13、騎士になった傭兵二人
それから五日後。よく晴れた日に『春姫ハナ・トーノ』の騎士になるため、傭兵団長のレオさんと副団長のジャスターさんが塔に来てくれた。
本来、四季姫が筆頭騎士を決める「叙勲式」とは、国の重鎮達を呼ぶほどに大きな式典となるらしい。
だがしかし、百年近く春姫の騎士の位は空白の状態だった。春の塔とやり取りする国はなく、一方的に資金を届けるだけだ。
まぁ、国とやり取りがない現状は、私にとって都合がいい。下手に騎士の選別に横槍を入れられるのは困る。なにせこの世界で、私は結婚できない年齢なんだから。
「と、いうことで。派手な式典はできませんが、通例通り塔の最上階で叙勲したいと思います」
「おう、それでいいぞ。俺は目立ちたくないからな」
「自分も構いませんよ」
「ありがとうございます」
私が高身長であるレオさんとジャスターさんを見上げて礼を言う。すると笑みを浮かべた二人は、打ち合わせもなく同時に片膝を床につけた。
今日の私は、ひらっひらの春姫を象徴する青いドレスだ。体の線が透けてしまうのは少々痛い。しかし、姫としては堂々としている必要があるとサラさんが言うので、精一杯胸を張って立っている。
目の前に跪いた傭兵団の茶色い制服姿の二人は、男らしい低く響く声で宣誓をする。
「姫の筆頭騎士として剣を捧げ、四季ある限り忠誠を誓います」
「姫の騎士として知識を捧げ、四季ある限り忠誠を誓います」
「二人の意思、確かに受け取りました」
これは事前にレオさんから聞いていたことだ。騎士になる者は、自分の長所を宣言して忠誠を誓うらしい。それにより四季姫を通じて神王に声が届き、恩寵を得られることがあるそうだ。
二人の宣言を受けて、私の額から青い光が発すると周囲も青く染まる。数秒続いた青く眩しい光が収まると、レオさんとジャスターさんは私のドレス同じ色である、鮮やかな青色の軍服を見に纏っていた。
レオさんの深い紺色の髪と空色の目が、青系の服で統一されていてすごく似合っている。ガッシリとした体型の彼だけど、軍服のおかげでスッキリと見えてしまうのがすごい。
ジャスターさんの銀髪と紫の目も青色は邪魔していない。むしろ細マッチョらしき体を包む軍服が、色気を増やす仕事をしているようだ。グッジョブだね。
「二人とも、格好いいですね!」
「そうか? これ、俺が着てても大丈夫か?」
「褒めていただけると嬉しいですね。ほら、団長……じゃない、筆頭、しっかりしてくださいよ」
「お、おう」
なぜか挙動不審になるレオさんに、私は「あっ」と声を上げる。
「レオさん、ジャスターさん、恩寵って受けられましたか?」
「ああ、俺は……『鉄壁』ってやつだな。効果はまだ不明だから色々試す必要がある」
「私は『交渉』と『鑑定』です。内部での仕事で役に立ちそうですね。ですが、これでも騎士でしたから、魔獣との戦いになっても足は引っ張りませんよ」
「それよりも鑑定があるなら魔獣の弱点とかも分かるかもしれん。戦闘には参加しろよ」
「なるほど。確かにそうかもしれませんね」
「ジャスターさんは二つも恩寵があるなんてすごい!」
「二つは珍しいようですね。そういえば、春姫様の恩寵はどのようなものなのです?」
「そうだ。そういや聞いてなかったな」
「……え?」
思わず顔が引き攣る。やばい。これってハズレな恩寵だった場合、騎士やめるとか言われたりするやつ?
「言葉が通じるということは、一つ目の恩寵は言語に関するものでしょう。あと一つは何ですか?」
「戦闘とかは出来なさそうだしな。魔法系か?」
えー、あー、うー。背中に冷や汗をかきまくっていると、後ろに控えていたサラさんが前に出てくる。
「差し出がましいとは思いますが、私からよろしいでしょうか」
「……よろしく。サラさん」
私は覚悟を決めた。もう、煮るなり焼くなり好きにしろってんだてやんでぇ! という気分になっている。
そんな私の決意?を感じたのか、サラさんは厳かに伝える。
「今代の春姫様の恩寵は、『言語理解能力』と『身体能力強化』でございます」
「は? 身体能力?」
「それは……また……」
「姫様は健やかであらせられます」
ぐはっ、サラさん……それ、フォローになってるの? 私のライフはゼロよ?
「身体能力……」
レオさんは何やら難しい顔をしていて、ジャスターさんは頷いている。
「それは重要かもしれませんね。ここにきた春姫たちは体調を崩すことが多かったようです。精神的なものかもしれませんが、そもそも異なる世界から来てますから、体がこの世界と馴染まなかったというのもあるかもしれません」
「そ、そうなんですか?」
おずおずと問う私に、ジャスターさんはその切れ長の目を細めて微笑む。ふぉ、無表情の美形が笑顔って、ヤバイやつだよ。キュンキュンするよ。
「言語を理解させ、体調を整えてくれる……今代の春姫のことを、神王様はしっかりと見てらっしゃるようですね」
「な、なるほど。そういう見方もあるんですね」
ちょっとホッとする。そう考えると体調を崩すことがなく、どんな言葉でも通じるとかすごくいい事のように思えるね。さすがジャスターさんって感じ。
そしてレオさんは、なぜか眉間にシワを寄せて黙り込んでいる。
「レオさん?」
「……ん? ああ、悪いな。姫さんの恩寵がそれで良かったと思っただけだ」
「ふぅん?」
その割には難しそうな顔をしていたけど、なんて言えるわけがない。でもなぜか私はレオさんを信じようと思っていた。元の世界では「男なんて」とか思っていた私なのに、変なの。
「俺たちの恩寵については検証が必要だ。それに、姫さんのもな」
「え? 私も?」
「もちろんだ。四季を変える道すがらに魔獣の襲撃があった場合、姫さんがどこまでできるのかを俺たちは把握しておく必要がある」
「逃げるのにも体力は必要です。戦闘をするしないに関わらず、自分たちの能力を把握することは基本ですからね」
「分かりました」
この時は分からなかったけど、翌日になって「恩寵を知ること」の大切さを、私は嫌というほど思い知ることになる。
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