第103話 キスの魔法
身体が固まる、空気の流れが止まる、時間が止まる……。
泉の唇が僕の唇に重なっている。
目の前に泉の顔が、目をつむっている泉の顔が……近すぎて焦点の合わない顔が、ぼんやりと見えている。
柔らかい唇の感触と泉の甘い匂いが僕の脳に襲いかかる。
パニックと冷静さが頭の中で混在する。
僕は……今、僕は泉と……憧れの天使とキスをしている。
数百回……いや、数千回……泉とキスをする想像、妄想を今までしてきた。
色々なシチュエーションを想像してきた。
ご都合主義の妄想……僕が泉に惚れられ、向こうから告白……そして付き合い、デートをする……そして旅先で、京都の大文字焼きを見ながら、長岡の花火を見ながら、函館の夜景を見ながら……僕の空想できる範囲で、テレビや写真で見た美しい風景をバックに、イメージ出来る場所で……そんなシチュエーションを妄想しながら、憧れの人とキスをした。泉とのキスを夢見ていた。
今……それが現実となる……ただ想像していた場所では無かった。こんな想像はした事が無かった。
僕の初めてのキス、その場所は、僕の部屋の僕のベットの上……。
僕のファーストキス……その相手は妹……義理の妹……そして憧れの人。
何度もキスをしていた。色んな角度色んな方法で……壁を相手に、鏡を相手に、布団を相手に、枕を相手に、シミュレーションは完璧だった。
でも現実は……何も出来ない……動けない……時間も身体も一切止まっている、そんな感覚……。
ただただ、唇の感触だけが、泉の唇の感触が僕の唇から脳に伝わる……泉の甘い匂いが鼻を介して脳に伝達される。
他の感覚のスイッチを脳が強引に切断して、その情報だけを取り入れようとしている。
でも、その二つの情報だけで、僕の脳はどうにかなってしまいそうになる。
どうすればいい?……僕はどうすれば? 突き放す? 抱き締める? 舌を……。
時間がわからない……泉の考えがわからない、自分の考えがわからない……。
感触だけが冷静で、それ以外はパニックを起こしている……。
そして、もう……このまま、ずっと……一生このままでいるんじゃ無いかと思い始めた瞬間、泉の唇の感触が不意に消えた。
泉が僕の唇から自分の唇を離す。僕は微動だにしていない。
唇が離れた瞬間……僕の心に穴が開く……物凄い喪失感が僕を襲う。
僕は唇が取れた様な錯覚に陥り、思わず自分の唇を触った。
良かった……唇は付いていた。
僕は自分の唇を押さえながら、泉を見る……ゆっくりと僕の視界から泉が離れていく、アップだった泉の顔が、ボヤけていた泉の顔が、段々とはっきり見えてくる。
泉は顔を赤らめ、僕をはにかむ様にじっと見つめながら言った。
「ふふふふ、しちゃった」
ペロリと舌を出す泉……さっきまで僕の唇と重なり合っていた唇からピンク色の舌を出す。その舌が泉の唇に触れるのを見て、僕は思わず間接キス……って思ってしまう。
現実感が無い……夢の中の出来事の様だったから……。
「…………嫌でした? お兄様……」
僕は何も言えずにボーッとしていると、泉は少し不安そうな顔でそう言って来る。
「──嫌……なわけ無い……よ」
嫌なわけない……そんなわけない……でも……でも……。
「……良かった……私の初めてを……お兄様に貰って頂けて……私も……嬉しい」
頬を赤らめ泉は僕を見てニッコリと笑う。
天使の微笑み、いや……これは悪魔の微笑みなのかも知れない……堕天使の微笑み……。
だって僕はもう……この事を一生忘れない、一生忘れられない……そしてこの先泉を一生思い続ける事になる。
何があっても……僕は一生忘れる事の出来ない魔法を……いや……呪いをかけられた。
堕天使からのキスという……呪いを……僕はかけられてしまった。
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