第12話 ヴェスパ

バイク屋の店主は、美生みおけいを店の奥に案内した。奥はけっこう広い倉庫になっていて、イタリアの古いオートバイが50台以上置いてあった。修理で預かっている車両もあるが、大半は売り物であると言う。


「美生さんは小型免許でしたよね。今回は事情が事情だから、値段が手頃ですぐ乗れる車両は、っと。」


店主は、1台のスクーターを出してきた。佳がモトムを買った時に見たのと同じヴェスパ。


「これは以前見てもらった車両とは違って、100ccあります。ずっとパワーがあるので、2人乗りも余裕ですよ。」


「2人乗り!」佳の目が輝く。


店主がエンジンをかける。クッチョロと違い、2ストロークのエンジンはベンベンベンベンと勇ましい音を立てて調子も良さそうだ。


美生は恐る恐る値段を聞いたが、たぶん安くしてくれてるのだろう、佳のモトムの半額以下だった。


その日、美生は家に帰ってから、母を拝み倒してヴェスパの代金を借りることができた。


「こんなことなら、バイクを売らなきゃ良かったわね。」母が言う。


祖父が亡くなって1年が過ぎ、母も少し落ち着いたのか、以前みたいにとげとげしくなくなった。


美生はヴェスパを購入し、修理が終わるまでの1年間、クッチョロをバイク屋に預けることにした。

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