終章

第30話 事件の始まりはいつも突然である

 いつの間にやら季節は過ぎ、夏が終わって秋になった。


 体育祭があり、盛り上がりの余韻に浸ることなく文化祭の準備が始まった。

 秋は行事が多い。


 俺たち和道部は、水ノ橋さんの紹介で焼き物を教えてもらったり、染物を教えてもらったりして、何とか早めに展示の準備を整えた。早めに準備をするのは、焼き物が日にちを置かないと届けてもらえないというのが最大の理由だった。おかげで後は楽だった。水ノ橋さんの部誌と焼き物を待つだけだったので。


「え、二年生が延期していた課外授業に行って事故にあった?」


 その話を聞いたのは、文化祭まであと一週間という時だった。


 いくら延期していたからってこんな時期に行くのはおかしいと思うが、まぁことが起こってしまったのだから仕方がない。


「で、萌美先輩は?」


 忘れそうになるが瀬戸先輩は俺たちより一つ上の二年生だ。三河が心配そうに蔵元先生に聞く。


「瀬戸は、事故にあったバスには乗っておらんかったので無事だ。ただ、事故のショックがな。二年生は学年閉鎖だ。文化祭の準備どころじゃないだろう。そう教師陣で決めた。二年生は文化祭には自由参加ということになった」


 蔵元先生が、渋い顔をして言う。


 気の毒な話だ。


 楽しみにしていたであろう文化祭。二年生は全員準備不参加ということになったのだ。準備する楽しさも含めて文化祭らしいのに。三河が言っていた。


「その事故って、結構ひどいんですか? その、誰か死んだとか」

「いやいや、幸い死人は出なかった。軽い怪我をした生徒は何人かいたがな。よほど怖い思いをして、心の傷の方が深いだろうがな」

「そうですか」


 心の傷と聞いて、俺は何も言えなくなった。


 ふと、こんこんという音が聞こえたような気がしたので、俺は入り口の扉の方を見た。


「あのぉ」


 女生徒が二人。ゆっくりと扉を開けて姿を見せた。


「すいません、突然。私たち、演劇部のものなんですけど」

「演劇部?」


 演劇部が何の用だと、俺と三河がその子たちの前まで歩いて行く。


 部室には蔵元先生と水ノ橋さんとマルクもいたが、対応するのは俺たち二人で十分だろう。


「三河さんにお願いがあって」


 演劇部の一年生らしかった。


「あたしに?」

「あの、文化祭でやる公演に、出てもらえませんか」

「え?」


 俺は驚いて目を丸くする。当然三河も。


「絶対に頼むなって言われたんですけど、朽木くんに、三河さんが経験者だって聞いて。あの、二年生が課外学習で事故にあったって知ってます?」

「ああ」


 俺と三河は頷く。


「知ってるなら早いです。それで人数が不足していて、部長と皆で話し合って、急遽友達とかに協力してくれるように頼んでるんです。でも日にちがそんなにないので協力者は全員裏方なんですけど。一年生は舞台に立ったことのない子もいるので中学の頃演劇やってたりする子は全員舞台組に。それでも二年生の穴は埋めきれなくて」

「つまり舞台経験者であるあたしに、舞台に立てって、そう言いたいのね」

「はい」


 三河の言葉に、演劇部員は二人共頷いた。


「何で朽木くんはしゃべっちゃったんだか」


 三河が少しだけ溜息を吐く。


「それは、このことがあって、誰かいない? って聞いたら。でも絶対に頼むなって言われて」

「言われたのに頼むのか」


 俺が呟く。


「だって、しょうがないじゃないですか」


 切羽詰まっていたのなら、仕方がないっちゃ仕方無いか。


「どうするんだ? 三河」

「どうするもこうするも、頼まれたからにはやるしかないでしょう」

「本当ですか。ありがとうございます!」


 三河の言葉に、手を合わせて喜ぶ演劇部員二人。


「では早速台本を渡すので、一緒に来て下さい。練習もしたいし」


 そんなこんなで、三河は演劇部に連れ去られた。


 なんか面白そうなので、俺も練習を見に付いていく。

 

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