第137話 私はもう逃げない


 凛ちゃんはメイド服に手をかけると、そのまま脱ぎ始める。


「え? え?」

 そして凛ちゃんはクラシカルなヴィクトリアンメイド様から……ミニスカメイド様にスタイルチェンジした…………え?


「どう?」


「どう? って言われても……控え目に言って最高です!」

 手足の長い凛ちゃんは全てを覆いつくすクラシカルなタイプよりも、所謂コスプレ的なメイド服の方が良く似合う。


「へへ」

 照れ笑いする凛ちゃん、最高なんだけど一体何をしたいのだろう。

 嬉しすぎるチェンジだけど。


 突然の負けない宣言、そして突然のキス、更には今まで着た事の無いミニスカメイド服。


 そして凛ちゃんは……そのミニスカートに手をかけるとゆっくりと捲り上げた。


「ええええ?!」

 僕は思わず目を反らす。凛ちゃんの太ももがあまりにも眩し過ぎたから。


「……見て、ちゃんと見て」

 凛ちゃんに言われ僕はゆっくりと振り向くと、凛ちゃんはスカートをたくしあげたまま後ろを向き顔だけ僕の方を見ている。

 ドロワーズから伸びる白い太もも、そこにはいくつかの細かい傷があった……僕がそれを確認するのを見て、凛ちゃんはそのまま半袖の腕を捲る。


 背中から肩口にいくつもの丸い跡……。


「それって……」


「煙草の跡……服から見えない所にね」


「……ああ」

 以前下着姿の凛ちゃんは僕に大きな火傷の跡を見せた。

 しかしそれはほんの一部だった。

 凛ちゃんには無数の傷がある。身体にも心にも……見えない所に、見せない様に。

 そして僕はハッと気が付く、今日凛ちゃんのしたい事に、僕に何をしたいかって気が付いた。


 そう……凛ちゃんは全てを見せようとしている事に僕は気が付いた。

 自分の全てを……。


『ピンポーン』


 そしてそう思ったその時、部屋にチャイムの音が響き渡る。


「き、来ちゃった……」

 凛ちゃんは一瞬たじろぐが意を決してそのまま玄関の扉を開いた。


「おねいちゃん、来ました! ふわああ、おねいちゃん綺麗です」


「良く来たね、とりあえず上がって」


「はーーい、あ、ロリコンのお兄ちゃん」

 ミイちゃんは僕を見て天使の微笑みで悪魔の言葉を呟く。


「いや、違うから……」


「またお風呂で洗いっこしますかあぁ?」


「いやして……無くは無いけど……」


「真君やっぱきもーーい」

 ああ、また凛ちゃんが殻を被ってしまった。 数センチまで縮まった距離が一億光年開いてしまった。


「おねいちゃん、ミイもおねいちゃんみたいなお洋服着たいですう」


「うーーん、一応用意してあるけどお」

 用意してあるんだ……。


「うわ……何その期待に満ちた顔は、マジでキモいんですけど」


「めめめめ、滅相も無い」


「おねいちゃん、着ます、ミイもおねいちゃんと同じ格好するです!」

 某蝸少女の様な大きなリュックを床に下ろすと凛ちゃんの腰に抱き付くミイちゃん……そこで僕はもうひとつ気付いた……そう、凛ちゃんは今怖がっていない事に。


「じゃああっちのお部屋行こっか」


「ハイです!」


「覗いちゃ駄目よ」


「覗かないよ!」

 凛ちゃんが着替えるならまだしも……ミイちゃんじゃなあ。


「なんか言った?」


「いえいえなんでも」

 ふん! と顔を背け二人で奥の部屋に入っていく。ミイちゃんは天使の様な笑顔で僕に手を振っていた。


 うん、ヤバいね、ミイちゃん可愛すぎる。

 ひょっとして、この間言っていた春夏秋冬の最後の一人はミイちゃんじゃないのか? でもミイちゃんは秋というよりはクリスマスやお正月って気がする。



 それにしても……さっきのキスは一体……。


 凛ちゃんの考えが、心が全く読めない。


 そして待つ事10分……二人が部屋から出てくる。

 ミイちゃんは胸に大きなリボンがあしらわれたピンクのオーソドックスな所謂コスプレメイド服を着て出て来た。

 凛ちゃんが着ている本格的なメイド服ではない、無いけど……。


「おにいちゃんどうですか?」

 ミイちゃんはそう言ってくるくるとバレリーナの様に回って見せた。


「♡♡♡♡♡♡★★★★★★」

 言葉にならなかった……あまりの可愛さに僕は右手を上げて昇天する所だった。


「うーーわやっぱキモい」

 僕の姿を見た凛ちゃんがガチの表情で気持ち悪がる。


「しょ、しょうがないでしょ?!」

 僕の前で姉妹メイドとか、もう殺す気かってレベルだから!

 

 僕の反応を見て目の前のメイド姉妹は顔を見合せにこやかに笑い合う。

 そして凛ちゃんはミイちゃんの手を強く握り、僕に向かって言った。


「私……もう逃げないから! 自分の過去からも、そして……自分の思いからも」

 僕を睨み付けながら凛ちゃんはそう宣言をすると、優しく微笑んだ。


 その笑顔を見て僕の胸が締め付けられる。

 痛いぐらいに……激しく締め付けられた。


 この痛みの正体は一体なんなのだろうか……。



 

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