第102話 キスから始まる兄妹関係
いや、ちょっと待って……。
僕は一体何を考えているんだ!
妹とキスぐらい当たり前? は? どこにそんな兄妹がいる?
泉の唇迄あと十数センチの所で僕は止まった。
そもそも泉は一体どういう考えなんだ? 兄になら何をされても良いって思ってるって事?
一緒のベット、一緒にお風呂、今までも全く動じない、何を要求しても答えてくれる。
そしてこの間の件……僕が泉を襲おうとした時も……泉は黙って目を閉じた……。
泉はわかってるんだよね? こういう事……。
今時の高校生が知らないなんて事はない、少なくとも女子の方がかなり進んでいるって聞いたりする。
勿論泉も……僕がこの間何をしようとしたか……それを知っていて、それでも……。
最近の食事にしても……何故か栄養満点で、その……新婚の奥さんが作る様な……それ目当ての様なメニュー……。
新婚……そう、泉はまさに今新婚家庭にいる様な、そんなベタな行動をしている……。
つまり……これって……泉と僕の新婚初夜!?
いやいや、待って、ちょっと待って、そりゃ僕は泉が好きだよ? 忘れようとしたけど、出来なかったよ?
でもまさか……恋人通り越して夫婦になるなんて……あり得ない……。
泉にとって兄とは最も愛する人……恋人以上の人……この間それがわかった。
そしてその兄が妹を愛してるってわかる、相思相愛の関係になる……。
それは泉にとってはつまり、そういう事に、兄妹以上の家族……夫婦になるって事なのだ……。
いや、ダメだ、こんなの良くない、普通じゃない。
僕は寸前の所で泉の肩を掴み泉と、そして自分を止めた。
「……お兄様?」
泉がゆっくりと目を開ける。うるうるとした目、でもほんの少し眉毛が歪み何故止める? と言わんばかりの表情になった。
「だ、ダメだよ……」
「何故ですか?」
「だ、だって僕達は兄妹なんだから」
「……何故兄妹で駄目何ですか?」
「え? いや、それは」
泉は本気でそう言ってきた、それに対して僕は……答えられなかった。
何故兄妹でキスをしてはいけないのか?
僕達の血は繋がっていない、義理の兄妹……でも……違う……こんなのは違う。
だから僕は……泉に言った……本当の事を……今まで泉に打ち明けた事の無い……事を、僕の思いを気持ちを言った。
「……僕は……怖いんだ……」
「怖い?」
「うん……失う事が」
「失う? 何をですか?」
「……大切な人を……泉を……」
「……お兄様……」
「僕はね……幼い頃にお母さんを亡くして……そして……」
そして……父さんは仕事仕事の毎日になった。友達がなかなか出来ない僕に初めて出来た親友……愛真が唐突に居なくなって……僕にとって大事な人は、家族の様な存在は皆居なくなってしまう……そう思うようになった。
だから僕は怖くなった……そしてどんどん孤立した。
そして僕はメイド様に、絶対に裏切らない、離れない僕の命令を何でも聞いてくれる空想のメイド様に依存した。
そして今、目の前に最も大事な人が……メイド様以上に愛する人が……僕の愛する人が……出来てしまった。
もうこれ以上、この人を好きになりたくない……これ以上家族の様になりたくない……。
だって……いつも失って来たから、もうこれ以上失いたくないから。
父さんも義母さんも忙しい毎日……すれ違い生活による破局なんて良くある話。
仮にこの先二人が離婚なんて事になったら……僕と泉は兄妹じゃ無くなる。
そうなったら、泉は僕の事なんて……なんとも思わなくなるだろう……。
今は……今ならまだ……耐えられる……泉を失う事に……家族を失う事に……。
こういう言い方は二人に失礼だけど、今はまだ愛真や凛ちゃんがいる。
一人ボッチにはならなくて済む。
僕はもう……一人は嫌だ……もうあんな生活には耐えられない。
「だから……駄目……泉と……は……こんな事……しちゃ駄目だ」
僕は涙を流してそう言った。もう失いたくない……だからこういう事は出来ない、しちゃ駄目だって……泉にそう言った。
「──お兄様……」
僕がそう言うと泉はうつ向き少し考え……そして顔を上げるとニッコリと笑った。天使の様にニッコリと笑うと泉はそのまま僕の首に腕を回し……そして……僕に顔を近付けると……。
僕の唇に自分の唇を押し当てた。
僕と泉は……キスを……した。
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