第134話 僕は選ばれる立場。


「ほら、先に歩かない!」


「今度は遅れてる!」


「だってさっきから歩くスピードをわざとかえてるだろ?!」


「それに合わせるの!」


「出来ないよぉぉ!」


「常に相手に気を使い、思いやり、エスコートするのが、男の子の役目でしょ?」


「男女雇用機会均等法違反だ!」


「それを言うなら男女平等でしょ? なに中途半端な知識をひけらかしてるのよ、それも減点!」

 愛真は持っていた手帳に何やら記入をしチェックを入れていた。


「もおおお、そんな歩くスピードを頻繁に変える人なんていないでしょ?」



「女の子と買い物に来てるんだから、気になるお店があったり、次のお店に急いで行きたいとか、色々あるの!」


「てか、そもそもまだ店に着いてないし!」


「あーーもう、ほらエスコートは車道側を歩くの!」


「今曲がった時にわざとそっちに寄ったでしょ?!」


「つべこべ言わない! 今は真ちゃん仮釈放中なんだから!」


「か、仮釈放?!」



「そうだよ、私達が真ちゃんを一人前の大人にするって決めたんだから!」


「い、いい一人前の大人……」

 そ、そそそそれって……。


「な、なに顔を真っ赤にしてるのよ! ああ、またエッチな事考えてるんでしょ? しないから!」


「か、考えてないよう」

 少し考えちゃったけど……。


「この際だからちゃんと言っておくけどね!」

 愛真は歩道で立ち止まると、左手を腰に当て、右手の人差し指を僕に向ける。     

 人を指差してはいけませんって習わなかったのか? という言葉を飲み込み、僕は愛真の言葉に耳を傾ける。


「私も、凛さんも、泉さんも、真ちゃんの事が好きだよ、でもね、それと付き合うってのは別の話、真ちゃんがちゃんとしないと駄目なの!」


「う、うん……」


「まさか真ちゃんから、私達の誰かを選べるなんて事を……思われてたなんてねえ」


「ううう……返す言葉もございません……」

 穴があったら入りたい……ってこの言葉ってなんとなく、いやらしい。


「また人が真剣に話してる時に変な事考えてるでしょ?!」


「! な、なんでわかるの!」


「はあ……あのね、多分真ちゃんは今までずっと一人で閉じ籠っていたからわからないと思うけど、人はね、相手の目線や、表情や、仕草から機嫌や考えを読むの、それが空気を読むって事。そしてね、普通は読まれない為に作ったり、偽ったりして、自分の考えを読まれない様にするの」


「……へえ」


「真ちゃんのそういう素直な所は嫌いじゃない……裏表なく好感持てる。凛さんや、泉さん……私もだけど、真ちゃんのそういう所が好き、なんだと思う」


「……あ、ありがと」


「でもね、例えば私と一緒に歩いていた今の短い時間に、他の女の子の足を見たり、私の胸を23回チラチラ見たり、メイドっぽい服を着ていた娘に着いて行こうとしたり、最低だからね?!」


「えええ!」

 全部ばれてる……そ、そんな……。


「はあ、コミュ症ここに極まれりだねえ」


「ご、ごめんなさい」

 目線なんて今まで気にした事無かった……あとメイド様は条件反射。


「だからね、そういう周りが見えない、自分が見えていない、空気を読めない、そんな子供のような所を直して、矯正するのが当面の目的なの、そういう意味で真ちゃんを大人にするって事、わかった!」


「は、はい!」


「宜しい! じゃあ、はい」

 愛真そう言うとニッコリ笑って僕に手を差し伸べる。


「はい?」


「手」


「て?」


「手ぐらい繋がせて上げるって言ってるの!」


「え?」


「これもエスコートの一環、訓練の一環なの! はい!」

 

「あ、はい」

 僕は慌てて愛真の柔らかくて暖かい手を握り締める。


「あまり厳しすぎるのも……だからご褒美だね」

 手を繋ぐと愛真は上目遣いに照れくさそそうに僕を見る……可愛い……やっぱり愛真は可愛くなった。

 昔は、出会った頃は──そんな事思いもしなかったのに……胸ばかりでは無かった、愛真は女の子に、いや、大人の女に成長していると、僕はそう思った。


 そしてそれは自分に跳ね返る。


 何も成長してない僕。


 母親がいないって事を理由に、忙しくあまり構って貰えない父親を理由に……僕は自分の殻に閉じ籠った。


 そしてそれから、何かを理由に誰かを理由に……閉じ籠る自分を……いつも他人のせいにして肯定していた。


 透明なのは……周りが見ようとしないから……。


 僕はいつも……そうやって逃げてきたのだ。


 人付き合いなんて正直めんどくさい、でも泉に認められたくて、友達を作ろうって頑張った。


 そのお陰で凛ちゃんと知り合う事が出来た。


 僕にはかけがいのない二人の友達と、そして大好きな……妹が出来た。

 大好きな三人……僕は三人にふさわしい男になりたい。


 今、僕は本気でそう思い始めていた。



「真ちゃん! 調子に乗るな、恋人繋ぎとか10年早い!」

 愛真は僕のあたまをポカリと叩いた。


「あいた!」

 ご褒美じゃないのかよおおお……。

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