第18話 ダークホース

 試合開始の合図とともに、俺はボールを奪いに行く。


 ある程度ボールと走ったら、祐樹にパスをする。俺の仕事はそこまでだった。あとはそのボールを奪われないよう見守り、また敵に渡ったら奪いに行く。


 球技大会当日。一年三組の男子は順調に勝ち上がった。女子もなかなか順調のようだった。意外だったのが、三河椿の活躍だ。彼女はチームリーダーのような役割をしていた。


「嘘だろう。あいつ、あんなに運動神経よかったんだ」


 俺は女子の試合を見ながら、呟くように言った。


 長い髪の毛を一つに束ねてポニーテールにしている三河。


 彼女が投げるボールは敵チームを圧倒していた。結構早いのだ。


「中学って演劇部だったんだよな」


 俺は呆気に取られていた。


「だから言ったろう。三河椿なら不可能を可能にしてくれるって」


 祐樹が俺の隣で、両腕を胸の前で組みながら言った。彼は知っていたのだ。三河の運動能力の高さを。


 水ノ橋さんのクラスは男子チームが初戦で敗退。女子チームが次は三河のチームと当たる予定だ。


 瀬戸先輩のクラスはというと、女子チームがさっきの試合で負けて。男子チームは次の試合で俺たちのチームと当たるようだった。


「おい。四組の男子は初戦で敗退しているんだけど、お前らまだ頑張れるか?」


 祐樹が一年三組の男子チームを目の前にして、そう問いかけた。


「やるしかねぇだろう。ここまできたら」


 男子はやる気らしい。


「二年のエースだぞ。相手は」

「うちにも一人ダークホースがいるじゃん」


 クラス中の視線が、何故か俺に集まる。


「ま、パス出すと面白いくらいに、石になるけどな」

「うるせぇ」


 俺はすねたような顔をした。


「あれさえなけりゃ、きっと優勝できるんだけど。まぁ、贅沢言っても仕方ねぇや。女子に期待するとしようぜ」

「ここで負けても、女子が勝てば準優勝くらいは狙えそうだよな」

「ああ、すげぇぞ。さっき見たか。三河が三年の女子をうならせてたぜ」


 男子たちが口々に言う。


 確かに、三河のすごさは期待させるものがある。けれど、彼女は祐樹の入部の件をどうするつもりなのだろうか。彼女の性格上、手を抜くことはないのだろうということは、なんとなくわかってきた。


「三河がいるなら、確実に勝てるだろう」


 祐樹は、はっきりとそう口にした。


 根拠は? と聞くだけやぼのように思えた。一年三組の女子チームはどこよりもチームワークがよかった。そして三河の的確な投球。ボールはグローブへと吸い込まれる。


「浩彦。次の試合で一度だけ俺からパスを出そうと思う。必ず取れよ。俺を信じろ」


 祐樹がそう言って、俺の肩を軽く叩いた。


 俺は目を丸くした。


 信じろと。そんなことを俺に言ってくれたのは彼が初めてかもしれない。


 ――俺は。祐樹に答えたいと思った。

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