第100話 ヒエラルキー崩壊
「ふふふ、ふふふふふ」
「う、嬉しそうですね……」
「はい! とっても!」
泉はニコニコしながらそう答えた……。
今までも時々一緒に近所のスーパーへ買い物に来ていたけど、さすがに腕を組みながらの買い物はしなかった……。
僕と泉は、今時新婚の夫婦でもしない様なラブラブな状態を(主に泉が)醸し出しながら買い物をしていた……。
「お兄様今夜も二人きりですね」
「あ……そ、そうなんだ……」
毎晩帰りが遅く、出張も多い僕達の両親、それにしても父さんも義母さんも本当に良いのだろうか? 僕と泉をほったらかし状態にしておいて……。
いくら兄妹と言っても、年頃で血の繋がらない僕達を二人きりにしておくなんて……いや、まあ……泉を押し倒しておいて、おまいう? ってのはわかってるんだけど……。
あれから数日……泉は僕に貼り付きっぱなし状態……もう僕のプライベートはどこ? ってレベル状態……トイレに言ってくるって言わないと、お兄様お兄様どこですか? って家で叫ぶくらいな状況……まあこの間心配かけたから仕方ない……のかなあ?
しかも今や兄妹と言うより、親子の様になった僕と泉……そう……泉の目が、僕を見る目が……日に日に子供を見る様な、自分の子供を見る様な……そんな目になっている。
物凄く泉に愛されてるって実感はあるんだけど……でも……それも兄だからって理由なのだから、やはり今一嬉しくない……。
かといって、兄妹なのは間違いない……僕は泉の事を今でも愛している事に変わりはない。
なのでどうにもならない、忸怩たる思いのまま今に至っていた。
スーパーでまたもや色々と買い漁る泉……えっと……何でそんなに精の出そうな具材や飲み物を買うんだろうか……ユン○ルとか誰が飲むの? 父さんかなあ……。
今まで使った事のない材料を買い込みスーパーを後にする……その間ずっと僕の腕にしがみつき僕を離そうとしない泉……いや、嬉しいよ、嬉しいんだけど……。
そしてこの泉の変化によって、僕の心配事が一つ増える……そう、間もなく冬休みが終わる……つまり僕と泉はこのままの状態、状況で……学校に行く事になる……兄妹になったばかりの時もそうだったが、泉は学校でも家でも僕に対する態度は変わらない……ゆえに、このままの状況で関係で一緒に学校に行く事になる可能性が極めて高い。
僕が今、最も心配しているのがそれだ。
僕と泉が兄妹になった事は周知の事実となっている。だからカースト頂点の泉と僕が多少一緒にいても今までは問題なかった……しかし……今のこの状態が、これからも、学校でも続くとなると……これはかなりの問題が生じると思われる。
要するに学校で僕と泉がイチャイチャしたら、ヒエラルキーが崩壊するって事だ。
ヒエラルキーなんて崩壊した方がいい……って思う人も居るだろう……でもね、僕みたいなベテラン底辺カーストからしてみたら、ヒエラルキーってあった方がいいって思う事も多いんだ。
例えば体育のペアや、修学旅行等の班分け……なんとなく決まっているクラスカーストがあるお陰で、虐めにあったりしなかったりする。
まあ、うちの学校は県内でもかなりレベルの高い学校なので、学力は皆そこそこ高い、なので虐め等で自らの価値を下げる者はほぼ居ないのだけど……。
その代わりと言ってはなんなんだが、うちの学校内ではヒエラルキー以前に家柄の差と言うものがある。泉もそうだけど、かなりのお嬢様等も在籍しており、学校内ヒエラルキーというよりは、世の中のヒエラルキーが、カーストがここに、この学校に集約していると言っても過言ではない。
そのヒエラルキーがしっかりと根付いている為に、それぞれ財力や家柄が同等と思える者同士でつるむので、のけ者になりにくい……と言う利点がある。
まあ、当然僕は最下層……と言うかつるむ相手も居ない……居なかったカースト底辺……。
そんな底辺の、透明人間の僕が突然泉と兄妹となり、さらには学校内で恋人の様にイチャイチャし始めたらどうなるか?
学校の伝統が、ヒエラルキーが崩壊してしまう……かもしれない。
大袈裟に言ってるけど、これは言っている以上に恐ろしい事になりかねないんだ。
考えても見て欲しい、ヒエラルキーが崩壊した学校内で、かなりの家柄のお嬢様がどこの馬の骨ともわからない様な……僕の様な男と簡単にお付き合いとか始めたら……。
そんな事が頻繁に起こったら……。
どこかの国のお姫様や王子様が、一般人と結婚するってなった時のニュースや報道って見た事あると思うけど……はっきり言って凄いよね……。
もう隅々までチェックされ、ちょっとでも問題があれば避難され……。
なにも問題が出て来ないって、どんな聖人君子だよって思った事あると思う。
それがいかに大変かって事を……。
そんな事が平気でまかり通る、ヒエラルキーが無い、生徒は皆平等なんて事になったら、恐らく来期のお嬢様達の入学は激減するだろう。
お金持ちが減ると言う事は、寄付金の大幅減少を引き起こし学校運営に支障をきたす……僕と泉は学校を崩壊させた兄妹として後世まで語り継がれる事になる。
平等なんて幻想だ……それは僕が一番わかっている。
資本主義だからこそ、経済が発展する。
まずい……このままでは非常にまずい……。
なんとかしなければ……。
コアラの様に僕の腕にしっかりとしがみつく泉を見て……僕はこの状況をなんとかしないといけない……と、そう思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます