第9話 モトム

美生みおけいは、美生の運転する軽自動車でバイク屋に向かっていた。佳のマンションから車で30分ほど走り、大通りから脇に入ってしばらく行くと、バイク屋の店舗があった。


店舗といっても、看板は出ておらず外からは全くバイク屋とは分からない。美生はクッチョロのオイル交換や調整などで、すでに何度か来たことがあった。ドアを開けて中に入る。


「いらっしゃい。」


バイク屋の店主が挨拶をした。


「お世話になります。」


美生が返す。


「50ccのバイクということでしたよね。うちに今あるのは、この2台です。」


1台はスクーター、もう1台は美生と同じペダルのついたバイクである。


「スクーターの方はヴェスパ、モペッドの方はモトムといいます。」


「モペッド?」


佳が尋ねる。


「ペダル付きの小型のバイクのことをそう言うんです。」


美生はモトムというモペッドを見た。クッチョロはエンジンのついた自転車という感じだが、モトムはペダルのついたバイクという感じで自転車には見えない。小振りな大きさで、佳でも足が届きそうだ。


「美生とお揃いのペダル付きがいいな。モペッドのモトムちゃんね。」


佳は機嫌のいい時の癖で歌うように話す。


店主がモトムのエンジンをかけた。意外と元気な音がする。


美生は値段を聞いた。けっこう高い。125ccのスクーターの新車が買えるくらいだった。しかし、モトムを気に入ったらしき佳は購入を即決したのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る