第37話 後夜祭

「後夜祭って何やるの?」

「え、さぁ……」


 着替えも終わって部室に戻ってきた三河に、俺が聞く。三河が首を傾げた。知らないらしい。


「定番の焚き木らしいですよ。その周りでフォークダンスとか」

「定番すぎますねそれは」


 水ノ橋さんが紙コップにお茶を入れて俺達の所に持ってきてくれた。温かい緑茶だ。


「なるほどぉ」


 嫌な予感がした。……また三河が良からぬことを企みだしたんだろうか。三河は何かを考えているようだった。


「焚き木……夜……」


 何でそのワードだけ呟いているんだ。


「皆で……花火!」


 三河が思いついたようにそれを口にした。


「花火ですか?」

「ちょ、ちょっと三河。それはちょっとまずいんじゃないか? 校内でやるんだよな?」

「勿論。何がまずいの?」


 俺が慌てているのにも関わらず、三河が首を傾げてくる。


「いや、確実に先生に怒られるぞ?」

「大丈夫よ。京菜がいるし」


 こういう時までお嬢様を有効利用ですかそうですか。


「面白そうですね」


 水ノ橋さんが言う。


「何の話?」


 マルクが割り込んできた。


「後夜祭の話ですよ。花火でもしましょうかって」

「いや、何か若干主旨が違うような気がします」


 俺の突っ込みも無視で、三河が水ノ橋さんに何か耳打ちしている。


「ちょっと待って。後夜祭を花火大会にでもするつもりか」

「どうせなら、でかいのぶっぱなしたいじゃない」


 俺は苦い顔をした。水ノ橋さんに頼めば今すぐにでも花火職人とかを呼べそうだ。


「でも、もう変更とかできないだろう。準備もし始めてるし。フォークダンスでいいじゃないか。うん」


 俺は一人で言って一人で頷く。


「君島くん。この学生生活を、この高校一年の文化祭の最後を、最大限に楽しまないで、いつ楽しむって言うのよ」

「いや、フォークダンスも楽しいと思うんだが」


 俺の言葉に、三河が不服そうにしている。だが、引くわけにはいかなかった。


 三河も普通の思考の持ち主だってことが分かったので、今日の俺は強い。


「じゃあ、こうしよう。フォークダンスもやること。これを条件に受け入れるから、花火やるの!」

「うぐぐ」


 今日の俺は強い。強いがこれは、負けそうだ……。


「君島はマジメなんだよ。オレの故郷でも祭りの後はバクチク」


 マルクが言う。本当なのか? てかバクチクって。


「私は、君島くんの言いたいことも分かります」


 お、水ノ橋さんが珍しく俺の意見に賛同してくれたようだ。


「ならばこうしたらどうでしょう? 後夜祭事態は普通に行い、その後私達だけで花火をするんです。これなら、誰にも迷惑をかけることはないでしょう?」

「確かにそれなら」


 俺は頷いてから、三河を一瞥する。三河は眉をひそめたままだったが、さっき程の不服な顔ではなかった。


「ま、まぁ。京菜がそう言うなら。そうしましょう」


 三河の言葉に、俺は密かにガッツポーズをした。水ノ橋さんはそんな俺と三河を見て、優しく微笑んでいた。


「――っていうか。雨降ってるじゃねーか!」


 ふと窓の外を見て、俺が叫ぶ。


「なんだってー」

「あら。すっかり忘れていたわ」


 水ノ橋さんが顔色一つ変えずに言った。


 まぁ小雨だったし。雨音が全然聞こえなかったから忘れててもおかしくはないが。ないが!


「後夜祭ってもしかして中止?」

「でしょうね」


 てか何かおかしい。もしかして水ノ橋さん最初から知ってた?


「何ですか? その疑いの目は」

「いえ、何でもないです」


 俺が言うと、水ノ橋さんが突然笑い出した。俺と三河は呆気に取られた。


「ふふっ。まぁまぁ、諦めるのはまだ早いです。屋外がダメなら、屋内で楽しめばいいんじゃないですか?」

「え?」

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