第17話 問題と結論

 俺たちのクラスが優勝するためには問題があった。


 一つは、男女の総合得点(敵チームに勝った数)がクラスの得点になること。もう一つは、全学年全クラスの総合得点で優勝クラスが決まること。


 そしてとても残念なことに、男子はサッカー部員が二・三年生に固まってしまっている。新学期が始まってまだ一か月だ。一年のサッカー部部員は、どちらにしろ経験者でない限り戦力にはならない。


 つまり、これは。俺たちのクラスが優勝するのは不可能に近いということだ。


「祐樹。クラス優勝より、学年優勝のほうがまだ可能性あるんじゃないかな」

「不可能を可能にしてこそ、男ってもんだろ。な」


「な」と言われても無理なものは無理だった。


 同じクラスのやつらと言えば、打倒四組を掲げてはいるが、クラス優勝を目指している者は誰もいなかった。当たり前だ。自ら負け戦を仕掛ける者がいるはずない。というかうちのクラスの男子どもは四組と何があったんだ。


 部室には、俺と祐樹と三河と水ノ橋さんと、そして何故か瀬戸先輩がいた。


 最近、この面子が当たり前のようになってきている気がする。


 部員じゃない奴が二名いるというのも変な光景だ。


「確かに、クラス優勝はちょっと無理がありますよー。私の二年二組はサッカー部のエースがいますしー」

「うわ。本当ですか」


 瀬戸先輩の言葉に、俺は頭を抱えた。


 うちのクラスは一年三組。サッカー部員一名。と中学でやっていた俺だけだ。そして女子チームだが、ソフトボール経験者ゼロ名という。奇跡でも起こらない限り無理な状況。


「水ノ橋さんは一年一組だっけ。サッカー部員はいるの?」


 俺が問うと、水ノ橋さんはいつも読んでいる絵本から目をはなし、こちらを見てこういった。


「知りません。……ですが、勝負をするのなら、私も参加します」


 売られた喧嘩は買う主義だと言っていたから、こう切り返してくるのも予想はしていたが。俺はさらに頭を抱える。


「いや。水ノ橋さんは、むしろ部のために協力するべきじゃね」


 祐樹が言う。確かにその通りだ。


「何を言っているのですか。勝負は勝負です。報酬など、関係ありません」


 そう言って、水ノ橋さんはまた視線を絵本に戻した。


 やはり彼女はどこかずれたところがあるようだ。


 俺は三河に視線を移す。さっきから黙ったままだ。


「三河。お前はどう思うよ」


 祐樹が三河に話を振った。三河は祐樹のほうを見る。


「どうもこうも。優勝が不可能なら、入部の話も不可能じゃない。ま、あたしはそれでも全然、構わないけどね」

「ふーん。なら、手を抜くわけね。三河椿なら不可能を可能にしてくれると思ってたんだけどな」

「あんたね、いい加減にしないとその腕へし折るわよ」

「うわ。こわー。女の子にあるまじき言動。そのエネルギーを球技大会で使えば優勝間違いなしだな」


 また始まってしまった。


 俺は嘆息する。斜め向かいに座っていた瀬戸先輩と顔を見合わせて頷きあう。


「祐樹」

「椿ちゃんー」


 俺と瀬戸先輩がそれぞれ強く名前を呼ぶと、二人は押し黙った。


 ここのところずっとそうだった。


「とにかく、俺は優勝する気でいくから」


 俺は改めて言う。


「パスボールが取れないって言っていませんでしたー?」


 瀬戸先輩が心配そうな顔を俺に向ける。


「えっと。それはですね。パスをしなければいいっていう結論が出ました」

「ああ。もうボールは自分で取りに行けばおっけー」


 これは一年三組の男子全員で相談して、決めたことだった。


 俺が自分でボールを取りに行くときは、トラウマが発動しなかったからだ。面白がられていたのかこれまで何度かわざとボールをパスされて動けなくなるというのはあったが。


 それを見て爆笑していたのが朽木祐樹という男である。ふざけている。


「ああー。もう。勝手にすればいいわ。とにかくあたしは、あたしのしたいようにするし。その結果、万が一にでも優勝できたら、朽木くんの入部を考えてやらなくもないわ」


 仕方なさそうに、三河が言った。


「ま、部長はお前だし。最終的に決めるのはお前だわな」


 祐樹もそこは理解しているようだ。


「では私たちも全力でお相手しなくてはなりませんね」


 水ノ橋さんは、手加減してくれなさそうだった。


「私も、私もー。まあ、私が頑張らなくても優勝はもらいますけどね」


 瀬戸先輩はそう言って、俺たちにカメラを向けてくる。


 それは本当に手ごわそうだなと俺は思った。



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