第38話 降り続く、雨

「みんなあああああ! 今日の雨は恵みの雨だああああ! 急遽、もう一回俺達のライヴができることになったあああ! 楽しんでいこうぜよろしくうううう! ちなみに、リクエスト募集中だぜ! 出来る範囲だけどな!」


 体育館内に響き渡る叫び。軽音部の部長だ。


 水ノ橋京菜の計らいで、後夜祭に空いた穴を埋めるために急遽体育館で軽音部のライヴをすることになった。体育館内に長テーブルやパイプ椅子を置き、テーブルの上にはお菓子やジュースを置いた。


「後夜祭パーティだぜよろしくううううう! 二年共! 元気出せよ!」


 体育館には全校生徒が集まっていた。教師は見張りが何人か。後は職員室だろうか。


「後! この企画を提案してくれた水ノ橋のお嬢ちゃんに感謝を! そして許可をくれた教師陣にも一応感謝! 盛り上がって行こうぜよろしくううううう!」


 マイクでしゃべってるのに大声出されると耳が痛いんだがな。軽音部部長さん。

 しかし、本当にいい企画をしてくれたものだな、水ノ橋さん。


「じゃあ早速一曲目行くぜえええ! 悪いが、一曲目は自作の曲だぜ! 乗れないかもしれないけど無理矢理乗ってくれ!」


 部長がそう叫ぶように言って、曲が始まった。まぁ悪くない曲だった。部長が言った通り無理矢理乗ってる生徒が何人かいる。


「よう、あれどう思うよ」

「いいんじゃないか?」


 祐樹がジュースを持って俺の左隣に並んできた。右には三河がいる。


「俺はどうも好きになれそうにないな、この曲は」

「そんなこと言うと部長が泣くぞ」

「しるか」


 祐樹はどうでもいいとでも言いたげだった。


「そういや、水ノ橋さんとマルクと……それからほら、あのちっこいの。どこ行った?」


 祐樹がそう言ってあたりを見回している。


「ちっこいのとはなんですかー!」


 そう言って思いっきり祐樹の足を踵で踏みつけたのは、さっきから近くに居た瀬戸先輩だった。うわぁ、痛そう。


「いってえなぁ! 何しやがる!」

「ふん。天罰ですー」


 瀬戸先輩が頬を膨らませて言う。


 瀬戸先輩黒いからなぁ。気を付けないと。


「それじゃあ私、友達の所へ行ってきますねー。呼ばれてるのでー」

「あ、はい。行ってらっしゃい」


 瀬戸先輩が手を振りながら友達の所に小走りでいく後ろ姿を、俺達は見送った。


「ちなみに水ノ橋さんとマルクは蔵元先生の所だよ」

「ふーん。そうなのか」


 それから、しばらくの沈黙。その間に曲は二曲目に突入した。二曲目も自作曲だった。


「おいおい、自作曲何曲あるんだよ」

「しらないよ。そんなに嫌なら何かリクエストしてきたら?」

「……そうする」


 そう言って、祐樹が舞台の下に居る係の人? の所へ向かうのを見届けてから、俺は三河を見た。さっきからどうも、三河が大人しいと思っていたのだ。


「ん。何? どうしたの?」


 俺の視線に気づいて、三河がそう聞いてくる。いやいや、それはこっちの台詞だから。


「あ、いや。大人しいなって思って」

「そう? いつも通りよ」


 いつも通り? こいつ、何を言っているんだ。


「た、楽しくないのか?」

「楽しいわよ」


 そうは見えないんだが。


 俺は首を傾げた。そして思考を巡らす。三河が大人しい理由。


「そんなに花火やりたかったのか?」

「ち、が、う!」


 三河が叫んだ。その叫びは軽音部の出してる音にかき消されたが。


「とりあえずこんなところじゃ声聞こえないし、部室行こう」

「は? 別に話すことなんてないわよ」

「三河」

「リクエストしてきたぜー」


 俺が困った顔をしていると、祐樹が戻ってきた。


「ああ、お帰り祐樹」

「どったの?」

「いや、三河が変なんだ」


 三河が体ごとそっぽを向いている。


「お前何言ってんの。こいつが変なのは元からだろ」


 いつもだったら。そう、いつもだったらここで三河が反論するはずなんだ。なのに三河は何も言わなかった。俺達の顔も見ない。いや、祐樹の顔を見ない。


 いつから? 舞台が終わってからだ。


「祐樹。三河連れて部室行こう」

「は? 何言ってんの。俺さっきリクエストしたから曲やるまでここにいるよ?」

「部室ならここから近いから、音聞こえるだろ」

「ああ。まぁそれなら俺はいいけど……」


 祐樹が三河を一瞥した。


「三河、行くぞ」


 俺はそう言って三河の腕を掴んで引っ張った。


「やっ」


 三河は少しだけ抵抗しようとしたが、俺が引っ張ったことにより三河の顔が祐樹の方に向いた。しばらく三河は固まっているようだった。


 三河の持っていたジュースが少しだけ、三河の手の甲にかかっていた。


「マジでどうしたのお前」


 そんな三河の様子を見て、流石に祐樹も変に思ったみたいだった。


「とにかく、部室」


 三河は渋々、俺の言う通りに歩き始めた。

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