第101話 キスって天ぷら以外に食べる方法あったっけ?


 キスの天ぷら……。

 天ぷらと言ったらエビだけど、僕はキス天が好きだったりする。


 うん、突然何を言ってるんだこいつって思うよね? 大丈夫わかってるよ、ただの現実逃避だから……。


 今、僕の目の前に泉がいる。そしてここは僕の部屋、両親は今日も不在……つまり当たり前だけど、今、この家は僕と泉の二人きり。

 

 泉は僕の傍らに腰をかけている。僕のベットの上で、僕に身体半分密着するようにぴったりと、泉の右半身を僕の左半身にくっつける様にしながら座っている

 そして少し上目遣いで顔を僕の方に向けている。

 

 泉の服は上下白いシルクのパジャマ、キラキラと光る生地、まるで泉が輝いているように見える……本当に天使が目の前にいると……錯覚してしまう。


 お風呂上がりで火照った顔、シャンプーと泉の甘い香りが僕の鼻腔をくすぐる。思わずくしゃみが出てしまう様なそんな刺激的な香り……さらに僕の太ももに手を起き、泉の顔は僕の直ぐに目の前にあった。


 そして……泉の目は閉じている……そう……これは勘違いではない……間違いなく泉は僕にキスをしてと……迫っていた。


 

 とりあえず何でこうなったか……その経緯を話しておこう。



 まあ……なんて事はない、夕ご飯を食べてる時に僕は泉に言った。「大事な話があるんだけど」って、少し長くなるからと前置きをして。


 すると泉は「お風呂に入ってから行きます!」と言ってきた。


 まあ話が終わったら直ぐに寝るのだからとあまり気にせずに「わかったよ」とそう笑顔で僕は返事を返した。


 そして泉はお風呂上がり僕の部屋に入って来る。そしてそのまま一直線にベットに座った……僕の部屋に入るなり、いきなりベットに座る泉……まあどこに座るか決まっているわけではない、ここは教室でもない、僕はとりあえず気にしないようにして、泉の隣に腰掛け、まずは今の現状には満足している事を、泉に伝えた。


 そりゃそうだよ、大好きな憧れの人にここまで尽くして貰って不満なんてあるわけが無い。とりあえずそれを泉に伝えたんだ。


「お兄様……嬉しい……」

 泉は目をうるうるさせて笑顔で僕にそう言った。

 大好きな泉……ずっとこうしていたい、ずっとイチャイチャしていたい……でも、せめて学校では、僕の気持ちは変わらないけど、学校では今まで通りに凄そう……僕は泉にそう言うつもりだった。

 「泉……大好き、で」

 でも学校では……僕はそう続けようとした……しかし泉は僕の大好きに被せる様に言った。

 「お兄様! 私も、私もお兄様が大好きです!」

 そう言い、泉はその美しく可愛い奇跡とさえ思える顔をさらに僕に近付けた。

 

 今まで女子の顔をこれ程迄近くで見た事はない……なので女子の皆がそうなのかわからないけど、その綺麗な肌に僕は目を奪われた。泉の顔は、その肌はまるで卵の様なツルツルした肌だった。そして僕とは比べ物にならない位の決め細かさ、少女の様な、そう……ミイちゃんの肌と同じ……いや、それ以上だった。

 シワ一つ無い、吹き出物一つ無い、赤ちゃんの様な美しさに……僕は思わず目を奪われた。

 今思えばこれも勘違いの原因の一つなのだろう……泉と長時間じっと見つめ合う事になってしまったからだ。

 直ぐにさっきの続きを話せば良かった。そうしたらこんな事態にはなっていなかったかも知れない。


 僕はこんな事になるとはつゆ知らず、暫く泉の肌をまじまじと観賞していると、泉の瞳がしっとりと濡れている事に気が付く。

 

 そして泉は僕を見つめている事に、僕達は見つめ合っている事になっている事に気が付いた。

 そして、僕をじっと見つめる泉の大きな瞳……うるうるとした大きな瞳、その瞳がゆっくりと瞼で閉じられて行った。


 わあ……睫毛長いなあ……と思った瞬間に僕は我に帰った。


 あれ? これって……どういうシチュエーションだ? なんか……ヤバい状態な気が……。

 そうだよ、これって……とそう思った瞬間確定的な言葉が、泉の口から吐息と共に漏れた。


「お兄様……どうぞ……」


 これが経緯なんだけど、僕は泉が何か勘違いするような事言った?

 全く身に覚えがない……何で泉は僕にキスをせがんで来ているのか?

 

 なんにせよ、こうなってしまったのだから仕方ない……。


 僕と泉の唇の距離は30cmも無い、そしてこんなシチュエーションは何度も想像した、何度も枕で練習した。

 何年も練習した、数千回の練習……僕は恐らく日本一泉とキスをした……想像した人間だろう。


 それが今実現しようとしている……想像が空想が現実になろうとしている。


 この間とは違う……無理やりとかじゃ無い。


 そして僕の頭に一つの結論が導き出される。


『キスぐらい……兄妹でもするよね?』


 僕は泉に、そのピンク色のぷっくりとした唇に、ゆっくりと自分の唇を近付けて行った。

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