第105話 妄想殺し


 その後僕と泉は一緒に寝て……そして朝チュンを迎えた……筈もなく泉は僕の部屋を出ていった。


 いや、この先なんて出来るわけない……進めるわけが無い、今日の所はこれでと僕は泉にやんわりと部屋に戻る様に言った。


 だって……キスしただけで僕の心は限界に……ましてや泉の企みが、今後の事がわかった今、これ以上関係を進める事なんて出来る筈もない。


 暫く泉が居なくなった部屋をボンヤリと眺めそして僕はベットに寝転ぶ……丁度泉が座っていた場所に顔を埋める……。

 僕はそのまま無意識に泉の匂いを探した……探知犬の様に、さっきキスをした時に嗅いだ甘い香りを求めて……暫くそのままごそごそとベットに鼻を擦り付けていた……いや……何をしているんだ僕は……。

 

 そう思い我に帰る……そして一度頭を振って雑念を払い、泉の事を、今日知り得た事を整理しながらあお向けで寝転び天井を見上げながら考え始めた。



『究極のブラコン』……恐らく泉は元々お兄ちゃんが好きだったんだろう……。

 でもそれは……小さい子供が抱く思い。そんな程度だったのだろう。

 そしてそのお兄ちゃんが亡くなった……泉は自分のせいだと言っていた。


 自分のわがままでって確か言っていた気がする。

 まあ当たり前だが直接手を下したとかそう言うナイスボート的な事では無いだろう……間接的にそれがお兄ちゃんの死に繋がったと僕は予想する。


 例えば……愛するお兄ちゃんに恋人が出来た……泉がそれを嫌だと言った。

 そしてお兄ちゃんは悩み苦しみ……自ら……なんて事も……。


 そして泉はおかしくなった……自責の念に駆られた。


 そして……そのまま妄想が膨らむ、兄に対して想いが募る、異常な感情が芽生え、異常な位のブラコンになった。


 そう……それはまるで……僕の様に……。


 僕もそうなんだ、僕も泉と同じだ。


 僕はずっと一人だった……母さんはいない、父さんも殆どいない、友達も……そんな僕は寂しかった僕は一度愛真に救われた。

 

 でも愛真は僕の前から居なくなる……僕は思った……だったら始めから居なければって……。

 そして僕はおかしくなった……泉と同様におかしくなったんだと思う。

 泉は兄に依存した……僕はメイド様とそして……泉という天使に依存した。


 依存して、ずっと妄想していた。でも僕はそれで幸せだった。


 そして今……それが……その数々の妄想が現実になっている。


 でも……現実と妄想を一緒にしてはいけない……当たり前の事、虚構の世界と現実を一緒にしてはいけない。

 

 今、僕は……いや、泉も……妄想を現実にしようとしている。

 今日のキスもそう……。妄想の実現……。


 でも……妄想は妄想だ、それを現実と混同してはいけない。


 アニメや物語と現実を一緒にしてはいけない事は殆どの人がわかっている。


 でも……その中でごく一部の人が、混合してしまっているのもまた事実。

 そしてそれが犯罪として、事件となってしまっている。


 今、泉は妄想の世界を現実の世界にしようとしている。

 そして今日、僕もそれに乗っかってしまった。

 泉の魅力に負けて……僕も泉の妄想の世界に落ちてしまった。


 でも……駄目だ……これ以上は……。


 恐らく泉は僕に全て捧げようとしている。身体も心も人生も……。


 そして僕は……それを欲している……欲しい……泉が……泉の全てが……泉は僕の宝物だったから。

 

 でも……それを手にしてはいけない、少なくとも今の状況、状態では。

 

 当たり前だ、間違っている。


 兄妹で……なんて間違っている。


 大切な人が、大事な家族が……間違った方向に向かおうとしている。


 そんな時家族は、間違った方向を正しい方向に誘導しなければならない筈。

 一緒に進むなんてもっての他……。


 僕は泉の兄として、泉の家族として、泉を正しい方向に導かなければならない。

 これ以上泉と一緒に流されちゃいけないんだ。


 たとえそれで……泉を失う事になっても……。


 僕はベットから立ち上がると、泉の部屋に向かって宣言した。


「泉の……ブラコンを治す……泉の妄想を、そのふざけた妄想をぶち壊す」

 右手を泉の部屋に向かって突きだし……そう言い放った。


 

 そして僕は再びベットに倒れこみ枕に顔を埋めてさっきの事を回想する。


「でも……泉とキス……ぐはあ……柔らかかった……いい匂いだった……はふう……」

 そしてそのままいつもの妄想の世界に落ちていく……泉……泉……いずみいいいいいいい……と念じながら……今日のキスを反芻しながら……今日だけは、今だけはと自分に言い聞かせながら……。


 

 

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