地球のレシピ

よごと小菊

地球のレシピ

 一学期の終業式まであと一日。もう学校は夏休みモードに入っている中、私は図書室で一人夏休みの自由研究のための参考になりそうな本を探していた。


「自由研究はみんなが考えもしないようなものにしたい。」

 私はそう思っていた。


 どのような本が参考になるのか考えていたら、気が付かぬ間に普段なら絶対に行かないようなえらく古そうな本が並んでいる書架にいた。

「なんか、すごそうな本があるな。」


 背表紙を見ながら進んでいくと、一冊の本が目に付いた。

 手に取ってみるとズシリと重い。


 本の題名は「地球のレシピ」。


 この書架の中でも特に古そうだ。それにとても美しい表紙で、宇宙から見た地球の海の色のような瑠璃色だ。

 題名から考えると地球を作る物語なのかもしれない。夏休みの暇つぶしにでも読もうかと考えて私は貸し出し手続きをして家に持ち帰った。


***

 家に帰り私は早速鞄から本を取り出して、読み始めた。表紙をめくり、遊び紙と呼ばれる何も書いていないページをめくると、目次があった。

 第一章は「地球を作る準備」。読んでみると、『準備するべき物は、ホコリなどのチリ、カセットコンロのガス、…です。』


 どうやら、物語ではなくレシピのようだ。本当に地球が作れるらしい。ものすごく面白そうだ。とても興味が湧いてきた。これは自由研究に持ってこいだ。

「こうなったら作ってしまうしかないんじゃないか。」

 一ヶ月弱の夏休みの間に「地球」が出来上がるかは分からないが、早速材料集めから始めてみよう、と思い材料を揃えるために買い物へでかけることにした。


 それにしても、この地球もこんな変てこりんな材料で出来ているのだろうか。そう考えるととても不思議な気持ちがした。


 一通り材料を買い揃えて家に帰り、もう一度あの本を見た。「地球」を作り始める為だ。「地球を作る準備」の次の章は「材料を揃えたら」。


『材料を揃えたら、いよいよです。が、その前に場所を用意しましょう。完成したら地球はバスケットボールぐらいの大きさになり、宙に浮きます』


 宙に浮くだって?私は一瞬驚いたが、よく考えたらこの地球も浮いているではないか。私は続けて読んだ。


『これから作る地球は、とてもデリケートです。ぶつける、蹴る、投げることや、ペットによるいたずらは避けてください。

 空間がとれたら、まず模造紙を広げてください。その上にチリやホコリを均一の厚さに広げてください。そしてガスボンベでガスを出してください。この作業は危険なので換気をしながら行うことをお勧めします。

 これらが終わったら卓上電気スタンドを照らしてください。さらに、このままにしておいては地球は出来上がりません。長い棒で十分ほどかきまぜて下さい。』


 私は模造紙を自分の部屋の床に広げた。涼しい空気に一時期の別れを告げ、窓を開ける。蒸し暑い。気が遠くなりそうな真夏の熱風が部屋へ侵略して来た。

 ホコリやチリ、ガスにやられる前に、この暑さにまけてしまいそうなくらいだ。


 模造紙にホコリとチリを均一な厚さに広げながら私はガスを出している間は絶対に息を止めておいた方がいいと思った。昔、家族で鍋料理を囲んで食べている時、ガスコンロのガスが少し漏れてしまいものすごく気分が悪くなったのを今でも覚えているからだ。

 私は覚悟を決めて、蒸し暑い空気を胸いっぱいに吸ってからガスを出した。


 この時点ではまだ何もおこらなかった。卓上電気スタンドをそれらに向けて照らし、長い棒でかき混ぜた。すると考えられないような不思議なことが起こった。


 チリとホコリとガスが一つのデコボコで火の玉のようなボールほどの大きさ球の形に成っていったのだ。さらにだんだんと燃えるような色が治まっていくと水と大地のようなものが現れた。きっとこれが、この本の言う「地球」で、卓上電気スタンドが太陽なんだな。と私は思った。

 

 まだ「地球」は大陸が一つにつながっている。今の自分たちが住んでいる地球は六大陸だからきっと初期の「地球」なのだろう。自分がこの「地球」を作ったものだ、と思うととても不思議な気持ちがした。


***

 次の日、「地球」を見ると大陸が六つになっていた。とんでもないスピードで「地球」の時間は進んでいるのだろう。たった一日で何億年、何万年の進化をとげていた。虫メガネでのぞいてみると、人らしきものが目にも止まらぬ速さで動いている。とても興味深くて、面白かった。その時だ。

 「あっ!」

 「地球」の中にその世界の私が丸い小さな小さな球体を覗き込んで、驚いた表情をしていた。

 

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