第30話 あんたばかぁ?

「ぼ、僕は……」


 凛ちゃんが僕を見つめる、僕の憧れ、メイドアイドルの凛ちゃんが僕を。


「そう……せっかく佐々井君と友達になれたと思ったのに……」

 凛ちゃんの目から涙が! ポロポロと涙を流す凛ちゃん。


「あ、え? あれ? えっと」

 え? なに? 何で泣くの? え?


「佐々井君の事……私佐々井君の事……」

 顔を押さえて泣きじゃくる凛ちゃん、え? これって……


 これってつまり……僕は泉が、泉は凛ちゃんが、凛ちゃんが僕がっていう、いわゆるこれが……三角関係って事!!


 あ、愛真はどうでもいいや……


「え、ちょっと凛ちゃん、ごめんね、えっとえっと、その……違うんだ」


「違う?」

 そう言いながら顔を上げる凛ちゃん。ウサギのような真っ赤な目で僕を見つめる、えっと何この可愛い動物は?


「えっと、その実は……実はね……泉が、泉がその……凛ちゃんの事を」


「泉さんが私の事を?」


「泉が……その……凛ちゃんの事を好きなんだ……」


「は?」

「は?」


 ん? あれ? 今なんか声が多重で聞こえたぞ?


「お兄様? 今なんておっしゃいました?」


「え?」

 そう言われ振り向くとそこにはニッコリ笑った泉の姿が、いや、笑ってない、笑ってないよ、目が、目が全く笑ってないよ……



「あ、ああああああ、ご、ごめん、僕、つい」


「つい? つい何ですか?」


「つい、泉の事を、ごめん、ごめんなさい、こういうのは泉が直接言わないと行けない事」


「ですからこう言う事って何ですか?」


「いや、だから……」


「お兄様、はっきり言って下さい!」


「だから! 泉が凛ちゃんの事を好きって事だよ!」


 ああ、言っちゃった……これで完全に終わった……僕の恋は……これで完全に…………



「えっと……お兄様? 何故そんな事を思いになったんですか?」


「え?」


「佐々井君……あんたばかぁ?」


「え? え?」


「真ちゃん……何いってるの?」

 泉の後ろからさらに愛真が追い討ちをかける。いや、待って、え? どういう事?


「え? ひょっとして……違うの?」


「あ、当たり前です! 私はノーマルです!」


「あーー、まあ、私は嫌いじゃないけど……泉さんはちょっとね」


「一萬田さん、それはどういう事ですか?」


「えーーーー、だってさ、泉さんは嘘つきだからね」


「失礼ですね貴女、いくら委員長だからって言って良い事と悪い事がありますよ!」


「だって~~泉さんてさーー」


「ちょっと待って、待って、喧嘩しないで、え? 違うの? 本当に?」

 今の感じは……え? 間違いなく泉は凛ちゃんの事を好きじゃない感じがする。

 あれ? あれあれ?


「お兄様は何故そんな事を?」


「えっとそれは……」

 えっと、なんだっけ? 誰か覚えてる? 僕は今思い出したよ。



「僕が凛ちゃんの事を言ったら、泉の機嫌が悪くなったから」


「え?」

  僕がそう言うと、泉の顔が赤くなる……ほら、これ、これだよ!


「あははははは、真ちゃん、それってただの焼きもちじゃん」


「え? 焼きもち?」


「え、愛真さん!」


「そ、そうだよ愛真、そんなわけ、だって、僕が凛ちゃんと友達になったって言ったら、凄くホッとした顔してたんだよ」


「お、お兄様!」


「だからそれは」


「え、愛真さん!」


「それは?」


「あ、えっと、その……そうです、お兄様が、やっと、やっと友達を作る気になってくれたので、それで」


「あ、ああああああああああ!」

 そう言えばそんな喧嘩を、ああ、それで……

 僕もそれで凛ちゃんと友達になってって言ったんだ。


「え、じゃ、じゃあ、全部、僕の勘違い?」


「そ、そうです!」


「そうだったんだあああああ」

 僕は頭を抱えた、えーーーそうなの、何、全部僕の勘違いなの?


「あははははは、真ちゃんのばか~~~~」


「うるさい愛真! そうか、そうだったのか……ごめん泉、ごめん凛ちゃん」


「お兄様ったらもう」


「私別に被害ないし~~」


「あ、でも凛ちゃん泣かしちゃったし、本当にごめん」


「あ、あれ? あれ嘘泣きだから」


「えーーーーーーーー!」


「だから言ったでしょ、私嘘つきだから」

 ケタケタと笑う凛ちゃん、嘘つき嫌いな嘘つきってもうどこまで嘘かわからないよ。


「そんなああああ」


「まあまあ、良いじゃん、さあ次は何乗る」

 相変わらずの空気の読めない愛真……でも今日は本当に助かる。


「そんな青い顔して……」


「大丈夫大丈夫! さあ行こう、次はこの落ちる奴が乗りたい!」


「しょうがないなぁ」

 何事も無かったか様に振る舞ってくれる愛真、でも色々腑に落ちない事があるんだよな……凛ちゃんの涙とか泉の態度とか……

 でも良かった……僕の勘違いだったんだ、本当に……良かった。


 でも……



「本当に嘘つき……」


 次の乗り物に向かう時、誰が誰に言ったのか……その小さな声が微かに聞こえてきた……誰が嘘つき? 僕はそれが気になっていた。

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