第19話 信じている

 二年二組のサッカー部のエースは案の定、手ごわい相手だった。チームを引っ張っているのは間違いなく彼だ。


 彼は中々、俺にボールを取らせてくれなかった。それどころか軽く遊ばれているような気さえもする。


 あっという間に一点を取られてしまった。


「やっぱ強いなぁ。無理があったか」


 俺が言うと、すぐ傍にいた祐樹が訝し気な顔をして言った。


「本当にそれだけか?」


 指摘されて、どきりとした。


 俺は横目で試合の見学者たちを見た。その中に、一人だけ見知った男子がいた。

 彼は同じ中学で、同じサッカー部員だった坂本だ。


 うちのクラスが勝ち上がってしまったために、注目されてしまったのだろう。わざわざ見に来るなんて、それしか理由は考えられない。


 俺は冷や汗をかいていた。心が落ち着かない。足の振るえが。あの時の傷が痛くないのに痛む。


 罪悪感が俺を襲う。


 俺があのとき、パスボールをちゃんと取っていれば。俺があのとき、怪我をしなければ。俺があのとき――。


「浩彦!」


 祐樹が俺の名前を叫んだ。


 まだ試合中だ。集中しなければならない。


 はっとして、ボールを目で追った。近くまで来ている。俺は走った。


 怖い。怖い、けど。


『俺が楽しませてやるよ』


 という朽木祐樹の言葉を、俺は信じることにした。


「祐樹。パス!」


 俺はそう言って、ボールをドリブルしている祐樹のほうを見た。


「おう!」


 祐樹が俺の言葉に答えてくれる。


 とるんだ。今度こそ、彼を信じて。


 ボールが俺の足元に来る。俺はそれを受け取った。


 足は――? 動く!


「そのままいけー!」


 俺は言われるままに足を動かして、敵を交わし、ロングシュートを決めた。


 笛が鳴る。


 その瞬間、俺の周りにクラスメイトが群がってきた。


「うわああああ」

「うおおおっ」

「君島、よくやったああ」


 みんなが口々にそう言って、俺は揉みくちゃにされた。胴上げまでされて、俺の気分は有頂天だった。


「あんたたち、まだ終わってないでしょ。喜びすぎよ」


 担任の江川先生が困ったようにそう言って、笛を鳴らした。


「浩彦。やったぜ」


 祐樹がそう言って、俺に向かって拳を向けた。俺もそれに答えて拳を合わせた。


「ありがとう。祐樹のおかげだ」

「そういうのは、この試合に勝ってから言え。まだ終わってないぞ」


 祐樹の言葉に、俺は笑った。


 その後の試合はというと、先輩たちの闘志に火をつけてしまったのか点数を取り返され、結局俺たちのクラスは負けてしまったのである。


 残念だったが、女子のほうが何と勝ってしまったらしく一年三組の準優勝が確定した。


 喜ばしいことだったが、俺たち男子チームは複雑な気持ちだったので、落ち込んでいた。


「あんたたち、今度は落ち込みすぎよ」


 江川先生がそう突っ込むほどの、落ち込みっぷりだった。

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