第107話 ボッチの理由
僕は親とのコミュニケーションが欠けていた、そのせいで、人とのコミュニケーション能力が欠けている。
コミュ症を親のせいにするってのは、良くないとは思う……でも実際子供は幼い頃、親を見て育つのもまた事実。
僕には母親の記憶が殆ど無い……温もりや鼓動、優しさ等、なんとなくでしか母親の事を思い出せない。
そして仕事が忙しい父さんと、どこかに出掛けた記憶も殆ど無い……。
友達は作ろうとはした、でも小学校低学年の時隣に座る女の子に「真君って変!」って言われた。
勿論僕も言い返した、「お前だって変だろ! バーカ、アホ! ブス!」僕はその時初めて喧嘩をした。一人っ子の僕は、喧嘩の仕方も知らなかったので今思えば言い過ぎたのだろう……その女の子はワンワンと泣いてしまった。
クラスでも人気のある女の子にそう言われ、そして泣かせてしまい、僕はその後クラスで孤立した。
そこで僕は知った……クラスには順位があり、序列があり、そして序列上位には逆らってはいけない……自分とは違う世界があるって事を。
そこでそっちの世界、僕とは違う世界に、序列上位に行く様な気力も力も手段も知らない僕は、その上位陣に知られない様に、目立たない様に過ごすという事を覚えた。
さらに目立つリスクを冒して友達を作るよりも、一人でいる事を選択した。
そして数年、僕は一人で過ごしていた。家でも学校でも……。
特に寂しいとかは思わなかった、感じなかった……。
でも、それは知らなかっただけ……生まれてからずっと孤独の世界に生きていたから、僕はずっと一人だったから。
知らなければ良かった……でも僕は知ってしまった。
『佐々木 愛真』
彼女を知ってしまった。
友達という物を知ってしまった。
僕は孤独だった事を知ってしまった。
そして大事な物を無くす、宝物を失う恐怖を知ってしまった。
愛真は……僕の宝物……だった、家族だった。
そして今、僕には宝物がある。
大事な大事な宝物……。
泉という……大切な人……大事な家族。
そう……僕と泉は家族になった……大事な大切な家族に。
僕はそれを壊したくない……もう失いたくない。
もう耐えられないから……これ以上家族を失う事には……。
◈ ◈ ◈ ◈
「お兄様?」
「……あ、ううん、何でもない」
話があると言って泉をキッチンからリビングに呼び、二人でリビングのソファーに向かい合って座っている。
正面でニコニコと笑う泉、とにかく僕と一緒にいる事が嬉しい様だ。
さっきは僕がさっさと部屋に行ってしまったので、かなりしょんぼりとしていた。
幸せそうな泉……出来ればこの笑顔を崩したくない……でも、やっぱり言わなきゃいけない、拒絶しなければいけない事はある。
僕は心を鬼にして泉に言った。
「あの……泉、いつもありがとう……でも、その……最近ちょっとその、僕に構いすぎというか……」
「……嫌でしたか? お兄様?」
「……いや、えっと嫌じゃない、すごく嬉しい……んだけど……」
「ご、ごめんなさい……」
笑顔でいた泉は僕にそう言われ、途端に肩を落として顔を下に向けた。でも……それでも言わなくては……僕は泉に構わず話を続ける。
「そ、それで……学校がね、もうじき始まるから、その学校では、今まで通りっていうか、前の様に、あまり僕に構わないで欲しいんだ」
「…………いや」
「……え?」
「嫌です!」
「泉……」
「お兄様! お兄様の一人でいる姿を見るのは、つらそうなお兄様の姿を見るのは嫌です!」
「いや……辛くなんて」
「嘘! それくらいわかります!」
「……いや……泉はわかってない」
「わかります!」
「わかってない!! わかる筈なんてない!!」
僕は机を叩き強い口調でそう言った。
「お、お兄様……」
「わかってない……だって泉はクラスカースト1位……序列1位……なんだから……」
「……何ですか? それ……序列?」
「そう序列だよ……カースト、ヒエラルキー……」
「……古代のカースト制度はわかります、それがどう関係して」
「あははは、ほらね、やっぱり泉は、カースト上位の人達はわかっていないんだ……クラスには、いや学校には確実にあるんだよ、カーストって奴が、そして僕は最低クラス……ううん、最下位……誰にも認識されない石ころ……」
「そんな……」
「僕が兄になる前どれくらい知っていた? 僕の事をどれくらい認識していた? だからわかっていない、僕と泉は住む世界が違うんだ……」
だから僕に構わないでくれ……出来る限りそっとして欲しい……僕の為にじゃなく……泉の為に。
「……嫌です……」
「泉!」
「嫌! 絶対に嫌!」
泉はいつにない剣幕で僕に食ってかかる、何でも言う事を聞き、僕の言う事は殆ど否定しない泉が……。
「だ、だからそれは泉の為なんだ、僕に構っていたら泉はカースト上位の人達から」
「そんなの知りません! 私の……私の1位はお兄様です!」
泉は立ち上がり僕に向かってそう言った。
「いや、それは……そんな事は、泉が決める物じゃなくて……」
誰が決めるとかはではない、でも……周りは自然にそう認識している。
「お兄様……」
泉は僕の向かいのソファーから立ち上がり、そのままテーブルを回り込み僕の隣に座った……そしてそのまま……僕に抱きつく。
「い、泉!」
「──お兄様……私は……もうお兄様だけいればいいんです……お兄様以外はいらない……クラスで、学校で……お兄様を無視なんて……もう出来ません……愛するお兄様を一人になんて……出来ません」
「いや、だから……それじゃ……序列から落ちて……」
「ふふふ、そんな物の存在は私にはわかりません、でも仮にあるなら、お兄様と……お兄様と一緒なら……落ちても構いません……お兄様と一緒なら…………」
「……一緒なら?」
僕がそう聞くと泉は僕にしがみつく手に力を入れ、そして僕の胸元から顔を上げ僕に向かって笑顔で、満面の笑みで言った。
「お兄様と一緒なら──たとえ地獄の底に落ちても構わない……私はお兄様と一緒ならそれだけで幸せなんです」
そう言って泉は幸せそうに……僕の胸に顔を埋めた。
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