クルトンちゃん奮戦記💣
クルトンちゃんは偉い。
わかってたことだけどほんとに偉い。
こんな女子高生がいることにわたしは感動すら覚えちゃうさ。
・・・・・・・・・
「あれ? クルトンちゃん。こんな寒い日にコートも着ないで」
ダイナーにたどり着いたクルトンちゃんはガタガタ震えている。
春は間近といえ、今朝はちらほらと雪が降った寒さだ。
「さあさあ。ココア飲んで」
「うん。ありがとう、せっちゃん」
心配になってわたしは訊いてみた。
「クルトンちゃん。もし、いじめとかだったら、わたしに話してね?」
「エンリちゃん、ありがとう。でも、違うんだ」
「どうしたの?」
「あげたの」
「コートを?」
「うん」
「誰に?」
「多分、生活保護を受けてる人」
「ええ?」
話そうとしないクルトンちゃんを何度も促して、ようやく話してくれた。
「その男の人ね、電車の中で色んな人に声かけてて。『タバコ、持ってねえか』って」
「なにそれ。ダメじゃない」
「もちろん。でもさ、エンリちゃん」
「うん」
「話しかけられて、何も返事しないっていうのも、変でしょ?」
クルトンちゃんの感性に脱帽した。
「だから、わたし、返事したんだ。『禁煙です』って。そしたらその男の人、わたしにこう言ったの。『クソが!』って」
「ひどい奴」
「うん。そう思った。でも別の人にまたタバコねえか? って訊いてるの見て、やっぱり言わないわけにいかないな、って思ったんだ」
「う、うん」
「『タダのモノって、この世にないと思います』って」
ああ・・・その通りだよ、クルトンちゃん。でも・・・
「大丈夫だった? クルトンちゃん」
「ううん。大丈夫じゃなかった。頭を叩かれちゃった」
「えっ!?」
「軽く、だけどね」
「え、駅員さんに言わなかったの?」
「うん。だって、現実的に考えたらそういう人相手にわたしが注意みたいなことしたらどんな目に遭うかってことは想像できたもん」
「でも・・・」
「だから、わたしはもともとそれを覚悟の上で言ったから。あとはわたしの問題」
「で、でも、どうしてそんなことされてまでコートを?」
「唾を吐かれたから」
「え」
「コートに唾を吐かれたから!」
わたしは、クルトンちゃんを抱きしめたくなった。
そして、我慢できずに抱きしめた。
だって、クルトンちゃん、泣いてるんだもん。
「エンリちゃん、わたし・・・わたし・・・」
「クルトンちゃんは正しい。絶対に正しい。間違ってるのはね・・・」
わたしは逡巡したよ。
何度も何度も言うべきか言わざるべきか、この短い時間で悩みに悩んだよ。
そして、決めた。
「間違ってるのは世の中だよ!」
堰を切ったようにクルトンちゃんは嗚咽した。
自活を放棄した男性。
その男性に話しかけられても無視する人たち。
そして唯一返事をした女子高生を見殺しにする人たち。
軽くはたかれただけだと、彼女の受けた屈辱をスルーする人たち。
男の唾液のついたコートを、放棄する彼女に、それでも声をかけない人たち。
そんな奴ら全員・・・
「死ねばいいんだっ!」
「ボ、ボン!?」
「全員、死ねばいい! こんな世の中に誰がしたんだよっ!」
みんなしてボンをなだめた。
クルトンちゃんまで、ごめん!、ごめん!って言いながら、ボンをなだめた。
それほどまでに激しい姿を見せたボン。
わたしはクルトンちゃんのことをいい子だとずっと思ってた。
でも、ただいい子なんじゃなくって、とても深い悲しみと、そして激しさを抱えた子だって、よく分かった。
ボンのことも随分と知った気になっていた。
でも、ボンも。
わたしの知らないボンだった。
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