第11話 勧誘チラシ

 その日の放課後のことだった。


「何だよ、これ?」


 俺は部活が休みだと言う祐樹と、部室で雑談をしていた。そこに目の前の机に置かれた大量のチラシがあった。


「見れば分かるでしょ? チラシよ。部活勧誘のチラシ」


 チラシには“和道部部員募集!”の文字があった。


「お前……。やっとやる気出したのか?」

「やっとって何よ」


 三河が祐樹を睨む。俺も少し見直したぞ。


「あのね、あたしも無理矢理奪ったとか、そういうこと言われるの嫌だし、部員が三人しか居ない状態で、気持ち良く活動できる気がしなかったから、チラシを作ったのよ」


 三河が顔を背ける。頭をなでてやりたい気分だ。


「……これ、一人で作ったのか?」


 俺は三河を見ながら聞く。


「そうだよ。何か不備でもある?」


 三河が俺に向かって顔をしかめた。


「いや、無いよ。ありがとう。俺、これ掲示板に貼ってくる」


 そう言って、俺は立ち上がった。


「うん。お願いしまーす! さ、朽木くんもぼさっとしてないで一緒に貼りに行きなさい。ここに居られると迷惑だから」


 三河がそう言って、祐樹の背中を無理矢理押す。俺たちは再び部室から追い出され、中には本を読んだまま一言もしゃべっていない水ノ橋さんと、三河だけが残る。


「んだよ? 何かやるのか?」


 祐樹が三河に不服そうな顔を向ける。


「あんたには関係ないでしょ? 部員じゃないんだから」

「一緒にこれ貼りに行けって、人のことこき使っておいて言うか?」


 祐樹の手にはチラシの束が。祐樹はチラシをべらべらと揺さぶり、強調する。


「あー、はいはい、ごめんなさいね。ありがとうございます。あたしは、あたしの好きなことしかやらないから。分かるでしょ? この意味」


 三河の言葉に、祐樹は少し考えるようにして天井を見つめ、納得したように頷いた。


「そうか。なら分かった。好きにしろ」

「ふっふーん。あとで良いもん見れるから、楽しみにしててねん」

「期待しないで待っとくわ。じゃな」


 祐樹は手を振って、部室を出て行った。俺はその後ろを歩いていった。


 後ろで、扉の閉まる音が聞こえた。校内に設置してある掲示板。学年掲示板に、俺たちは他の部活のチラシの横に貼っていく。


「あいつ、良くこんなもの作れたな。感心するわ」


 祐樹が貼りながら軽く呆れていた。


「三河なりに考えたんだろうな」


 俺が画鋲でチラシを板に貼り付ける。祐樹はチラシを俺に渡す。


「あれー? 何してるですかー?」


 カメラのシャッター音と共に、不意に二年生の教室から顔を出したのは、瀬戸先輩だった。今日は部活の日らしい。


「ふーん。和道部の勧誘チラシですかー。ひろちゃんも大変ですねー」


 瀬戸先輩が、たった今貼りたてのチラシを目にして、呟いた。


「先輩、ひろちゃんはやめて下さい」


 俺は苦い顔をしながら、瀬戸先輩に言う。


「ん? 浩彦、この可愛い子、誰?」


 祐樹が、俺の肩を小突いた。


「ほら、今日話しただろ? カメラの先輩」

「ああ、例の」


 瀬戸先輩が、俺たちをカメラで撮る。やはり一眼レフカメラだった。


「何ですかー? 例のって、その言い方はー」

「本当に小さいなぁ」


 祐樹がしみじみと言う。瀬戸先輩も気にしているだろうに。


「小さくて悪いですかー? 得なこともあるんですよー。小回りもききますしねー」

「そっかー。よしよし」


 祐樹が小さいものを愛でるように瀬戸先輩の頭を撫でる。


「あのー。いい加減殴りますよー?」


 祐樹、気づけ。瀬戸先輩の背後から発せられている黒いオーラに。


「あ、あのー。先輩。ところで、先輩の友達か誰かに、和道部に入ってくれそうな人って居ませんかね?」


 俺はこの場の空気を変えるために、無理矢理話しを逸らす。これ以上はやばい。


「えー? そんな物好き、居ますかねー? まぁ、一応聞いてはみますけどー。たぶん無理だと思いますよー?」

「物好きって」


 瀬戸先輩って意外と黒いんだろうか。厳しい一言だった。確かに、こんな表面だけ堅苦しい、実際何をやるのかはっきりしていない部活なんかに、誰が入ろうと思うんだろうか。


「よろしくねー。お嬢ちゃん」


 祐樹がそう言って、チラシを一枚瀬戸先輩に渡す。お嬢ちゃんはやめろと、瀬戸先輩が今にも殴りかかりそうだったので、俺たちはその場を後にした。


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