第25話 四人目

「皆ー。楽しんでる?」


 突然、部屋の襖が勢い良く開かれる。


 三河が赤い派手目の着物を着て、楽しそうに部屋に入ってきた。


「あー! ずるい、三人でトランプやってたんだ」

「ずるいのはお前もだろ。勝手にどっか行ったくせに」

「むっ」


 祐樹の指摘に、口を尖らせる三河。


 瀬戸先輩は、待ってましたとばかりにカメラを構えて写真を撮る。


「ねぇねぇ、見て見てー! 綺麗でしょ、この着物」


 三河はそう言って、その場で一回転してみせる。


「ああ。舞妓さん見てきた?」

「うん!」


 俺の質問に、三河は笑顔で頷く。やっぱりか。


「綺麗だった! さすが舞妓さんだって思ったよ」


 三河は興奮しているようで、目をいつも以上にキラキラさせている。


「この着物は、使用人さんに着せてもらったの。京菜も着ればいいのにー」

「私はいいですよ。三河さんに機嫌を直してもらえれば、それで良いです」


 いつの間にか、部屋に水ノ橋さんが戻ってきていた。その後ろに、少し隠れるようにして、マルクが立っている。


「あ、マルク!」

「……何ダよ。この格好は」


 見ると、マルクは浪人の侍のような格好をさせられていた。腰には、偽者だと思うが刀もさしてある。


「侍だよ。金髪侍! ね、意外に似合うと思わない」


 マルクは髪の毛が金髪だ。そのままの色で、桂さえ被ってない状態で、この侍の格好だ。三河が興奮して、俺の右腕を腕を揺すってくる。

 

 俺は少しむっとした。


「かっこいいよー。いいねいいね。金髪侍!」


 祐樹がマルクの肩を掴む。マルクは少し眉をひそめている。


「マルク。どうよ、かっこよくない? 部活入らない?」


 三河が言う。


 マルクは顔をしかめたまま、腰に挿してある刀を見る。


「……こういうのは、嫌いジャナイけどな」

「でしょう。入ってくれる?」


 三河が笑顔でマルクの右腕を掴む。


「イヤ……でもナ」


 マルクが渋い顔をして、横目で水ノ橋さんを見る。


「私のことは気にしなくて良いですよ。居ないものと考えてもらっていいですから」


 水ノ橋さんは落ち着いた感じでそう言って、マルクから目を逸らす。


 この二人の間に流れる空気は、いったい何なのだろうか。マルクは水ノ橋さんが嫌いで、和道部に入るのをためらっている。水ノ橋さんは別に気にしないみたいで、マルクに入って欲しいと思っている?


「この際、幽霊部員でもいいからさ。この書類にサインを」


 三河がポケットから四つ折にされた入部届けを取り出して、マルクの目の前で広げた。


「幽霊?」


 三河の言葉に、マルクは首を傾げる。


「この紙に名前を書いてくれるだけでもいいのよ! つか、書いて」


 半分は命令口調だった。


 三河はマルクに、無理矢理にでも入部届けを書かそうとしている。


「ちょっと待って。何なのサこの紙! オレ得体の知れないものにサイン書くのイヤナンダけども」


 マルクが困った顔をして、三河の手から逃れようとしている。三河はそんなこと許さないとばかりに、マルクに紙を突きつける。


「マルク。大丈夫です。書いてあげてください」


 水ノ橋さんが静かに言った。


 祐樹がマルクに、自分のペンを手渡す。


 皆が見守る中、マルクは少し迷っていたがペンを受け取り、入部届けに名前を書いた。ローマ字でかかれたそれは、めちゃくちゃ癖のある字で俺は読めなかった。


「いよっし! これで四人目ゲット」


 三河はガッツポーズをして、その場で飛び跳ねる。瀬戸先輩はその様子を一生懸命カメラに抑えている。


 喜ばしいことだった。部員が増えるということは、堂々と活動できる場が広がるということ。これで、あと一人。


 俺は、はしゃいでいる三河を尻目に、部屋から出た。

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