第29話 嘘がわかるの……


「じゃあとりあえず何かに乗ろう、えっと……」

 ジェットコースターは怖いし、二人とはぐれるにはちょっと無理だよね。

 やっぱり観覧車かな? 乗る手前でこけて二人だけ乗せるってのが今回の作戦なんだよね、完璧でしょ?


「えっとじゃあ、かん」


「ジェットコースターだよね、やっぱり、ここのジェットコースターなんか変で前から乗りたかったんだよね~~」


 くっ! また愛真がシャシャリ出てきた、ここは僕の要望を聞く所だろ! 空気読めよ!


「そうね、私も乗ってみたい、お兄様いいかしら?」


「いいよいいよ、僕も乗ってみたかったんだ! あははははは」

 泉にそう言われれば断れるわけもなく……僕のバカぁ……


「あ、じゃあ私チケット買ってくる! 待ってて!」

 そう言って愛真がチケットセンターに走っていく……結構高いヒールを履いてるのでちょっと心配……こけるなよ……この後僕がこけにくくなるだろ。


 愛真が戻って来ると皆でジェットコースター乗り場に移動する。多少の混雑あるものの10分くらいの待ち時間で乗れた。

 係員に誘導されジェットコースターの席に向かう。


「私~~真ちゃんのとーなりーー」

 相変わらず空気読めない愛真だが、ここは上手いぞ! 


「ちょっと愛真さん、お兄様の隣はいつも私なんですが!」

 ええええええええええええええええ!

 ちょっとちょっと、泉さん? 何言っちゃってるの? 貴女が空気読めなくてどうするの? 凛ちゃんが隣に座るんだよ? キャーーとかいってしがみついてくれるんだよ? チャンスなんだよ?


「えーーーー、まあいいか、ここは妹さんに譲るか」

 おいおいおいおい、ちょっと愛真、いつもの強引な愛真はどこに行った?

 あの小学校の時に強引だった愛真はどこへ? ああ、あの時の愛真はもう死んだ。


「早くお兄様!」

 何でそんなに楽しそうなの? 泉さん、本当にカースト最上位なの? そんなに遠慮していて、何であんなに友達出来るの?

 周りからの早くしろ的な視線に僕は仕方なく泉の隣に、後ろからはしゃぐ愛真の声が聞こえる。隣ではワクワク顔の泉……そう言えばなんだか凛ちゃんの機嫌が悪そうな気がするんだけど……

 

 そんな事を思っていると、不意に振動が……ジェットコースターが動き出すと僕はある事を思い出す。


「あ……僕ジェットコースター初めて……」


「お兄様?」


 そうだった、そもそもジェットコースターどころか、遊園地に来ること自体初めてだ。ヤバイヤバイヤバイヤバイ……怖いいいいいいい!


「泉……」


「お兄様? 大丈夫ですか?」

 僕の不安を察知したのか泉がそう言って声を掛けてくれる。ううう情けないけど、そんな事を考える余裕もない……怖いうわうわ高い!

 そうだった、あまり出掛けたりしないから気が付かなかったけど……僕多分……高所恐怖症だ……めちゃくちゃ怖い……足がすくむ。


 どんどん高度を上げて行くジェットコースター、ああああああ、もうダメ目も開けられない……


「お兄様大丈夫ですか? お兄様? おにい……」

 泉の声が止まった瞬間に突然重力を失い、内蔵が持ち上げられるような感覚が襲う。


「きゃああああああああああああああああああああ」

 後ろから愛真の悲鳴が、怖い怖いいいいいいいいい!

 目をつむっていても襲って来るスピード感覚、そしてごーーーーっという激しい音、空気を切り裂くような風。

 なんで、なんでこんなものに皆乗るの? 高いお金出して? バカなの?

 上下左右に激しく揺さぶられる。目をつむっているので何処をどう言う風に走っているかわからない。

 あとどれくらい? どれくらいこれを我慢していれば終わるの、やばい…吐きそう……

 そう思っていたら、不意に僕の手に温もりが……前の手すりを掴んでいる手の甲に誰かが触れている。


「おかあさん?」

 天国の母さんが僕の手を握っている。僕は思わず目を開けた。

 泉が隣から手を? 僕は思わず泉の方を見る!

「お兄様、私が居ますから」

 僕の手を優しく握り、僕の方を向いて優しく微笑む泉が……


「うん」

 僕がそういうと、泉は再び前を見る。風が泉の髪を巻き上げその美しい黒髪は光を帯びてキラキラと輝いて見えた。ああ天使だ、やっぱり泉は天使なんだ。

 天使が横にいる。こんなに心強い事はない。

 僕の体の力が抜ける。恐怖から楽しさに変わる。

 

 泉……



####



「うううう、私ちょっとトイレに……」

ジェットコースターから降りると愛真が口を押えフラフラとトイレに向かう。僕は最初あれだけ怖かったのに今は全然平気だ、初めてのジェットコースター、最後はまた乗りたいなんて思っていた。


 僕より愛真の方がダメージは大きい、ずっと叫び続け最後は放心状態になっていた。


「私ちょっと一緒に行ってきますね」

 泉が愛真に付き添いトイレに向かった。さすがはクラスカースト最上位、こういう気遣いが人気の秘訣なのか?


 残された僕と凛ちゃんは近くのベンチに座って二人を待つことにした。



「ねえ……佐々井君、今日は一体なにが目的なの?」


「え?」

 座った直後凛ちゃんからそう話し掛けられる。

 えっと……まだ早い僕から言えない、こういうのは当人が、泉が直接言わなければ。

 そう思い僕は白を切ろうとした、しかし……


「あのさ、私ね……人を見る仕事、人から見られる仕事をしているの……自慢じゃないけどお店のナンバーワンだし、コンテストでも優勝してるの……今の佐々井君はいつもの佐々井君じゃない」


「え?」

 いつもの僕じゃない?


「佐々井君……なにか嘘ついてるでしょ?」


「な、なんの事かな?」


「ほら目を逸らした、私分かるのそういうの」


「いや、僕は」


「あのね、私、佐々井君から友達になってくれって言われて、嬉しかったの……佐々井君て凄く大人しいってイメージだったからちょっとびっくりしたけど……私ね……嘘がわかるの……友達が嘘を付くのがわかっちゃうの……だからあまり友達を、親しい友達を作らなかったの……学校でも……皆を避けてた」


「凛ちゃん」


「でも……まあ、私自体が嘘つきだからね、正体を隠して、内緒で働いて……でも……だからこそ佐々井君には嘘をついて欲しくない……」

 凛ちゃんはそう言って僕を見る、見つめる。 その悲しい顔、寂しそうな瞳から今度は目を逸らせなかった。



 






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