第104話 一生兄妹


「は……初めて……」


「はい……お兄様がファーストキスの相手です」


 頬を赤らめ嬉しそうにそう言う泉……そ、そうなんだ……。僕の中で嬉しさが倍増する……泉の前の……本当のお兄ちゃんと泉は……キスをしていないって事……まあ当たり前だろうけど相手は超ブラコンの泉だし……。

 僕が初めての相手……今まであの唇に触れた唇の持ち主はいない……いや、こんな事で勝ち負けなんてない。そもそも泉は僕の事をお兄ちゃんと同じ位愛している言っている。そしてそのお兄ちゃんはこの世にいない。


 そう考えたら、僕の中で独占欲がメラメラと沸き上がる……泉は僕だけの物……。


 でも……そう……さっきの事が解決していない……僕と泉は義理の兄妹だ……血は繋がっていない。


 もし今後、父さんと義母さんが別れたら……僕達は兄妹じゃなくなる……そうなったら泉は僕に興味がなくなる……。


 凛ちゃんも言っていた……。

『人が人に興味を抱くのは相手に価値がある、自分の価値を相手にわからせる、そうすれば自分に興味を抱かせる事が出来る』


 泉にとって僕の価値って……兄である事……ただそれだけ……。

 


「い、いや、ぼ、僕の話聞いてた?!」

 僕はキスの嬉しさを一度取り払い泉に再度確認する。

 もし、もし僕達が兄妹じゃ無くなったら? 泉は僕に興味がなくなる……今日の事も、ファーストキスも無かった事になる。


「?」

 泉は首を傾げる。何の事かわかっていない……。


「だ、だから僕達が……兄妹じゃ無くなったらって、もう僕は……大切な物を……泉を……失いたくない……って……」


「……お兄様……」

 そう言ったのに……なんで泉は僕にキスなんてしたんだ……なんで……一生忘れらなくなる様な事を……したんだ。


 そう考えると……嬉しさよりも困惑の方が大きくなった……泉は良いのか? そうなる可能性があるって、わかっていないのか?


 頭のいい人……僕は泉をそう認識している。

 勉強だけじゃない……泉は頭のいい人だ。そんな将来が未来がわからない筈がない。


「どうして……キスなんて……」

 僕がそう言うと泉は笑った……何が可笑しいんだ……僕の中で怒りが込み上げて来る。

 しかし泉は全て察しているかの様に笑いながら僕に言った。


「お義父様とお母様は仲が良いですよ、今日だって二人で食事して泊まって来るって、うふふふ」

 泉がポケットからスマホを取り出しメールの文面を見せる。


「いや、……で、でも……」

 父さんを信じていないわけではない、でも離婚なんて良くある話……二人共にかなり仕事で忙しい……すれ違いで破局なんてよくある事……。


「──ふふふ……そしてお兄様……私がこの先愛するお兄様を手放すと思いですか?」


「……え?」


「だって……お兄様と相思相愛になったんです……今、私は夢の様な気分なんです……長年の……私の夢が叶ったんです」

 両手を合わせて天にも昇る様な、恍惚とした表情でボーッと宙を見つめる泉……。


「えっと……いや、だから……」

 話が噛み合わない……手放さないって言ったって……。

 無理やり別れさせないつもりか? いや、いくら子供はかすがいとは言え、そんな事は出来やしない。

 

 困惑する僕、そんな僕の疑問に泉は斜め上の解答を示してきた。

 ……そしてその泉の言葉に僕は……驚きを通り越し恐怖する。



「ふふふ……もし……仮にもしそうなったら……お兄様には養子になって貰います……お母様か、もしくはお婆様の養子に……」


「……え?」


「お母様が反対した場合、二人でお婆様の養子になれば兄妹になれます……お母様はお婆様に反対は出来ません」


「よ、養子……」


「そして……」

 泉は笑った……凄惨な顔で……僕は見てしまった……泉の悪魔の姿……堕天使の姿を見てしまった。


「そしてお婆様はかなりのご高齢……もし縁組みをした後に……そうすれば……私達は一生兄妹です、お兄様」

 そして泉はニッコリ笑った……いつもの天使の様に……ニッコリと……笑って言った。


「お兄様は一生私のお兄様です」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る