第131話 勘違いの果てに


 誰も居ない、ボッチの世界に閉じ籠っていた僕。

 僕は透明人間だ……なんて自分に言い聞かせ、それが特別な事だなんて強がっていたりした。

 でも、僕は別に透明だったわけじゃない、僕は道端に転がる石ころだっただけ……それを教えてくれたのが凛ちゃんだった。

 

 僕は気が付いた。僕は暗闇の世界にいたって事に……。

 そしてその暗闇の世界から、僕を引き上げてくれたのが愛真だった。


 でも……その愛真は僕の前から突然消えてしまった。


 暗闇の外、ボッチの世界の住人だった僕は愛真に教えられてしまった。

 外の世界がこんなにも明るいって事を……こんなにも楽しくて明るい場所があったのかって事を……僕は教えられた……いや、半ば無理やり教えられてしまったのだ。

 そしてそれは僕の知らない世界だった。そして後に知らなければ良かったと僕は思った。愛真が居なくなったその時、知らなければと……後悔した。


 僕は愛真が居なくなり、深海から引き上げられてしまった深海魚の様に、その明るさに目が潰れ、まるで大気に身体が潰されてしまったかのように何も出来なくなってしまった。

 

 そして僕はまたボッチに戻った。今度も意図せずに戻されてしまった。

 今までなんとも思わなかったのに、僕の周りでは、学校では、友達同士で笑い、語らい……その一つ一つが僕の心に突き刺さって来た。


 そして、その傷を癒してくれたのが、泉だった。

 泉は僕を甘やかしてくれる……その甘さと言ったらまるで全身蜂蜜まみれになる程の甘さで、僕は泉にトロトロになってしまった。


 でも、本当にそれで良いのか? 泉に甘やかされたままで良いのか? ってそう思った直後、愛真が僕の元に戻って来てくれて、そしてさらに凛ちゃんとも仲良くなった。

 そう、僕は今ボッチではない……ボッチの世界から、あの暗闇から完全に出てきたのだ。


 さらには、今現在、僕はその3人に、その美少女3人に好意を抱かれている……らしい。


 いや、まさかと思うがこれはゲームの世界の話でも、妄想の中の話でも、あまりの寂しさに僕の心の中で3人の人物が精製されたわけでもない、勿論異世界から召喚したわけでも、天から降って来たわけでも……多分無い。


 実際に、現実に僕の前に現れ、そして……そう言われたのだ。

 

 そして多分僕はこの奇跡に、この僕の人生での最初で最後のモテ期に酔っていた……。


 どの娘にしよっかなあなんて事を分不相応にも、そう考えてしまった。

 いや、まあここまで、軽くは考えていないのだけど……。


 そしてそれを、僕のその考えを、愛真に指摘されてしまう。


「勘違いしてない?」って……。


 うん、してました。


 よくよく考えれば、愛真は小学生の時に友達になっただけ、しかも愛真の方から……凛ちゃんはメイド喫茶で働いているという弱みを握って半ば無理やり友達になった……そして泉は親の都合で兄妹になり、さらには極度のブラコンだった為、兄になった僕を甘やかしたいっていう半分病気のせいで、そんな相手の都合だけで、僕は美少女3人に囲まれる事になった。


 そうなんだ……僕は自分からは何もしていない、何も変わっていない。

 ボッチの頃から僕は何も変わっていないのだ。


 でも恐らく端から見たら、美少女3人にちやほやされている様な、そんな風に見えると思う。


 僕も昨日迄、愛真に指摘される迄はそう思っていた。


 それでも、勘違いでも、こんな美少女3人と関われて、僕は幸せな世界にいるって……今はそう……そう思って……幸せな世界に…………これが?


 そう……今は家のリビング、そして僕の目の前にその美少女3人が僕の前に並んで座っている。

 

 昨夜の顛末から、愛真が急遽凛ちゃんを家に呼び、4人で話し合う事に。

 でもいざ話し合うと言っても、僕は別に誰かと付き合っているわけでもない。

 そして……よくよく考えれば目の前にいる3人から付き合ってと言われたわけでもない。

 いや、それらしい事は言われた。好きとか好意を抱いているとか、でも、付き合ってとは言われていないんだ。


 だからこれは決して修羅場とかではない……無いんだけど……。


 そして……それは、何故ここに全員集まって、そして何を話すかわかっていないのは、恐らく3人も同じだった。

 

 いや、集めた愛真本人は、わかっているのか……

 

 一体そんな状態で、こんな状況で、愛真は何の話し合いをするつもりなのだろうか?

 

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