4、騎士はどこにいる?
まず、やることを整理しよう。そうしよう。
モチモチになった肌を堪能している場合ではないのだ。
「サラさん、紙と文字を書くペンとかあります?」
「申し訳ございません。インクと紙は高価なものでして……ですが、春姫様が望めば国から支給されます」
「へぇ、公務員みたいなものなのかな」
「コームイン?」
「いえいえ、ということはサラさんのお給料も国から出ている?」
「左様でございます」
インクと紙は貴重なのか。なら持ってきた漫画セットはかなり貴重なものになっちゃうなぁ。大事に使わないと。
スマホは持ってこれなかったみたいだし。まぁ、持っててもバッテリー保たないから意味けどさ。
「しょうがない。頑張って覚えておきますか」
「何をでございましょう?」
「まず、ここで私が何をすべきか。それには何が必要なのか。これからどうしていくのかを明確にしておかないとって思いまして」
「素晴らしいです! 春姫様はとても優秀な方なのですね! 恩寵がなくとも素晴らしい能力を持ってらっしゃるとは!」
「サ、サラさん、言い過ぎですよ……」
なぜか「うちの姫SUGEEEEEE」みたいになってるサラさん。恥ずかしいけど褒められると嬉しくなっちゃう単純な私。
まぁ、これも社会人としては基礎だし、特に何かすごい事でもないんだけどね。
「まず、私は四季を変えるという仕事をしなきゃいけない。チュートリアルには、まず騎士が必要とあるし……サラさん、こちらから騎士をスカウト……えっと、騎士になってほしいとお願いすることはできますか?」
「もちろんです。かの冬姫様の筆頭騎士様は、冬姫様自ら願ってというお話ですから」
「騎士って、どういう人がなってるんですか?」
「この世界での『騎士』という立場は特別な意味合いを持ちます。特に四季姫様に属する騎士は優秀な人間が選ばれるので、貴族様などの権力者の多くはそれが名誉だとする風潮があります。お金のある家の子たちは、国ごとにある大きな『姫学校』と『騎士学校』に入って神王様に選ばれることを目指します。ですが……」
サラさんはそこまで言うと、少し険しい顔をする。
「神王様からの恩寵を受けた場合、その能力を国は欲しがります。お役目を終えても恩寵は残りますので……」
「それが強大な力であれば、国が囲ってしまうこともあるってことね」
「はい」
なるほど。姫や騎士は名誉なことなのか。
それなのに、春姫のところに騎士になりたいっている希望者が誰も来ないって……悲しすぎるわぁ。
「そうだなぁ、騎士学校っていう所に行ってみたいかも。それって可能ですか? できれば姫という立場は隠して見学したいです」
「事前に知らせを走らせれば……明日までお時間をいただけますか?」
「大丈夫です。すみません無理を言って……」
「いえ、これも塔に勤める者の仕事ですから」
「無理のついでに、あの、この世界に関して書いてある本とかありますか?」
「塔の中に書庫がありますので、今からご案内しましょう。夕食の時間になりましたらお迎えにあがりますね」
「ありがとう。サラさん」
サラさんの案内で部屋を出ると、何もない空間に出る。そこに階段は見当たらず、ただ床に模様が描かれていた。
どこか見覚えのあるその模様を眺めていると、サラさんがその模様の中心に立ち「こちらにどうぞ」って。え? 何? 何が起こるの?
「これは塔の中を移動する魔法陣です。塔の関係者しか使えないのでご安心ください」
「私でも使えるんですか?」
「一度行った所であれば大丈夫ですよ。図書室以外も行ってみますか?」
「ぜひ! よろしくお願いします!」
そうそう。騎士とかの前に、拠点のことを知っておかないとだよね。
この塔が私の家みたいなもんなんだから。うむ。
塔の中は、意外とシンプルだった。
書庫の他には応接室、厨房、食堂、共同のお風呂とトイレなどがある。他にも騎士用の部屋がたくさんあるみたいだけど、今のところ必要ないから後で見ることにした。
塔というから、何となく狭いのかと思ってたら違うみたい。外から見れば広さが分かるのかな?
サラさんは塔の近くにある町に住んでいて、通いで来てくれているらしい。私が言葉も通じるし穏やかな性格だと言ったら、勤める人が増えるかもとサラさんが言ってくれたけど……。
「普通は塔にどれくらいの人がいるんですか?」
「姫様によって違いますが……塔勤めの人間でしたら最低数人はいるかと……」
「ですよねー」
申し訳なさそうに言うサラさんに、私は引きつった笑いで「気にしないでー」と言うのが精一杯だった。
まぁ、歴代の春姫とは言葉も通じないっていうのは、色々大変だったんだろう。噂が噂を呼んでいるらしく、今の春姫好感度はマイナス方面に天元突破だ。
「まぁ、これから増えることに期待します」
「ちゃんと私が見て雇いますから、ご安心くださいね」
「サラさん……ありがとう!!」
なんでこんなに良くしてくれるんだろう。こんなヘナチョコなオバサン姫が来たというのに優しくしてくれるなんて。
……ん? 本当になんでこんなに優しくしてくれるんだ?
「春姫様が、このように穏やかでいらっしゃる。それだけで尊いのでございますよ」
そうなんだ。うんうん。
よく分からないけど、とにかくサラさんに感謝しよう。感謝の心は大事だよね。
塔の中をひと通り案内してもらった後、書庫まで送ってもらいサラさんと別行動になる。
「おお、意外と広いし本がたくさんある!」
学校の教室くらいな広さがある部屋の壁には、隙間なく本がささっている。そして所狭しと本棚が置いてあって、圧迫感がとにかくすごい。インクや紙が貴重だという世界なのに、この大量の本は一体誰が置いたんだろう。不思議だ。
「ほうほう。どんな文字も読めるみたいだね、私の能力は」
目に入る文字がどんな形態でも、内容が頭に入ってくる。しかも入った内容の理解も早く、どんどん記憶されていく感じがする。
これはすごい。身体能力というのは、体の全てにおいてってことなのか。もちろん脳も体の一部なわけで……ああ、この力は学生の時に欲しかった!
「脳も活性化しているってことか。もしかして、これって知識を得るのには最適な恩寵だったりして……。さてさて、この世界の成り立ちから勉強していきますか」
おとぎ話のような絵付きの本もあれば、中には実用書のようなものもある。勉強は嫌いだけど、この異世界を知るという行動については「楽しい」という気持ちが勝っている。
「騎士学校に行くには外に出るんだから、この世界の常識も知っておかないと……」
若ければどんどん外に出て異世界ヒャッハーするんだろうけど、いい年した大人である私は異世界に恐怖しか感じない。旅が楽しいとか冒険とか、なんの罰ゲームだと思っている。そういうのはライトノベルだけで充分だ。
「うう、こんな怖がりの女が異世界とかって、マジで罰ゲームでしょ」
それでも『四季姫』として働かないと、ただの無職な穀潰しになってしまう。それだけは避けねば。
「主にサラさんの期待に応えたい……かな」
私はゆっくり深呼吸すると、片っ端から本を開いて読み漁っていくのだった。
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