ハサンてつまりご破算のハサン!?📉
朝出社すると水田課長が焦ってた。
「
「? 急病か何かですか?」
「いや、そうじゃない・・・それと、今日、落とせなさそうな手形がいくつかある」
「えっ!?」
ウチは超絶零細企業だ。わたしはお客さんとの営業窓口であるだけじゃなく、自分で伝票を書き、代金回収もやってるので経理に携わってる。
だから、手形が落とせないことが会社にどういう結果をもたらすかはよくわかっている。
あっけなかった。
午後、手形が不渡りとなった。
事実上、ウチは倒産する。
「社長はどうやら顧問弁護士の先生とは連絡を取ってるらしい。自己破産申請の準備に入るって専務に社長から電話があった」
あれ?
社長、もしかして、わたしたちから逃げてるの?
電話がひっきりなしに鳴り続ける。
ウチが支払いのある仕入先の会社からバンバンかかってくる。
「はい、はい、申し訳ありません! まだはっきりしたことは・・・」
「はい、はい・・・だから、まだわからないって!」
電話は鳴り止まない。
どうやらまだ弁護士の先生から破産申立を受任したという連絡が関係先に流れていないようだ。
通常はまずその通知を関係先に一斉送信して、後の連絡窓口を弁護士に任せるのに、それすら社長はできていない。
入社したばっかりの時は、親みたいに思ってたのに。
いや。
親だって年取れば非合理的な思考になって自分のことしか考えなくなるもんな。社長だからって責める訳にいかないか。
とにかくも電話は日付が変わる頃まで鳴り続け、会社に乗り込んでくる取引先の人までいた。
「オタクの営業車、もらってっていいかい?」
「困ります! 法的にそんなことする権利ないでしょう」
「じゃあ今すぐ買掛払えや!」
しかも、何ヶ月分も払いが滞っている取引先もあり、社長はそれを一般社員には黙っていた。
幹部だって同罪だ。
役員が「それでいいんだ」って言ったら、なんでもいいの?
役員が決めた経理上の不適切な取り扱いについてわたしが専務に噛み付いた時、
「遠里、大人になれよ!」
ってわたしを恫喝した水田課長。
どっちが大人だったんだろうね。
次の日。
社員の半分が出勤しなかった。
当然だよね。
給与なんかの労働債権が優先されるとはいえ、口座に一円もなければどうにもなんないよね。
「エンリ先輩〜。大変なことになりましたね〜」
「ごめんね、カミちゃん。せっかくインターンで入ってくれてたのにこんなことになって。カミちゃんのご両親にも申し訳ないよ」
「大丈夫です〜、いざとなったら小説で食べていきますから〜」
うーん。異次元。彼女の場合、本当に作家専業の方が儲かるような気がするし。
「さて、お客さんや取引先の後始末をつけたら、どうしようかな。ハロワ行かなきゃなー」
「エンリ先輩も〜、小説で生活しましょうよ〜」
「残念ながら、わたしには無理だよ。カミちゃんは小説もそうだし、今度が四年生だからまだ就職活動なんとか間に合うでしょ? 応援するから頑張りなよ」
「エンリ先輩〜」
「うん」
「わたし〜、エンリ先輩と一緒に仕事できてよかったです〜。ずうっと生涯お付き合いさせていただきたいです〜」
「はは、ありがと。わたしでよければこちらこそ」
人生の僅かでも、みんなとは縁だったのかな。
一週間かけて自己破産申請も受理され、後始末もひと段落して久しぶりにせっちゃんのダイナーへ行った。
「エンリちゃん。お疲れ様」
「あ、せっちゃん、ありがとう」
カフェ・オレだ。
砂糖、たっぷり入れてくれてる。
そして、これからどうするの? なんてことも訊かれないし。
ああ、ほっとするなあ・・・
「エンリさん! これからどうするんですか!?」
「ボン!」
デリカシーのないボンをせっちゃんが叱ったけれど、まあこれがボンだ。
「いいよ、ボン。そうだなあ。どうしようかなあ」
「エンリさん、もしお金ないんだったら、僕、貸しますからね!」
「はは・・・ボンに借金するようになったら、世も末だよ」
「ぐう・・・」
悪いけど、と断ってダイナーからアパートまでは1人で歩いて帰った。
何度か、月を見上げながら。
「地元・・・帰ろっかな」
多分、これが一番現実的なんだろうけどね。
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