「お、可愛いお嬢ちゃんがいるんだな。塔の見習いか?」
「はい! お手伝いを頑張れば、塔の中に入れてくれるって姫様が」
「頑張れよ!」
「ありがとうございます! 傭兵さんたちも頑張ってください!」
「俺らは楽なもんだ。魔獣が出ない旅なんざ天国だぜ」
「すごいです!」
傭兵団の人たちから次々にかけられる声に、笑顔で返す私。テンションあげるのは疲れるけど、この行軍でサラさん一人で裏方をさせるのは無理だと私は思った。
スーパーウーマンなサラさんだけど、規模は小さいとはいえ二十人以上を一人で世話するとかどんなブラック企業かっつー話よね。
大丈夫って言ってくれたけど、私はとうとう『姫』として命令する権限を使ってしまった。
それに……。
「春姫様は馬車の中かい?」
「はい。この世界にまだ慣れてらっしゃらないので、儀式の場所までは静かに過ごすことになるかと……」
「俺らへの挨拶も、顔にベールかけてて見えなかったなぁ」
「顔色が悪く、恥ずかしいとおっしゃってました」
「早く元気になられるといいな」
「はい、姫様にお伝えしておきます!」
携帯食料を手渡しながら、私は気のいい傭兵たちに心の中で詫びる。
やっぱりまだ、人前で『姫』として出るのは恥ずかしいのです……次回から頑張るので、今回は見逃してくれよう。
「姫……ハナ、騎士様たちにこれを」
「はい、サラさん」
傭兵団の人たちから少し離れた場所にいる、レオさんとジャスターさんに携帯食料を持っていく。そんな私を見て渋い顔をする二人。
「まったく、姫さんは無茶を言う」
「ごめんなさい。次から『姫』に専念するから」
「塔の関係者を早急にバスチアン殿が集めてますから、今回だけですよ」
「はい」
しゅんとする私に二人は苦笑していたけど、不意に緊張した空気になる。
「まったく、儀式の監視役をするといっても、ハズレとはね」
「国の騎士とはいえ、うちの姫さんに暴言を吐かんでいただきたい」
「ハッ! 元傭兵団長だか知らぬが、貴族である私に対する態度を改めることだな!」
ゆるりとウェーブのかかった金髪を撫でつけつつ、やけにキラキラした青年がレオさんに難癖をつけてきた。コイツめと思わず口を開こうとした私の肩に、ジャスターさんが軽く手を置いて「落ち着いて」と唇だけで話す。
そうだ。ここで私が出たら良くない。
「なら、監視役を断れば良いことだろう。今からでも引き返せばどうだ」
「何だと!? 私を愚弄する気か!!」
ニヤリと笑いながら言うレオさんに対し相手の男が腰元に手をやろうとしたところで、いつの間にいたのか彼の後ろにジャスターさんが立っていた。あれ? 本当にジャスターさん、いつの間に移動したの?
「ここは引いた方が良いかと思われますが。筆頭は元傭兵団長であり、今は恩寵をも得ているのですよ」
「ぐっ……」
ジャスターさんの言葉に彼は悔しげな顔をする。舌打ちをして腰に差している剣から手を離すと、この場から回れ右をして去って行った。
「驚いた。国から派遣されてくる騎士って、すごく態度が悪いんですね」
「あんなヤツは滅多にいないぞ。四季姫の監視役は、国の騎士にとって名誉なことだからな。良い働きをして『姫』の目に留まれば『姫の騎士』になるのも夢じゃない」
「……もしかして『春姫』だから?」
さすがに少し落ち込んでしまう私を見て、騎士二人の纏う何かが一気に冷たいものへと変わる。
「ふふ、今回は軽く脅しましたが、いざとなれば自分がしっかり『交渉』いたしますよ。ご安心ください姫様」
「うちの姫さんに文句があるみたいだが、どこに不満があるのかじっくりと聞きたいもんだな」
メガネを光らせるジャスターさんと、なぜか指をボキボキ鳴らしているレオさん。
怖いよ! 二人とも怖いよ!
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