第132話 腹を割いて話しましょう。


「じゃあとりあえず皆揃った所で、それぞれ真ちゃんの勘違いを是正するべく、ここで改めてどう思っているのか? 確認してみましょう」


 議長? の愛真がリビングにいる僕を含めた三人を見回しながら話し合いという名の僕への弾劾が始まった。

 

 それにしてもなんなんだろう……この状況は……二人はともかく凛ちゃん迄……。


 いや、まあ、そもそも僕の勘違いから発展した弾劾裁判? なんだけど……。


 三人が僕を見つめる……今まで目立たなかった、透明人間だった僕が三人の美女から見つめられるなんて……そしてこんな状況に陥るなんて……本当人生ってわからないよ……いや、感心している場合じゃない。


 三人は僕を睨む様に見つめている。まるで針のむしろだった……僕は浮気相手が自分の部屋でバッティングした様な、そんな修羅場チックな状態を今まさに体験している……って、こういう考えをしている事がそもそも勘違いなんだろう……。


「じゃあ……まずは、泉さんから、泉さんにとって真ちゃんは何?」


「え?! わ、私ですか?」

 泉は愛真に言われて再度僕を見つめる……そして僕から目を離さずに、少し照れくさそうに言った。


「私にとって……お兄様は……お兄様です、かけがいのない……大事な大事なお兄様なんです」


「あーーつまりは~~ただの兄妹って事ね~~」


「え! あ、まあ、で、でもただのって言われると心外ですが」


「ハイハイ、じゃあ次に凛さんは?」

 ブラコン泉をぞんざいに扱い、愛真は続いて凛ちゃんに聞いた。


「え! わ、私は友達って言うか……そもそもこの集まり事態よくわからないんだけど?」


「へーー友達ね」


「な、何ですかその目は?」


「いーーえーーべーーつーーにいいーー」

 何か腹に一物を持っているような、わざと相手をイラっとさせる様なそんな言い方の愛真、いつでも冷静な凛ちゃんが眉間に皺を寄せ愛真を睨む……こ、こわいお……。


「そういう愛真さんはどうなんですか?」

 先ほどの仕返しとばかりに今度は泉が愛真に聞いた。


「わ、私は……相方って言うか、相棒って言うか……」


「まあ、友達って事ですね、ただの」


「ただのって、それ仕返し?!」

 合わさる目線、丁度間にいる僕の前で火花が散った……様に見えた。

 えっと……この二人お風呂に一緒に入るくらい仲良かったのでは? ギスギスする二人、火花散る目線にハラハラする僕……。


「お、おほん、とりあえず……この中に真ちゃんを恋人だって思っている人はいないって事は……わかったよね真ちゃん?」

 咳払いを一つしてから愛真はそう結論付けた。


「は、はい……」

 ですよね、はい……僕はただの勘違い野郎です……でした……。

 

「でも……私も含めて皆、真ちゃんの事は好ましく思っている……それは間違い無いって事はわかってるよね」

 愛真のその意見に異論は出なかった……凛ちゃんからも……。


「……は、はい……それはもう……あ、ありがと……」

 それは、その愛真の言葉はとても嬉しくて……僕は思わず涙ぐむ……嬉しい、僕にこんな綺麗で美しくそして可愛い友達や妹がいて……と、僕はそう再認識する。

 でも、その喜びも束の間、次の愛真の言葉に僕は一瞬で奈落の底に突き落とされる。

 

「それで、真ちゃんはどう思っているの?」


「……え!?」


「三人の事をどう思っているのかはっきりさせて」


「え! い、いや、それは……僕も……」

 こんな状況で、僕は昨日迄誰と付き合うか悩んでいました……なんて言える筈もない……ああ、でも愛真に言われて改めてはっきりとわかった……僕はとんだ勘違い野郎だった事に。


 恥ずかしい、恥ずかしすぎて死にたい、ああ、僕が本当に透明人間だったら……って一体僕は透明になりたいのか? なりたく無いのか? どっちなんだ!

 

「じゃあ質問を変える……誰が一番なの?」


「へ?」


「真ちゃんはこの中で……誰が一番なの?」

 愛真が今までにない真剣な表情で僕を見つめる……そうか……これが目的か……。

 僕は愛真の表情から今回集まった理由を悟った。


「ぼ、僕は……」

 誰が一番……そう言われても……結局勘違い野郎だった僕は誰と付き合うか、将来誰と一緒にいたいかなんて事を考えると続け、結論は出なかった。


 僕は三人を見つめる……誰と付き合うかなんておこがましい考えでは出なかった結論……でも誰が一番かと言ったら……。


「僕は……僕は泉が……一番」


「お、お兄様!」


「か、家族として一番大事……そして……凛ちゃんが友達として一番大事、愛真は幼なじみとして一番大事……です」


「ああ、そういうのいいから」

 愛真の表情がフラットになる……。


「だ、だってえええええ」

 満面の笑みを浮かべていた泉は一転、今まで見た事の無い程悲しそうな表情に変わり、凛ちゃんは苦笑いしていた。

 

 どうしよう、この空気どうすれば……静まり返る場、でも僕はどうする事も出来ない……僕にそんな権利は無い。


「まあ、茶番はここまでにしましょう」

 静寂を破り唐突に泉がそう言い出す。

 ちゃ、茶番! どういう事も? さっきの悲しそうな表情から一転フラットに戻った泉の言葉に動揺する。


 しかし僕は直ぐに理解した。そこでこの場の主導権が愛真から泉に移った事に。 今までのが茶番だという意味に……。


「そうね……」

 凛ちゃんがそれに追随する……え? な、何? 一体この雰囲気はなんなんだ?

 まるで今から殺しあいでも始まる様な雰囲気に僕の身体は震えだす。


「そうね……じゃあ真ちゃんは席を外して貰える?」

 本当に今までは茶番と思わせる程に真剣な表情、今まで見た事が無い程に真剣な眼差しの愛真は僕に向かって出ていけと言った。


 い、いや、ここは僕の家だ、そんなわけにはいかない! 僕は勇気を出して言った。


「わかりましたあああああ!」

 僕は慌てて席を立つと一目散にその場を後にする!

 僕がこんな場所に……今から殺し合いをしますと言わんんばかりのこの雰囲気の場に居られるわけが無い!

 ここにいるくらいなら、カースト頂点の連中とウエィウエィ言いながらカラオケに行った方がましって思えるくらいだ。


 僕は逃げる様にリビングを飛び出し廊下に出る。

 そして閉まっていく扉から、三人の話し声が聞こえてくる。


「さあ、じゃあ……お互い腹を割って話しましょうか?」


「腹を……いて……じゃないの?」


「あはははは……泉さんも凛さんも……こわーーい」

 

 そう愛真が言った所でリビングの扉がパタリと閉まった。



 

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