第106話 愛情の洪水

 

「お兄様お食事の準備が出来ました」


「お兄様お風呂が沸きました」


「お兄様お背中流しましょうか?」


「お兄様マッサージを」「お兄様耳掻きを」「お兄様添い寝致します」「お兄様」「おにいさまああ」



「うわああああああああああああ!」


 僕はキスをした翌日から泉の愛情攻撃を受け、精神的にヘトヘトになっていた。


 夕飯の「お兄様アーーン」攻撃を数回で交わし、サッと食事を済ませ、食後のコーヒーもリビングでまったりも今日は断りそそくさと部屋に戻る。


 疲れた……一日中、泉の完全介護の様な生活……正直たまには一人に、一日一人になりたいって……さすがにこれは厳しいって、そう思う様になっていた。


 今までも僕の面倒を甲斐甲斐しく見てくれて感謝しか無い……無いんだけど、あのキスから、僕が泉を好きだと言ってしまったあの日から、僕は泉の愛情表現に溺れそうに、いや……既に半分溺れている様な状態になっていた。


 そして冬休みも明日で終わる……明後日から学校……このままではいけない……とりあえず学校では今まで通り、クラスカースト通りの対応をして欲しい……そう思っていたが……。


「言えないよなあ……」

 学校どころか、今のこの生活でも、もう少し抑えて欲しいって思っているが、僕はそれが言えなかった。


 だって…………泉が幸せそうだったから……。

 生き甲斐? とも思える泉の対応、僕が何かを頼むと満面の笑みで応じてくれる。そして泉の要望、といっても僕に頼むのではなく、僕に何かをしたいという要望なんだけど、それを断ると、泉はこの世の終わりの様な表情となりガックリと肩を落としてしまう。


 いや、だって……お風呂で背中とか……さすがに……。

 怪我をした時は大義名分があったけど……今は特に必要としているわけでは無い。それに見るのも見られるのも……恥ずかしい……。


 だからそういった事、マッサージや耳掻きや添い寝等は出来る限り断っていた。


「……疲れた……」

 今僕は家では何もしていない、する事がない……それなのに何故か僕は疲れきってしまっていた。

 精神的に限界……このままでは僕の身が持たない。

 どうにかしなければ……でも……。


 どうやったら泉と普通の兄妹に、普通の家族になれるのか? どうやったら泉のブラコンが治るのか? 僕は悩んでいた。


 泉は兄が好きなのであって僕が好きなわけではない……。


 僕は勿論僕の事を僕自身の事を好きになって欲しい……そう思っている。


 だから好きになって貰う努力をする……泉に好きになって貰う努力は惜しまないってそう思っている。思っているけど……ここに矛盾が生じてくる。


 泉の好きになる人は理想の人は……兄なのだから……そしてそれは……現在僕なのだ……。


 だったらこれで良いじゃないか? この関係が一生続けば良いんじゃないか……泉は続けるって言っていた。

 だからこれで良いじゃないのか……とも思ったした。


 でも……周りはどう思う? 父さんは? 義母さんは?

 例えば……僕が今の泉の状態につけこんで……その関係を、キス以上の事をしちゃったりする。

 恐らく泉は拒まない、僕を受け入れるだろう……。


 そして最終的には……子供なんか出来たりする。


 でもそこで問題が……そう……僕と泉は結婚は出来ない……血は繋がっていないから法律的には結婚は出来る。

 でも……出来ない……だって……結婚したら兄妹じゃなくなるから……。


 結婚しない、するつもりないのに、兄妹関係でそういう事をしてしまった僕に……周りはどう思うか?


 ブラコンの妹に手を出した最低な兄って……そう思うだろう……。


 そんなの最悪だ……自分の妄想と欲望の為に泉に、妹にそんな事は出来ない、大事な人を不幸になんて出来ない。


 だから僕は泉をなんとかしないと、泉のブラコンを治さないといけない、そしてそれが出来るのは僕しかいない……。


 僕はそう決心して、リビングに向かった。

 お恐らく泉はまだ片付けと明日の朝食の下拵えをしている筈……。


 とりあえず……まずは学校だ、明後日から始まる学校の事を、クラスカーストの事をヒエラルキーの事を泉に話そう。


 カースト上位者は絶対にわからないヒエラルキーの存在……恐らく泉はわかっていない……僕の立場。


 今度は泉にわかって貰おう、僕の事を……僕の卑屈で駄目な所を……カースト最下位の存在を。


 大好きな人に……僕の事を……わかって貰おうって……僕はそう……決心をした。








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